「仕事」と「消費」で高齢者は社会参加へ

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リベラルタイム3月号「日本の高齢者」の未来

「超高齢社会・日本の未来」というテーマ

月刊誌リベラルタイム3月号の特集「豊かな老後」「不幸な老後」に『「仕事」と「消費」で高齢者は社会参加へ』と題した小論を寄稿しました。今回の小論は、編集部より「超高齢社会・日本の未来」というテーマで2,500字程度で執筆してほしいとのご依頼があり、寄稿したものです。

拙著「シニアシフトの衝撃」上梓以来、多くのメディアから取材や寄稿のご依頼をいただいています。ただ、それらのご依頼のなかには、お決まりのテーマや表面的な質問にとどまるものがしばしばあり、せっかく対応してもがっくりくることがあります。

しかし、リベラルタイムという雑誌は、最近では貴重な硬派のジャーナリズム雑誌であること、そこからご依頼いただいたテーマが、久々の直球勝負のものだったので、私としてもそれなりに気合を入れてまとめたものです。

限られた字数なので記述が不足している部分もありますが、「超高齢社会・日本の未来」に対する、現時点の私の問題認識と解決策の方向性を示したものです。ぜひ、お読みいただき、忌憚のない感想をお聞かせいただければ幸いです。以下、寄稿した全文を掲載します。

「仕事」と「消費」で高齢者は社会参加へ

人類未曾有の超高齢社会には多くの問題がある。個人レベル、国レベルとも問題は深刻さを増している。個人でも心構えと国の対策が必要だ。

個人を襲う「孤独不安」

リベラルタイム2014年3月号_2-1

個人レベルの問題は、各々の個人によって異なるが、健康不安、経済不安、孤独不安が多くの場合、共通の問題となっている

健康不安では、とりわけ病気になり要介護状態になって自立した生活ができなくなることへの不安が大きい。近年は認知症への不安も増している。

経済不安は、健康不安と結びついている。病気で入院したり、要介護状態になったりすると、長期にわたり医療費や介護費が必要になる。年金支給額はほぼ一定なので、不足分は、手持ち資産を食いつぶし、生活資金が枯渇してしまうことへの不安が大きい。

孤独不安は「いきがい不安」とも言える。とりわけ定年退職後に社会との接点が少なくなり、自宅に引きこもり気味となり社会的孤立状態になりやすくなる。これが認知症や運動不足による筋肉の衰え(廃用性症候群)や、ひざなどの関節障害を引き起こしやすくして、健康状態を悪化させる。

このように高齢者の健康不安、経済不安、孤独不安は互いに密接に関連しており、悪循環が起きやすい構造となっている。

将来世代への負担

国レベルでの最大の問題は、年金・医療・介護などの社会保障費の増大による歳出増大と、経済活動縮小による歳入減少とにより、財政赤字が拡大し、財政破たんのリスクが高まり、国際的な信用不安から円が大暴落することだ。

実はこの問題は2010年から起きたギリシャの経済危機で現実化している。EU内での対処の結果、幸い国際的な通貨暴落は起きなかったが、財政赤字の拡大が信用不安につながることがまざまざと示された。

しかし、この問題はギリシャだけでなく、超高齢社会に突入している日本を含む多くの先進国が共通に抱えている問題でもある。

社会保障費の増大は、受給者である高齢者の増大による2012年度の社会保障費は109.5兆円。内訳は年金53.8兆円、医療35.1兆円、介護・福祉その他20.6兆円(うち介護8兆円)となっている。

2025年度には年金60兆円、医療53兆円、介護・福祉その他31兆円(うち介護16兆円)と予測されている。2012年度比でみると、年金1.1倍、医療1.5倍、介護2倍となり、医療・介護費の増加割合が大きい。

一方、社会保障費の財源は、2012年度で保険料60.6兆円、国の財政負担29.4兆円、地方財政負担10.9兆円、不足分8.6兆円は資産収入等で賄っている。また、国の財政負担29.4兆円は、国の一般会計歳出全体の33%に及んでいる。

これに対して歳入は、46.9%に当たる42.3兆円が租税と印紙収入で、49%に当たる44.2兆円が国債発行などの公債金収入に依存している。つまり、歳入の約半分を借金に依存しており、これは将来世代への負担となっていることも問題だ。

いまやるべきことは何か?

まず、個人レベルでの問題解決のためには、認知症や要介護状態にならず、自立した健康状態を維持し、経済不安を少なくし、社会的孤立を防ぐことである。そのための最善の方法は、定年退職後も何らかの仕事をして、年金以外の副収入を得ながら、仕事を通じて社会とのかかわりを維持することだ。

年金以外の収入を得られると、第一に、生活に余裕が出る。旅行に行ったり、孫にプレゼントをあげたり、といったことがしやすくなる。第二に、生活にリズムが出る。第三に、仕事を通じて社会とのつながりが保て、生活に「張り」が出て、気持ちも明るくなり、ボケ防止や介護予防にも役立つ。

したがって、企業は、若者の雇用機会を損なわない範囲で高齢者の就業機会をどんどん増やすことが望ましい

(株)高齢社のように高齢者の就業機会創出を事業としている例もある。地方自治体や国はハローワークやシルバー人材センターの運用にとどまらず、こうした努力をしている民間企業をもっと支援するべきだ。

次に、国レベルでの問題解決のためには、①医療・介護費の低減、②国債発行に依存しない歳入源の確保、が必要だ。

①については、個人レベルでの対策を実行する高齢者の割合が大きくなれば低減効果は大きくなる。すでに埼玉県和光市や新潟県見附市などでは高齢者の社会参加が増えると医療・介護費が低減することが定量的に実証されている。

私の所属する東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング国際共同研究センターでも認知症改善プログラムやサーキット運動が医療費・介護費を低減することを科学的に検証している。

②については、新たな税収増がその手段であり、本年4月に予定されている消費増税がその一つだ。消費税率を現状の5%から10%にアップした場合、金額では年間13.5兆円の税収増となる。このうち、約4%10.8兆円を社会保障費に回すことになっている。

ところが、この分だけ毎年度の国債発行は減らせるが、新たに年金や医療介護費に回せる分はない。残る約1%分の2.7兆円は、子育て支援などの社会保障の充実に回すことになっている。つまり、消費税を10%に増税しても焼け石に水なのが実態なのだ。

したがって、本来必要なことは、消費税増税に頼らない税収増の方法である。平成22年(2010年)の総務省「家計調査報告」と厚生労働省「国民生活基礎調査」をもとに算出すると、60歳以上の人が保有する正味金融資産は合計482.3兆円となる。

仮にこの3割、144.7兆円が消費支出に回ったとすると、2010年度一般会計90.3兆円の1.6倍が実体経済に回ることになる。

ただし、先行き不安の強いシニア層は、正味金融資産の3割どころか、1割すら消費に回すことさえ現実的でないという見方もある。したがって、ここに企業の新たな役割がある。

シニア層が必要としていたが、これまで市場にはなかった、より付加価値の高い商品・サービスを、商品の売り手である企業が創出するのだ。すると、「こういう商品が欲しかったのよ」という機会が増え、生活不安の解消につながり、結果としてシニアの消費も増える。

消費が増えれば消費税収も増える。また、企業の売上げ・収益が増え、業績が向上すれば、法人税などの税収も増える。

この結果、国の税収が増え、財政改善に寄与することになる。財政が改善されれば、ギリシャのように財政破綻することもなく、国際的信用を維持でき、シニアも安心して老後を過ごせるようになるのだ。

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参考文献:シニアシフトの衝撃

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