スマートシニア・ビジネスレビュー 2004年10月12日 Vol. 60

neuron「いくつになっても人は変わることができる」
日野原重明先生は、よく、こうおっしゃっています。

しかし、多くの年配の方は「それは、日野原先生のような
"特別な人"だから言えること。私には絶対無理」と言います。


ところが、この、
「いくつになっても人は変わることができる」
と言う言葉は、単なる精神訓ではなく、
実は、科学的な裏づけのあるものなのです。

そのことを、9月18日放送のNHKスペシャル
「あなたの脳はよみがえる」が伝えていました。

イェーテボリ大学のピーター・エリクソン博士が、
高齢者でも脳の神経細胞が、
新しく生まれてくることを発見しました。

これは、これまでの脳科学理論の"常識"を
ひっくり返す画期的なものだそうです。

ちなみに、これまでの"常識"とは、
「高齢者の脳細胞は、死滅していくのみ」
という考えです。

新しく生まれた神経細胞は、
脳の「海馬」と呼ばれる部位で見つかったとのこと。
この海馬は、新しい記憶をつかさどる役割をもち、
重要な情報は、ここから大脳の各部位に伝わり、
記憶されるのだそうです。

しいのみ学園という知的障害をもつ子供向けの
学校の園長を務める昇地さんは、
98歳の今も現役で活躍されています。

一般に、高齢になり脳機能が衰えた人の場合、
海馬が萎縮してしまうのですが、
昇地さんの場合は、まったく萎縮していない。

昇地さんは、言語障害をもつ子供たちのために、
これまで1000種類以上の教材を
自分で工夫して考えてきました。

また、仕事柄、言語に対する関心が高く、
日本語以外のいくつかの言語も独学で勉強してきました。
中国で同様の教育を行う夢をもち、
その実現のために95歳から中国語の勉強を始め、
今年中国にわたり、中国語で講演もこなした方です。

脳の専門家によると、こうした活動が、
海馬と前頭前野という部位とのやりとりを活性化し、
その結果、どちらも萎縮せずに発達するのだそうです。

こういう話を聞くと、
「確かにすばらしい。でも、そういう人は、
もともと教育レベルも高く、
勉強好きな人だからできるんでしょう」
という人も少なくありません。

しかし、興味深いのは、
いったん痴ほう症になった人でさえも、
脳細胞がよみがえり、
痴ほう症が回復するという事実です。

102歳の大宮良平さんは、
16歳から消防署に勤める消防マン。
70歳から腰痛防止のためにマラソンを始めました。

ところが、85歳で脳梗塞になり、
89歳で奥さんが亡くなった頃から、
痴ほう症が始まりました。

しかし、4年前から家族が外に引っ張り出し、
99歳で再びランニングを復活しました。
今では、毎日欠かさずランニングを続け、
陸上大会にも出場するほどです。

脳には白質と灰白質という部分があります。
灰白質が神経細胞の発達する部位なのに対し、
白質は神経細胞同士をつなぐ
神経ネットワークが発達する部位です。

灰白質の発達は、10代でピークを迎えるのに対し、
白質の発達は、50代でピークを迎えます。
しかし、どちらも通常は、ピークを迎えた後、
徐々に減っていきます。

ところが、このように適度の運動を継続すると、
BDNFという脳内物質が分泌され、
白質の神経ネットワークの発達を促すのだそうです。

脳というのは、"筋肉"に近い。
つまり、使えば、使うほど強くなり、
神経が発達していくのです。

私がアメリカで初めて
カレッジリンク型老人ホームを訪れた時、
平均84歳の入居者に要介護状態の人は一人もおらず、
皆本当に若々しく、元気に暮らしていることに
衝撃を受けました。

そういう生活環境が、いかに人を元気にするかは、
実感として理解できました。
しかし、その科学的根拠は、何もありませんでした。

そんな理由から、最先端の脳科学の研究成果は、
こうしたカレッジリンク型老人ホームの有効性を
科学的に裏付けるものであると、
私自身の取り組みへの大いなる啓示になりました。

同時に、痴ほうケアや介護予防に取り組む人にとっては、
痴ほう症の方への精神的なケアに加えて、
脳科学の最前線を常に把握しておく重要性を痛感しました。

別にこれは「科学が何でも解決してくれる」というような
盲目的な科学信仰ではありません。

脳科学の最先端の研究を知ることで、
たとえ痴ほう症の高齢者の方でも、

「人は、いつでも変わることができる」
と心底信じることができるのです。

そして、実は、これは、
痴ほう症の高齢者だけではなく、
すべての年齢の人にあてはまる。

そのことも信じられる気がするのです。

*本稿執筆当時、痴ほう症と呼んでいた名称は、現在認知症に変わっています。

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