スマートシニア・ビジネスレビュー 2007年8月27日 Vol. 108

retirem_cover一時期、毎日のように耳にした言葉を
最近さっぱり耳にしなくなった。
「2007年問題」という言葉だ。

この言葉は、しばしば次のように表現されていた。
「団塊世代は2007年に60歳になり一斉に定年退職し、
大量のベテラン社員が労働市場から姿を消し、労働力不足、ノウハウ・技術継承、企業体力低下の問題を引き起こす」

「2007年問題」という言葉を耳にしなくなった理由は、
もう2007年になったからだろうか。
いや、そうではない。

 本当の理由は、「2007年問題」として
あれこれ言われていたことが、
実際に2007年になっても大した問題にならなかったためだ。

その最大の理由は、団塊世代が一斉に定年退職しても、
「一斉には労働市場から姿を消さなかった」からである。

2007年7月1日の日本経済新聞に
「定年者の半数強企業が再雇用」という見出しで、
団塊世代の大量定年で懸念される労働力不足を
緩和する効果が期待できるという記事が掲載されていた。

この記事の通り、多くの企業では
60歳で定年退職しても再雇用される人が多いため、
労働力不足もそれほど起きないのである。

実は、私はかなり以前からこのことを予想していた。
拙著「団塊・シニアビジネス 七つの発想転換」(ダイヤモンド社)はじめ、
多くの雑誌や講演等で、2007年に団塊世代が60歳になっても
一斉に離職せず、2007年以降段階的に離職していくことを
「2007年問題の誤解」として主張してきた。

また、2006年1月17日号の週刊エコノミストに寄稿した
『2007年問題再考 団塊世代「一斉離職」は本当か』のなかで
団塊世代の約8割が離職せずに、しばらくは働き続けると予想した。

その後、2006年9月15日に電通が、
団塊世代の最年長者である1947年生まれの夫の77パーセントが
2007年以降も引き続き働くことを選択するという調査結果を発表した。
これは私の予想と極めて近い数値となっていた。

私の予想通り、「2007年問題」は、
それほど大きな問題にはならなかった。
しかし、代わりに別の新しい問題が出現した。

「リタイア・モラトリアム」という問題だ。

モラトリアムとは猶予期間の意味だ。
だから、短く言えば「定年退職でリタイアするはずだった人が、
しばらくリタイアしないために起こる問題」である。
では、何が起こるのか。

定年後に再雇用されると、まず給料が半減する。
そして、多くの場合、役職は外され、閑職に回される。
さらに、かつての部下が自分の上司になることもある。
かつての部下ではなくても、自分の上司はほとんどの場合、
自分よりも年下となる。これは正直心地よくない待遇だ。

それでも、経済的な理由から年金を
フルにもらえるようになるまでは、
こうした屈辱的な待遇でも耐え忍んで
会社にしがみつくしかない人も多い。

一方、こんな「年配社員」が職場に増えたら、
周りの若手社員もやりにくくてたまらない。
特に、「年配社員」を預かる上司は、
その扱いに気を遣わざるを得ない。
リタイア・モラトリアムとは、きわめて心理的な問題である。

実はこれまでも定年後もこんな風に
再雇用で働き続ける「年配社員」は存在した。
しかし、それは少数派だった。
一方、これからはこうした「年配社員」が多数派になる。
ここが従来との大きな違いだ。

では、こうなると何が起きるのか。
居心地の悪い職場で周囲との心理的葛藤でストレスがたまり、
うつ病になる団塊世代が急増するのか。

私の予想は違う。
リタイア・モラトリアムがきっかけとなって、
団塊世代のライフスタイルが変化するのである。

それは「解放型ライフスタイル」ともいうべきものになる。
そして、このライフスタイルの受け皿となる商品・サービスである
「解放型消費」が生まれるのである。

したがって、2007年以降は
団塊世代のこうした「解放型消費」の受け皿となる
商品・サービスを提供できる企業が業績を伸ばすことになる。

2007年は「リタイア・モラトリアム」元年なのである。

 

●参考情報

リタイア・モラトリアム - すぐに退職しない団塊世代は何を変えるか
(日本経済新聞出版社)