「スマート・エイジング」という生き方

月刊 地方議会人7月号 特集「高齢者の社会参画とまちづくり」

地方議会人2013年7月号_表紙_2月刊 地方議会人7月号の特集「高齢者の社会参画とまちづくり」に寄稿しました。この雑誌は、全国市議会議長会・全国町村議会議長会の共同編集で、文字通り全国の市町村議会関係者が購読している雑誌です。

 

まだまだ、アンチエイジングと言う変な言葉が蔓延っているなか、高齢者だけでなく、全ての世代にとって必要なことはスマート・エイジングであることを知っていただければ幸いです。以下、寄稿全文です。

 

高齢者に必要なのは「アンチエイジング」ではなく「スマート・エイジング」

 

“皆さんは「アンチエイジング」とはどういう意味かご存知ですか?”私が講演などこう尋ねると、たいてい「若返りの技術」とか「年をとらないための方法」という答えが返ってきます。果たして正解はどうでしょうか?

 

「エイジング」という言葉は、英語でageing(米語ではaging)と書きます。ageは「年をとる」という動詞、ingは動詞の進行形です。したがって、エイジングとは「年をとっていく、齢を加える」という意味です。日本語では加齢と言います。このエイジングは、受精した瞬間からあの世に行くまで、高齢者だけでなく、すべての世代の人が生きている限り続きます。つまり、エイジングとは生きていることの証です。

 

一方、アンチ(anti-)というのは英語で否定を意味する接頭語です。したがって、アンチエイジングとは、生きていることの否定。つまり死ぬという意味になります。若返りの逆ですね。

私の所属する東北大学加齢医学研究所では「スマート・エイジング」という言葉を提唱しています。スマートとは「賢い」という意味です。したがって、スマート・エイジングは「賢く齢を加えていく」という意味です。

 

年をとるにつれ、私たちは身体や心などいろいろな面で変化します。ところが、こうした変化は私たちにとって辛いことが多いのが現実です。しかし、そういう変化にもっと賢く対処する生き方を選びましょう。そして、それを考え続けることで、私たちはもっと成長しましょう、年を重ねるごとに、より賢い生き方をしていきましょうというのがスマート・エイジングの思想です。

 

スマート・エイジングのための7つの秘訣

 

私も含めて人は誰もが、生きている限り「元気に」「いきいきと」そして「自分らしく」人生を過ごしたいと思うでしょう。そのためにはどうすればよいのか。いわば「スマート・エイジングのための秘訣」として、私は次の7つをお勧めしています。

 

1.      有酸素運動をする

2.      筋力トレーニングを行う

3.      脳のトレーニングを行う

4.      年金以外の収入を得る

5.      他人の役に立つことをする

6.      明確な目標を持つ

7.      好きなことに取り組む        

 

このうち、今回の特集のテーマ「高齢者の社会参画のすすめ」の観点では、4と5が重要です。5については、本稿以外のところで多く語られているので、本稿ではむしろ4の「年金以外の収入を得る」について重点的にお話します。

 

地方議会人2013年7月号_目次_2年金以外の収入を得ると何がよいのか?

 

高齢になると一人暮らしが多くなり、自宅に引きこもってうつになりやすい傾向があります。ある調査によれば、退職後の男性が自宅に引きこもる割合は六割以上といわれています。引きこもると運動不足になるだけでなく、外部とのコミュニケーション機会も減ります。

 

実際に私の自宅近所の退職後数年の六〇代の男性が、先日夜中に救急車で運ばれました。奥さんに尋ねると、旦那さんは自宅にこもりがちで、犬の世話以外は一日中テレビばかり見ていて、夜は自分の部屋で毎日酒を飲み続けていたそうです。

 

現役サラリーマン時代には毎日出かける場所があったのが、退職後はそれがなくなる。このために毎日の生活のリズムが失われてしまったのです。何もやることがなく、家の中にこもっていると、いろいろなことを考えてしまい、何かにつけ後ろ向きになりがちです。これを防ぐには、やはり退職後もある程度仕事をして年金以外の収入を得るのが一番です。

 

「そんなことができたら言うことないけど、現実には難しい」と、多くの方が思われるでしょう。しかし、世の中には80歳を過ぎても仕事を続けて年収1000万円以上稼いでいる人も存在します。

 

たとえば、徳島県の上勝町という人口2200人ほどの過疎の村に㈱いろどりという会社があります。この会社は葉っぱビジネスですっかり有名になりました。ここでは平均年齢70歳のおばあちゃんたちが、裏山から葉っぱを採取して刺し身のつまなどに加工し、売っています。

 

年金以外の収入を得られると何がいいのか。第一に、生活に余裕が出ます。旅行に行ったり、孫にプレゼントをあげたり、といったことがしやすくなります。上勝町の例では孫に家を買ってあげたという人もいました。上勝町の住宅価格は東京に比べてかなり安いとは思いますが、それでもそれなりの収入がなければこうしたことは不可能です。

地方議会人2013年7月号_5-1_2第二に、生活にリズムが出ます。お年寄りたちは、葉っぱビジネスの仕事がなかったときは、毎日やることがなく、家でだらだらテレビを見ていたり、ごろごろ寝ていたりする時間が長かったといいます。

 

しかし、葉っぱビジネスに参加するようになってからは、毎朝決まった時刻に起床し、やることが多いのでその日の作業の段取りを考え、優先順位を決めてから取りかかるという「仕事のリズム」のある生活になりました。また、仕事を通じて社会とのつながりが保て、生活に「張り」が出て、気持ちも明るくなったそうです。

上勝町の高齢化率は48%ですので、いわゆる限界集落の手前。全国でもトップレベルの高齢の町です。しかし、いろどり事業のおかげで、町の高齢者の皆さんは元気です。上勝町には2200人あまりが住んでいますが、寝たきりの人はゼロ。そして、高齢者医療費も徳島県内で最低水準とのことです。㈱いろどりは、地域活性化ビジネスとして注目を集めていますが、高齢者も働き続けたほうが健康になることを証明しています。

高齢になっても自分たちの身近なものでお金を稼げて、工夫すれば収入が増える。そして、毎日リズムのある生活を送っていれば、結果として健康も維持できる。生活のためにとか、家族のためにとかいう理由だけで重荷を背負うように働いていると疲れます。しかし、そうではなく、自分のために楽しんで働いているので高齢でも続けられるのです。

 

似たような事例が、長野県小川村にある㈱小川の庄です。やはり年配のおばあちゃんたちが活躍して年商8億円程度の売り上げがあります。何をやっているかというと「おやき」を作って売っています。おやきは中華まんに似ており、大きさは中華まんより小さめ。皮は中華まんよりも厚めです。具にさまざまなバリエーションがあり、これを変えれば商品化に幅が広がります。

 

おやきは、もともとこの地方特有の家庭料理だったそうです。当初小川村の人たちは、まさかこの家庭料理が商品になるとは誰も思わなかったそうです。ところが、小川の庄の創業者である権田一郎氏が、過疎の村を何とかしたいという強い思いから、商品化を強力に推し進めたのです。

 

実際に現地に行ってみるとよくわかるのですが、坂道が多く、平地はほとんどなし。耕作地は急斜面ばかりで、まず田んぼはできません。雑穀しか作れないような、耕作地としてはおよそ不利なところです。しかし、その雑穀を皮の材料にし、地元の野菜である野沢菜を具に使った家庭料理がおやきなのです。つまり、おやきは地元資源をフル活用したもの。そして、究極の地元資源であるおばあちゃんたちが商品に仕立てているのです。

 

長野県は興味深いところで、全国一高齢者の有業率が高い。有業率とは仕事に就いている人の割合です。そして、長野県は一人当たりの高齢者(老人)医療費が全国一少ない(図表1)。仕事を通じてなるべく現役でいることが、結果として高齢になっても病気になりにくく、健康でいられることを示しています。

 

退職後は「半働半遊」型の生活を目指す

 

これらの例からお分かりのように、退職後の生活で有益なことは、ある程度仕事を続けることで健康を維持しながら経済的な不安を解消し、社会から孤立しないことです。私がお勧めするのは「半働半遊」型の生活。これは週三日程度働き、残りは自分の好きなことに時間を費やす生活スタイルです。

 

何らかの形で年金プラス10万円程度の所得が得られる働き方を目指す。そうすれば、その10万円は、ほぼ可処分所得になり、経済的にも余裕ができます。また、仕事を通じて社会とのつながりも維持でき、孤独感が薄れます。

 

先の長野県の例も含めて、私が知る限り、退職後も適度に仕事を続けている人の方が、何もしていない人よりも圧倒的に健康で元気な例が多い。だから、退職後はやりたいことを仕事にして、「半働半遊」型の生活をする。そのためには、五〇歳を過ぎた頃から準備を始めることが肝要です。

 

東京・新宿に本部があるクラブツーリズム㈱は、首都圏を中心に公称300万世帯の中高年の方向けにテーマ型旅行を提供している会社です。実はこの会社には「エコースタッフ」という仕組みがあります。クラブツーリズムは、毎月「旅の友」という旅行情報が満載の雑誌を発行しています。エコースタッフの仕事は、この旅の友を毎月一回250部程度ご近所に配ることです。これで月に30004000円がもらえます。配布部数の多い人には、月に3万円以上もらっている人もいます。

 

ちなみに、エコースタッフはもともとクラブツーリズムのお客さんであり、各地域における仲間づくりのリーダー役も担っています。エコースタッフの数は、現在約7000名にのぼります。エコースタッフには、会社を定年退職した方も結構いて、最近は特に希望者が多いとのことです。

 

もうひとつの仕組みは「フェロー・フレンドリースタッフ」です。これはクラブツーリズム専属の添乗員で、添乗員としての給料が支給されます。フェロー・フレンドリースタッフになる人も、もともとクラブツーリズムのお客さんで、プロの添乗員でない方がほとんどです。

 

仕事的にはこちらのほうがハードですが、皆さん楽しそうにやっています。顧客同士での仲間づくりを、よりスムーズに進めていくためには、ツアー参加者と添乗するスタッフとが、共有できる話題や価値観を持っていることも重要なポイントです。現在、約650名のフェロー・フレンドリースタッフがツアーに同行しています。

 

年齢層は男女とも40歳から65歳まで。添乗員をやってみたかったという方が多いようです。一回の添乗手当は2000円から1万円程度。人の世話をしたり、話をしたりするのが好きな方は金額以上のメリットを感じるといいます。

 

フェロー・フレンドリースタッフのメリットは、中高年が多いツアー参加者側にもあります。「同年代だったので、親近感が湧いた」「こまめに声をかけてくれ、歩くスピードにも配慮してくれたので、精神的にもゆとりを持って旅を楽しめた」といった賛辞の声も多いようです。クラブツーリズムという会社は、主な顧客層が中高年なので、このような中高年の人の能力をうまく活用する制度を発想し、運営できるのでしょう。

医療・介護予算を増やすより「生きる意欲」をかき立てる社会参画機会が重要

 

これら以外にも昔からある制度ですが、各自治体が運営するシルバー人材センターに登録して、仕事を見つける方法もあります。あるいは、経験豊富で体力にもまだ自信のある団塊世代の退職者の方は、前職時代の経験を活かしてご自身で起業する選択肢もあるでしょう。

 

実際に退職した多くの男性から「貧乏性だからブラブラしているのは耐えられないんだ」というような話をよく聞きます。その一方で現役時代に十分働いたからもう仕事は結構、という方もいらっしゃいます。しかし、人間というのは遊ぶ暇がないほど忙しい現役のときは暇が欲しくて仕方がないのですが、退職してからしばらくたってやることがなくなると、今度は何か仕事をしたくて仕方がなくなるようです。

 

こうしてなるべく多くの高齢者が退職後も何らかの仕事をして年金以外の収入を得ることで、経済的な余裕と生活のリズム感を得ることができ、元気にいきいきと暮らすことができます。そして、私たち一人ひとりが、このようにスマート・エイジングを実践し、なるべく要介護・寝たきり状態にならなければ、医療費も介護費も少なくなります。

 

そうすれば、私たち個人の出費が減るだけでなく、行政の出費も減ることになり、医療費や介護費の増加を理由とした増税は不要になります。さらに、一人ひとりの気持ちが明るくなり、活動意欲が湧くと、旅行に行ったり文化的な活動をしたり、そのための靴や洋服、道具を買う、といった消費需要が新たに生まれます。その結果、経済が活性化します。

 

このように、一人ひとりが自分らしく元気にいきいきと過ごせるようになれば、身体面と精神面での健康が改善されるメリットだけでなく、経済面でのメリットもあるのです。言い換えれば、スマート・エイジングを実践することによって、人間が本来持っている「生きる意欲」をかき立てることが、結果として最も自然な介護予防になるのです。

 

ですから、これからの企業は高齢者一人ひとりの「生きる意欲」をかき立てる商品・サービス開発に注力すべきなのです。そして、行政は高齢者が増える分だけ医療・介護予算を増やすという発想ではなく、高齢者一人ひとりの「生きる意欲」をかき立てるための社会参画の機会創出を支援すべきです。

 

こうして心身ともに健康で活動意欲に満ちた高齢者が社会に溢れ、その元気な姿を日々目にするようになれば、次の世代も「自分たちも同じようになりたい」と見習おうとするでしょう。そうすれば、世代を超えた良い循環が社会に生まれるようになっていくと思います。

 

なお、「スマート・エイジングのための7つの秘訣」のうち、本稿で取り上げなかった他の6つについてご興味のある方は、拙著「スマート・エイジングという生き方」(扶桑社新書)をご一読ください。

 

 

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