810 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第89

ロングステイ_マレーシア未経験なことへの「意向」を尋ねると回答の信憑性は低下する

 

シニア市場に参入したいという企業担当者から必ず受ける質問の一つは、「シニアが何を必要としているか、そのニーズを知りたい」というものだ。そして、その解答を得る手段として彼らが頻繁に行なうのがアンケート調査である。ところが、その実施方法や設問の設計などにしばしば問題が見られる。

 

アンケート調査という手法は、設問を回答者の「現状の事実関係の確認」に限定すれば、回答者が虚偽の回答をしない限り有用だ。たとえば、性別、住所、年齢、生年月日、資格の有無などを尋ねる場合である。

 

ところが、設問内容を未経験なことに対する「願望」や「意向」を尋ねる性質のものにすると、その回答の信憑性は著しく低下する。

 

たとえば、40歳から60歳までの母集団に「あなたは、海外に数か月滞在するロングステイをしてみたいと思いますか?」「ロングステイの場所は、カナダ、オーストラリア、タイ、マレーシアのどこがいいですか?」「ロングステイにいくらまで予算をつぎ込めますか?」などの設問の場合だ。

 

回答者は、自分が経験したことのない商品・サービスに対しては、実感が湧かないため「明確な判断基準」を持たない。このため、回答への意識が希薄になりやすく、回答内容の信憑性が低下する。

 

先の母集団に「老後は田舎暮らしと都会暮らしと、どちらを希望しますか?」という設問をする場合も回答の信憑性が下がる。その理由は、まだ老後になっていない人に老後の生活を尋ねる点にある。自分の老後が想像できない人に老後自分がどうなっているのかを尋ねても明確な回答は得られない。

 

このような設問をされると、「よくわからないから適当に回答しておけ」という気持ちが回答者に起こりやすくなる。こうした理由から、未経験なことに対する設問の場合、アンケート調査結果の信憑性は下がる。

 

回答内容は選択肢の作り方で信憑性が変化する

 

一方、設問内容がこれまで自分が経験したことだとしても、回答の選択肢に自分の状態あるいは考えに合致する表現がない場合、回答しづらくなるため、回答内容の信憑性が下がる。

 

たとえば、「あなたは、どんな気分の時に運動をしたいと思いますか?」という設問に対して、回答の選択肢が、①気分転換したい時、②体が疲れている時、③落ち込んだ時、④体重が増えた時、⑤運動不足だと感じた時、の5つとする。

 

この設問に対して、あなたが仕事の締め切りが迫っているのに、一向に仕事がはかどらない状況の場合、どれを選択するだろうか。恐らく①を選択する場合が多いと思われるが、⑤を選択する人も少なくないだろう。気分が塞いでやる気が出ないのだとすれば、③を選択する人もいるだろう。

 

あるいは、脳こうそくで倒れた後、運よく機能回復した人なら、リハビリのために運動したいと思うだろう。しかし、それに合致する選択肢がないので、回答せずにスキップするだろう。

 

このように、アンケートの回答内容とは選択肢の作り方で信憑性が大きく変化する性質がある。

 

設問文章や文脈の巧拙で回答内容は大きく変わる

 

実は回答選択肢の作り方だけでなく、設問文章や設問文章全体の文脈の巧拙によっても回答内容は大きく変わる。

 

設問に答えれば答えるほど、回答者の問題意識を駆り立て、そのテーマへの関心が深まり、回答意欲が湧いてくる設問のデザインがある一方、設問内容が回答者の問題意識よりもレベルが低く、回答意欲がまったく湧かないという設問のデザインもある。私が知る限り、世の中のアンケート調査の大半は、残念ながら後者だ。

 

アンケート調査に答えると言う作業は、一般に楽しいものではない。できれば最小限で済ませたい類の作業だ。このため、設問の数や記入欄の書きやすさが回答内容の信憑性に影響する。

 

一つのテーマについてあまり多くの設問があると、たいていの場合、回答者は途中で回答するのが面倒になる。また、自由コメント記入欄が小さく、記入しづらいとコメントを記入される確率が低下する。

 

アンケート調査のこうした特徴を理解していないために、本来得られるはずの重要な情報をみすみす失っている例は枚挙に暇がない。

 

 

参考文献:成功するシニアビジネスの教科書

 

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