先見経済9月15日号 連載 親と自分の老い支度 第8回

先見経済1109_表紙高齢になると、自宅に住み続けられるとは限らない

 

日本人の約八割は年を取ってもできる限り「いま住んでいる自宅に住み続けたい」と思っています。しかし、こうした希望に反して高齢期には自宅に住み続けられるとは限りません。

70代を過ぎると親の健康状態は急変しやすくなります。そして、いったん要介護状態になると、長期戦になります。一方、自宅で介護が継続できるとは限りません。このため、親が希望するかどうかにかかわりなく、なるべく元気なうちに老人ホームの情報収集を行っておくことが重要なのです。

 

安心して入れそうな老人ホームの評価ポイントとは?

 

とはいえ、近年増え続けている老人ホームや介護施設は玉石混淆状態。どれをどう選べばよいかさっぱりわからない、と思われる人も多いのではないでしょうか。実は「すべての人が満足できる老人ホーム」というものはありません。高齢者にはそれぞれ一人ひとりの人生の履歴があり、生活習慣も保有財産も価値観も異なります。だから、「満足できる老人ホーム」の定義は、多様であり、高齢者一人ひとりで異なります。

しかし、「ここなら安心して入れそう」と判断できる評価ポイントがあります。それは、①施設長の能力、②介護リーダーの能力、③入居率、④施設の雰囲気、⑤入居者と家族の評価です。

 

   施設長の能力

老人ホームという商品は、見学会などでは、建物や設備といった「ハード」に目が向きがちですが、肝心なのは食事や入浴、介護サービスなどの「ソフト」の質です。このソフトは、そのホームが提供するメニューによりますが、そのメニューの質は運営するホームの「スタッフの質」に大きく依存します。このスタッフを活かすも殺すも施設のトップである施設長の力量次第なのです。

ですから、ホーム見学の際は、必ず施設長に直接会って、ホーム運営に対する考え方をじっくりと聴き、その人の人間観や人柄を知ることが極めて重要です。

老人ホームは、コストのおよそ五〇から七〇パーセントを人件費が占める労働集約産業です。したがって、そこに働くスタッフが一丸となってやる気満々でいきいきと働けるか、そうでないかによって、ホームの雰囲気だけでなく、ホームの経営にも雲泥の差が出ます。ホーム経営の要は、あくまで施設長なのです。

先見経済1109_2-1   介護リーダーの能力

ホーム経営の要は施設長であり、施設長が優れていれば、そのホームの運営は、おおよそうまくいくと言ってよいでしょう。しかし、規模が大きめで、スタッフ数が多くなると、いくら施設長が優れていても、現場レベルでは入居者への対応がうまくいっていないケースもあります。

こうした現場レベルでのサービスの質をチェックするには、「現場のリーダー」の力量を知ることです。そのためには介護棟であれば、フロアリーダー、または介護サービス部門のリーダーに直接会い、そのホームにおける介護サービスの考え方、認知症の人への対応方法などを聴くことが役に立ちます。

この際に重要なのは、介護リーダーと他の介護スタッフとの人間関係がうまくできているかの確認です。こうした確認は短時間の見学では難しいので、体験入居をできれば数日行ない、リーダーと他のスタッフとのやりとりを観察するとわかるようになります。

 

先見経済1109_2-2   入居率

老人ホームの質を評価するための尺度は数多くありますが、そのなかでも最もわかりやすいのは入居率です。入居率は、そのホームの定員(全戸数)に対して何人(何戸)入居しているかの割合です。

一般に入居率が七〇から八五パーセント以上であれば、施設の経営上は問題ありません。入居率が常に八五パーセント以上で安定しているところは、仮に入居者の死亡などで欠員が生じてもすぐに新規の入居者があります。これは「あそこなら安心だ」という評判が潜在入居者のなかでできあがっているからです。

逆に、開所後二年以上経過して入居率が五〇パーセント以下だと、その施設単体での経営は苦しいので、経営母体に体力がない場合は要注意です。「客の入っていないレストランには入るな」というのと同じです。

見学に行った際、「このホームの入居率はどの位ですか?」と確認してみてください。その質問に即座にきちんと答えられないところは、入居率が低いからだと考えて注意してください。

 

   施設の雰囲気

老人ホームは、価値観や性格の異なる人たちとの集団生活の場となります。しかも、それが多くの場合、終身亡くなるまで続くことになります。したがって、その「場の雰囲気」がどのようなものであるか、入居する人(あなたの親)にとって、相応しいものであるかどうかの見極めが重要となります。

この見極めを見学会のような短時間で行なうのは、現実にはなかなか難しいので、できれば入居を検討している人ご自身で体験入居を数日間(できれば、最低四日程度)行なって体感するのが一番です。

とはいえ、四日間の体験入居を多くのホームで行なうのも現実には大変なので、やはり見学したときに、だいたいの雰囲気を把握することが必要でしょう。そのためには、現場のスタッフや、すでに入居している人、できれば入居者の家族との会話の機会を多く持つことが最も役に立ちます。

たとえば、見学に行った時に、スタッフの表情、声色、動作全体に注意してみてください。「ようこそいらっしゃいました」と感謝の気持ちを込めて行なっているのか、「こっちは忙しくてそれどころじゃないんだよ」と心の中で思いながら形式的・義務的に行なっているのかはわかるもので、同じ挨拶の言葉からでも、その施設のマネジメントの状態が透けて見えます。短時間の見学で施設サービスの質を把握するには、内装や設備などのハードに目を向けるよりも、スタッフとの会話の機会を多く持つことの方がはるかに役に立ちます。

   入居者と家族の評価

老人ホームという商品は、基本的に「口コミ商品」です。したがって、その老人ホームの評判を知りたければ、すでに入居している方やその家族、あるいはそのホームのある場所の周辺に住んでいる人から話を聞くのが大変有益です。また、そのホームの出入りの業者の人に訊ねてみるのも、一つの方法です。

老人ホームは、建物や設備などの「ハード」に、食事や入浴サービス、介護サービス、アクティビティなどの「ソフト」が乗っかったものです。そして、この「ハード」と「ソフト」の価値は、ホームのスタッフと入居者との「集合的な交流・活動」によって初めて生み出されるものです。

したがって、まだ入居者のいない、あるいは入居者が少ないホームの内覧会や見学会に行っても、その価値は決してわかりません。入居を前提とした見学の場合は、ある程度入居率の高いところに行かないと意味がないと認識してください。

先見経済を発行する清話会のご好意により記事全文を掲載しています。

参考文献:親が70歳を過ぎたら読む本