既存の真似をしてもうまくいかない退職者向けビジネス

ビジネス切り口別

高齢者住宅新聞連載 村田裕之の「シニアビジネス相談室」第18回

既存の真似をしてもうまくいかない退職者向けビジネス

企業の「退職者」あるいは在籍中の「退職予備軍」を対象としたビジネスの動きが後を絶ちません。実はこうした動きはかなり昔からあります。

にもかかわらず、ビジネスとして成功している事例は非常に少ない。その理由を10年以上前にパソナ、東京電力が中心に立ち上げた退職者支援サービス会社NARP(ナープ)を例にお話ししましょう。

第一の理由は、退職者向けサービスというと多くの企業・団体がアメリカのAARPの真似をしようとすること

AARP(エイ・エイ・アール・ピー)とは旧称American Association of Retired Personsの略で、50歳以上の会員3800万人をもつ世界最大の高齢者NPOで、日本では全米退職者協会と呼ばれてきました。

年会費12.5ドル(当時)で各種割引サービスを受けられ、会員誌の発行部数は2000万部を超えていました。50歳以上対象でこれだけの会員数の例は他になく、多くの日本企業・団体が真似したがりました。

しかし、AARPは1957年設立と古く、退職した教職員向けの割安な保険商品の提供が大ヒット、その後旅行商品の割引提供などネットのない時代に独占的な立場を利用して成長した団体です。

こうした歴史的経緯を理解せずに「企業OBを集めれば何とかなる」「割引サービスが好まれる」という安易な発想では時代背景も市場環境も異なり、うまくいかないのです。

キラーコンテンツがないサービスは長続きしない

第二の理由は、NARPのサービス内容の大半がパソナ子会社のベネフィットワンの福利厚生代行サービスだったこと。つまり現役向けサービスを退職者向けに転用していたためニーズが異なったわけです。

第三の理由は、キラーコンテンツがなかったこと。先述のAARPは、その時代が求める「オンリーワン」つまりキラーコンテンツを継続的に提供して成長しました。しかし、NARPの場合は福利厚生代行の転用が主で、それがありませんでした。

まとめると「客を囲い込む」という色が強すぎて提供側の論理でのサービスになっていることが失敗理由です。

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