井上陽水が大学に行く日

スマートシニア・ビジネスレビュー 2005年11月21日 Vol. 77

danzetu井上陽水のデビューアルバム「断絶」を
久しぶりに聴く機会がありました。

古びたLPジャケットを取り出すと、
彼が、なぜ、歌手になったのかを記した
次の文章があることを思い出しました。

『思い起こせば昭和23年生まれの私の大学受験の時代は、
「ベビーブーム」という、悪魔のような言葉で
真に灰色にぬりつぶされたのでありました。

不幸は重なるもので、私の父は、
こともあろうに歯科医などという肩書きをもっており、
ふとどきにも、彼は男の子を私、一人しか作らなかったのであります。

ただでさえ難しい大学受験なのに、医歯系の大学へ入るということは、
もう、これは狂人の如き天才的頭脳の持ち主か、
又は一万円札でタバコを買い、 おつりをもらい忘れるような父親を持っている人でも安閑としていては、失敗することも充分に考えられる当時の受験地獄です』
(ポリドールレコード/井上陽水「断絶」ジャケットより)

文章からおわかりのように、井上陽水は、
1948年生まれの団塊の世代。
実家は歯科医で、本来なら家業を継いで、
自身も歯科医になるはずでした。
しかし、九州歯科大学の入試に3度失敗。

danzetsu2「このまま、一生浪人生活を続けるのかと覚悟をきめようとしていたところ、聞けば最近は非常に子供の数が減っているとのこと、その子供たちが18才くらいになり大学を受験するころには、いかに医歯系の大学とはいえ、あの部類に妖怪な答案用紙とはいえ、なんとかなるのでは……と判断し、十年計画を立ててそのころに再度受験することを誓ったのであります」

(ポリドールレコード/井上陽水「断絶」ジャケットより)

興味深いのは、今から33年前に書かれたこの文章に、
最近話題の少子化とそれに伴う大学の変化についての
予感が述べられていることです。

そして、彼の「希望的予感」が、今の時代の流れに
一致していることに驚きを感じます。

受験地獄という言葉が使われなくなった代わりに、
私立大学の定員割れや倒産という言葉が
頻繁に目につくようになってきました。

実は、こうした問題は私立大学固有のものではなく、
独立行政法人となった国立大学にも当てはまる話です。
このような時代の流れのなかで、
大学にも従来と異なる新しい経営が
求められているといえます。

road_scholar_elderhostel_logoそんななか先週、偶然に
アメリカのエルダーホステルの友人から、
LLI(Life-long Learning Institute) の数が
350を超えたとの連絡がありました。

LLIとは、大学の軒先を借りてシニア自身が自身のために運営する生涯学習機関。運営に協力する大学にはハーバード大学やカーネギーメロン大学などの一流校も含まれます。このLLIの立ち上げ、運営支援を行っているのがエルダーホステルなのです。(LLIの詳細は拙著「シニアビジネス」を参照ください)

このようにアメリカの大学には、
日本の私立大学によくある公開講座をはるかに超えた、
シニアにとっての学び舎が増えつつあります。

井上陽水は、先の文章で
『合格する栄光の日までのあと十年間を
何かで食いつないでおかなくては』ということで、
歌手になることを決めたと書いていました。

ところが、実際には歌手デビュー後、十年を過ぎても
大学受験の席に着くことは二度とありませんでした。
唯一、この点だけが彼の予感からはずれました。

彼が今後どんな道を歩むのかはわかりませんが、
将来、日本にもLLIのような場ができたときに、
受験生としてではなく、自身の波乱万丈の人生体験を
同世代の人たちと分かち合う場として、
大学に行く日が来るかもしれない。

彼の記念碑的なデビュー作「断絶」を聴いて、
ふと、そんなことを思いました。

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