スマートシニア・ビジネスレビュー 2007年5月14日 Vol. 104

OLYMPUS DIGITAL CAMERA         4月初旬に私の友人のアメリカ人15人が日本にやってきた。

彼らは皆エイジング分野の専門家である。
「高齢社会の未来を考えるなら、日本を見なければだめだ」と 私が常日頃言い続けてきたため、
「それじゃ、ぜひ、行ってみよう」と集まってくれた有志だ。

グループの平均年齢は60歳。
多くのメンバー自身が話題の「ベービーブーマー」である。
参加メンバーは、保険会社の研究所所長から老人ホームや
マーケティングの専門家と多種多彩。

しかし、その大半は日本に来るのが初めての経験。
日本語もほとんどできない。最高齢83歳の女性も一緒。
杖をついて歩く人もいた。

このユニークな(?)グループを率いて、
一週間の滞在の前半は「ビジネストリップ」。
東京を中心に複数の日本企業と老人ホーム三箇所を訪れた。
後半は日本の文化に触れてもらう「カルチャートリップ」。
京都を中心に比叡山・延暦寺まで足を運んだ。

今回このグループと行動を共にして改めて感じたことがある。
それは、外国人に日本を理解してもらうには、
本人に身銭を切ってもらい、
直接日本に来て自ら体験してもらうのがベストだということだ。

bushido新渡戸稲造が「武士道」を書いたとき、
時のアメリカ大統領セオドア・ルーズベルトが、
「この本は日本という国を理解するのに良い本だ」と判断し、
即座に30冊購入してホワイトハウスのスタッフはじめ
知人に配ったという話は良く知られている。

しかし、当時はホワイトハウスのスタッフですら、
日本がどこにあるのかもよく知らない人間がいた状況で、
一種の教養本として読まれたに過ぎない。

いわんや、自ら日本までわざわざやって来るようなアメリカ人は、
当時の知識層においてほとんどいなかった。

新渡戸は第二次世界大戦前に日米開戦に反対して、
晩年に命を削ってアメリカ中を講演のために東奔西走した。
だが、人々ははるか遠い異国のこととしてほとんど関心を寄せなかった。
当時の日本の国際的な認知度、存在感の低さを考慮すれば、
仕方のないことだろう。

しかし、実はこの構造は現在においても続いている。
私自身、アメリカ国内のいろいろな場で発表したり、
会議に参加したりする機会が多いが、
依然、アメリカの知識層における「日本無知」を頻繁に感じる。

テレビのハイビジョン放送やインターネットの発達で、
現在は10年前とは比較にならないほど、
居ながらにして様々な情報を容易に入手できるようになった。
ディスカウント航空券なら日米往復も数万円で可能となり、
数多くの日本人、アメリカ人がビジネスや観光で行ったり来たりしている。

にもかかわらず、アメリカの知識層のなかで
日本のことを深く理解している人が果たして
どの程度存在するのかは極めてあやしい。
そして、これと同じことは日本人にも言える。

戦後、日本ほどアメリカの産業と文化を
良くも悪しくも吸収した国はないだろう。
多くの日本人にとって、アメリカほど「日常化」した国はないと言えよう。
にもかかわらず、多くの日本人はアメリカという国を
表面的に知った気になっているだけで、
その深層を知らないまま、見過ごしてしまいがちだ。

ネットやIT技術がますます発達する時代には、
こうした傾向がますます強くなるだろう。

japan trip kyotoだからこそ、自分の足で歩いて、目で見て、耳で聴いて、鼻で匂いを感じて、手で触れる機会がますます大切さになっていく。本やネットで知るのと実際に体験するのとは歴然と差があるからだ。

忙しいなか、今回身銭を切って日本まで来てくれた
アメリカの友人たちに深く感謝したい。

また、業務でお忙しいなか、彼らを暖かく受け入れ、もてなして下さった
多くの日本企業の皆さんに心から感謝したい。

最初に訪れたある企業では、社長、副社長以下、
スタッフの皆さん全員が起立し、拍手で私たち一行を出迎えて下さった。
彼らはこうした日本企業の礼儀正しさやきめ細やかな気遣いに
商品やサービスの素晴らしさ以上に、強く心を打たれていた。

そして、大津の訪問アレンジでお世話になった
友人の
竹林正子さん・幸祥さん夫妻
深くお礼を申し上げたい。

実はちょうど来日中に長年の親友をガンで亡くした友人がいた。
比叡山延暦寺の僧侶である幸祥さんの粋なはからいで、
その友人のために延暦寺で法要を催していただいた。
法要が始まると、それまで笑顔を絶やさなかった友人は、
目を瞑ったまま、嗚咽を止むことがなかった。

sakura桜の花が咲くのは年に二週間しかない。
満開の桜が咲く京都を訪れたのは、
日本人の私ですら生れて初めてだった。

初めて日本に来て満開の桜が咲く美しい京都を
見ることができた彼らは何と運が良いのだろう。
しかし、その彼らの来日のおかげで、
私自身も多くのことに新たに気づくことができた。

彼らとの一週間の滞在は、
桜の花のように一瞬に過ぎ去った。
だが、その一瞬は、メンバー全員の心に刻み込まれた
永遠の一瞬となった。


●参考情報

中高年男性"不感症"の予防薬
スマートシニア・ビジネスレビューVol. 30