解脱1月号 特集 しあわせ家族研究室 終活②任意後見制度

解脱_2014年1月号-表紙今月のテーマは「任意後見制度」。認知症の進行による生活トラブルの予防方法として知るべき手段カテゴリーのひとつです。ロングセラー『親が70歳を過ぎたら読む本』の執筆をはじめ、シニアビジネスのパイオニアとして知られる村田裕之先生に、今月は「任意後見制度の概要とその利用」についてお聞きします。

 

財産管理の代行者

 

「任意後見契約」とは、認知症などで判断能力が不十分になった本人に代わって、あらかじめ本人が選んだ「後見人(任意後見人)」に財産の管理や介護の手配などの判断をともなう行為を委任する契約です。2000年に介護保険制度と同時にスタートした「成年後見制度」のひとつである「任意後見制度」に基づくもの。

 

成年後見制度には、裁判所の手続きにより後見人を選任してもらう「法定後見制度」と、当事者間の契約によって後見人を選ぶ「任意後見制度」があります。

 

解脱_2014年1月号-5-1法定後見制度は、原則として、重度の認知症で判断能力がすでに失われたか、または不十分な状態になり、自分で後見人を選ぶことができなくなった場合に利用されるものです。

 

これに対して任意後見制度は、まだ判断能力が正常である人、または衰えたとしてもその程度が軽く、自分で後見人を選ぶ能力を持っている人が利用する制度です。

 

任意後見契約書は、「任意後見契約に関する法律」により、先月号で説明した「公正証書」で作成することが義務づけられています。

 

任意後見人に頼めるのは、依頼人本人である「委任者」の不動産、有価証券などの「財産管理」、介護サービス利用の手続き、生活費の支払いなどの「介護や生活面の手配」等。具体的な業務内容は、任意後見契約書の「代理権目録」に記載します。

 

一方、任意後見人に頼めないのは、①委任者への介護行為、②病院への入院、介護施設の入所などの際の保証人の引き受け、③委任者への医療行為の同意とされています。

 

任意後見契約は契約締結したからといってすぐには発効しません。本人の判断能力の低下が著しくなってきたと感じた段階で、本人(判断能力があるとされる場合)、任意後見受任者(契約発効後、任意後見人になることを引き受けた人)、配偶者、4親等以内の親族等が家庭裁判所に「判断能力が低下してきており、任意後見を始めたいので『任意後見監督人』を選任してほしい」と申し立てをします。

 

解脱_2014年1月号-5-3この際には本人の判断能力のレベルについての医師の診断書が必要です。これを受け、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して契約発効となり、後見人による後見事務が始まります。

 

任意後見監督人は、任意後見人が財産を勝手に使い込んだりしないよう、義務内容について任意後見人から適宜報告を受け、監督する役割を担います。通常、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。

 

契約は「移行型」が望ましい

 

任意後見契約には、①移行型、②将来型、③即効型の3種類がありますが、①の移行型が望ましいです。これは、「財産管理等委任契約」とセットで任意後見契約を結ぶ方法です。

 

骨折など、身体が不自由になり、外出が難しくなった場合も本人による財産管理が難しくなりますが、この場合、まだ本人の判断能力が十分あるときには任意後見契約は発効させることができません。そこで、本人の判断能力があり、かつ身体に不自由があるときに、本人の指示に従って受任者に財産管理を代行してもらうのが財産管理等委任契約です。

 

①移行型では、本人の判断が十分あるうちは、財産管理等委任契約に基づいて財産管理を行ない、本人の判断能力が不十分になった時点で、任意後見制度を発効するというものです。財産管理等委任契約から任意後見契約に移行するので「移行型」と呼ばれます。

 

任意後見契約を結ぶときの費用は、公証役場に払う費用を含めて通常25000円から3万円程度です。また、契約書の作成を弁護士などの専門家に依頼すると、その分別途費用がかかります。

 

任意後見人への報酬は、契約が発効してから発生します。その金額は、専門家へ依頼する場合、月額3万円から5万円程度が最も多いようです。親族や知人に依頼する場合は、とくに決まりはなく、報酬なしの例もよくあります。あるいは、報酬は支払わないが、亡くなったときに遺言で報いるという人もいます。

 

任意後見人の依頼先として、①親族や知人、②弁護士などの専門家、③社会福祉協議会などの法人が選択肢としてありますが、「移行型」を選択する場合、弁護士に依頼するのが適当でしょう。

 

というのも、前述の財産管理等委任契約の「受任者」には法律上、弁護士以外なれないからです。そのため、財産管理等委任契約の受任者である弁護士が、任意後見契約に移行した後で任意後見人として業務を引き受けるようにするのです。

 

ただし、任意後見契約では複数の人が任意後見人になれるので、財産管理以外の療養看護等については、弁護士以外の人が任意後見人を務めても問題ありません。

 

解脱_2014年1月号-5-5法定後見制度の検討も

 

「任意後見契約に関する法律」によると、任意後見人には「取消権」がないとされています。つまり、本人が悪徳訪問業者から商品を購入してしまった場合、任意後見人がクーリングオフすることができません。

 

「任意後見契約に関する法律」には、法定後見制度における「法定後見・保佐・補助」とは異なり、本人の行為を任意後見人が取り消すことができるとは規定されていません。このために、任意後見人には「取消権」がないとされています。

 

一方で、「任意後見契約に関する法律」第2条によれば、任意後見契約とは「委任者(本人)が、受任者(任意後見人)に対し、(委任者が)精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における(委任者の)(1)生活(2)療養看護(3)財産管理に関する事務を委託し、委託する事務については受任者による代理権を付与する委任契約」です。したがって、任意後見人は、その「代理権の範囲で」取消権を行使することができる、という解釈もあります。

 

この解釈に従えば、たとえば生活に必要な機器・物品の購入に関して、「代理権目録に記載していれば」、悪徳訪問販売業者から購入させられた物品をクーリングオフすることもできるとされます。

 

ただし、あくまでも事前に設定した代理権の範囲内での取消しですので、その枠を超えた場合には法定後見制度での対応を検討することが必要です。

代理権目録に取消権について記載がある場合にはこの限りではないという解釈もありますが、あくまで事前設定の範囲内のことなので、その枠を超えた場合には法定後見制度での対応を検討することになります。

 

法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つから選べるようになっており、本人(判断能力があるとされる場合)、配偶者、4親等以内の親族等の申し立てにより、家庭裁判所から「成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)」が選出されます。

 

成年後見人等は、本人を代理して契約などの「法律行為」(契約や解除のことをいいます)をしたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって本人を保護・支援します。

 

発展途上の制度との認識を

 

任意後見人は、もともと委任者自身が最も信頼できる人として選んだ人です。任意後見人は任意後見監督人、家庭裁判所での監督のもと業務を行なうとされており、不正が起こりにくい制度を目指しづくりがなされています。にもかかわらず、実際には弁護士や司法書士などの後見人が財産を使い込んでしまうケースがときどき起こっています。

 

こうした成年後見制度の〝専門家〟による不祥事は、単に契約違反に止まらず、制度そのものの信頼を失墜しかねない由々しき問題です。

 

こうした問題を受けて、政府は信託銀行に財産管理を委託するなど、制度変更を現在進めています。成年後見制度はが、まだ発展途上にあるということを、私たちは認識しておく必要があるでしょう。

 

補足:死後の事務もお願いできる?

 

任意後見契約は委任者本人の死亡により終了するため、死後の事務を引き続いて委任する場合は、任意後見契約とは別に「死後事務委任契約」を任意後見人とあらかじめ締結することにより、葬儀や永代供養に関する事務、家財道具の処分等死後の事務作業ことをお願いすることができます。

 

任意後見人をこの契約の受任者にすることもできます。

また、葬儀方法などについては家族関係者の了解を得た内容を先月号で触れた遺言書に記載し作成する場合には、先月号のとおり、葬儀方法などについて記載し、家族関係者の了解を得ておくという方法もあります。

 

認知症による生活トラブルを防ぐのが任意後見制度であり、死後の家族間トラブルを防ぐのが遺言書や死後事務委任契約であり、これらは全て平均寿命90歳という長寿命時代への備えなのです。自己選択が最大限に優先される現代社会ですから、自分の最期を自分で決める方法として、任意後見制度の利用を検討してみるのもいいかもしれません。

 

 

参考:親が70歳を過ぎたら読む本