最近目にする「CCRC」という言葉

保険毎日新聞 連載 シニア市場の気になるトレンド 10

ccrc「CCRC」という言葉を目にすることがある。CCRCとはContinuing Care Retirement Community(継続介護付きリタイアメント・コミュニティ)のことで、主にアメリカで発達した高齢者居住コミュニティのことだ。

 

最近、政府が高齢者の都会から地方への移住を支援する方針を打ち出した。地方にバリアフリーの高齢者向け住宅をつくり、健康なうちに地方に移り住んでもらい、退職後の第二の人生を楽しめるようにするというものだ。実はこのモデルにしているのがCCRCなのである。

 

政府は高齢者住宅の建設や運営費を補助するほか、移り住んだ場合の助成金の拡充を検討している。地域を絞って規制緩和する「地方創生特区」の指定も視野に入れている。半年間、お試しで移り住んでもらえるよう入居費を補助する案も浮かんでいる。地方への高齢者移住を支援することで地方の活性化を図ろうというのが狙いだ。

 

リタイアメント・コミュニティは日本でうまくいかない典型

 

シニアビジネスを発想する場合、海外で売れているものが日本でも売れないかを考えるのも一つの方法だ。これは、外食産業やアパレル産業、小売業など、さまざまな業界でいくつもなされてきた手法である。

 

一方、外国発のシニアビジネスが日本でうまくいかない典型は「リタイアメント・コミュニティ」だ。リタイアメント・コミュニティとは、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどに特有の大規模な老人ホーム。なかには一か所に3000人も居住している例もある。

 

リタイアメント・コミュニティには、先に挙げたCCRCとAARC(Active Adults Retirement Community、元気高齢者向けリタイアメント・コミュニティ)がある。アメリカに圧倒的に多いのはCCRCである。アリゾナ州にある有名なサンシティ(Sun City)は、AARCだ。

 

このリタイアメント・コミュニティについては、日本では2000年頃からさまざまな企業が挑戦してきたが、未だに成功例はない。現存するものでアメリカ型のリタイアメント・コミュニティに近い例としては、千葉市稲毛区にある「スマート・コミュニティ稲毛」が挙げられる。

 

しかし、実はここはCCRCではない。CCRCには通常インディペンデント・リビング (Independent Living)と呼ばれる自立健常者向けの住宅と、アシステッド・リビング(Assisted Living)と呼ばれる介助サービス付きの居住棟と、重度の要介護者が介護サービスを受けられるスキルド・ナーシング・ファシリティ(Skilled Nursing Facilities,日本の介護施設に相当)が同一敷地内にある。

 

ところが、スマート・コミュニティ稲毛には、訪問介護サービスの会社はあるが、これらの介助・介護施設がまったくない。したがって、入居者が重度の要介護状態になれば、所有権はあるものの、ここから退去して別の介護施設で新たに料金を支払って、介護を受ける必要がある。

 

アメリカ発のリタイアメント・コミュニティが日本でうまくいかない理由とは?

 

リタイアメント・コミュニティが日本に馴染みにくい最大の理由は日米で市場構造と文化が違うことにある。アメリカのリタイアメント・コミュニティでの居住地域は、前掲の通り、インディペンデント・リビング、アシステッド・リビング、スキルド・ナーシング・ファシリティの3つが基本だ。この3つに、レストラン、フィットネスジム、病院などの施設がセットで構成されている。

 

一方、日本では「健常型」か「介護型」、あるいは両者の「混合型」(健常型と介護型がセットになったもの)に二分され、「介助型」とでもいえるアシステッド・リビングという概念が厳密には存在しない。仮にアシステッド・リビングと謳っていても、実質は介護型になっている。

 

日本の混合型有料老人ホームでは、健常型に入居してくる人でも、実は身体に何らかの不具合があり、介助や付き添いが必要な人が多い。つまり、近い将来の要介護予備軍が健常型に入居し、本当に健常な人は自宅に住み続けるのだ。このように、アメリカ式のリタイアメント・コミュティの居住形態と日本の老人ホームの居住形態とは大きく異なる。

 

また、アメリカ人の「パーティー文化」も日本人にはあまり馴染まない。日本の高級老人ホームに行くと、立派なバー施設を備えたところが多いのだが、バーの利用者はほとんどいない。こうした老人ホームでは、入居者どうしがホームの中で一緒に酒を飲むのを避ける傾向がある。そこでは入居者どうしが、互いに感情的にぶつからないように自己主張しないように意識している人が多いためである。

 

老人ホームは基本的に共同住宅なので、入居者どうしで一旦感情的な対立が起こると、互いに居づらくなるからだ。このため、こうした公共スペースの利用者はアメリカに比べるとかなり少なくなる。私が以前訪れたある高級老人ホームでは、バーカウンターが果物置き場になっていた。

 

政府主導の高齢者地方移住策は「シルバーコロンビア計画」を思い出させる

 

冒頭に述べた政府による高齢者の地方への移住支援政策は、かつて大失敗した「シルバーコロンビア計画」を思い出させる。これは1986年に当時の通商産業省(現・経済産業省)が退職金と年金とで老後を海外で過ごすことを提唱したものだ。

 

民間企業とともに海外に日本人の集まる「退職者村」をつくるというもので、例えば、スペインの有名リゾート地、コスタ・デル・ソルなどでの建設を予定していた。

 

しかし、この計画は内外から大きな批判を受け、実行に至らなかった。批判の第一は「日本は自動車やハイテク機器だけではなく、老人までも輸出するのか」、第二は「日本人しか利用できない排他的な施設を建設するのか」というものであった。

 

今回の政府案は、「海外」を「日本の地方」に置き換えているだけで、根本的な発想がほとんど同じであることに気が付く。したがって、こうした案に対しては「老人ばかりを地方に移住させるのか」「なぜ、老人ばかりの退職者村を建設するのか」というような批判が起こることが十分に予想される。「歴史は繰り返す」だ。

 

本連載8月号で1960年代にアメリカ・アリゾナ州に建設された高齢者コミュニティ「サンシティ(Sun City)」のことを紹介した。全米各地に何か所か建設されたが、建設から30年、40年と経過するにつれ、いろいろな問題が出てきた。

 

最大の問題は、コミュニティの居住者が高齢者ばかりになってしまったことだ。入居当初は55歳以上限定の割に活気があったのだが、年月の経過とともに徐々にコミュニティの活気が失われていった。たとえば、住民組合の代表が、何か新たな取り組みをしようと呼びかけても、「自分はもう先が長くないから、いまのままでいい」などと、後ろ向きな態度で対応されることが多くなったのだ。

 

アメリカの猿マネと政府の補助金ベッタリの構想の先行きは怪しいと言わざるを得ない。保険業界も外資のマネばかりせず、日本のシニアのニーズを正面からとらえた独自商品を開発すべきだろう。



成功するシニアビジネスの教科書

第3章 いかにしてシニアビジネスを発想するか?―シニアシフト時代の水平思考の仕方

 

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