超高齢社会で求められる生活習慣としての脳トレ

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シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第117回

社会問題化した高齢ドライバーによる交通事故

昨年に目立ったのは高齢ドライバーによる交通事故だ。この類の事故は昔からあったが、昨年は事故の起きる件数、ペースが急増し、一気に社会問題化した。

これまで政府や自治体、警察は65歳以上の高齢者の認知機能検査を強化し、認知機能が不足すると判断された場合は、運転免許の「自主返納」を推し進めてきた。

このおかげで65歳以上の高齢者で15年に自主返納したケースは、10年前の15倍に当たる27万件に達している。だが、この数値は65歳以上の免許保有者の2%弱に過ぎない。

返納が進まない最大の理由は、高齢者にとって自分の意思で自由に移動・運搬できる手段がなくなるためだ。特に公共交通機関が十分でない地方では、買い物に行くのにクルマがないと不便だ。代替手段として行政がコミュニティバスを走らせる例も多いが、大半が赤字で財政が厳しくなると廃止される例も多い。

高齢ドライバーの事故防止には脳トレが有効

高齢ドライバーの事故防止に対する全く別のアプローチは、2004年から日本自動車工業会(自工会)が取り組んでいる「いきいき運転講座」である。これは高齢ドライバーの「運転能力そのものを改善する」という取り組みだ。

この講座は、4つの「交通安全トレーニング」と「交通脳トレ」を組み合わせ、効果的に安全運転能力、安全意識と脳機能を高める内容だ(写真)。開発に当たっては、脳科学者で脳トレを世界に広めた東北大学加齢医学研究所長 川島隆太教授が監修している。

講座の参加者からは『最初に「交通脳トレ」+「危険予知トレーニング」をやると聞いた時は、難しそうで困ったと思いましたが、間違い探しやグループ内での意見交換や発表など大変楽しく勉強できました』といった肯定的な声が多く聞こえてくる。つまり、実際に脳トレ体験をすると、その有効性を納得するのだ。

「いきいき運転講座」は、高齢ドライバーの運転能力を向上するためのものだが、実は脳トレをきちんと行うことで、クルマの運転以外の日常生活においても認知能力を維持向上できることが科学的にわかっている。

健康意識がかなり高い人でも脳トレを日常生活で実施している人は少数

私は昨年11月に東京で開催した日経スマート・エイジング・フォーラムに講演者として参加した。フォーラム参加者は概ね50歳以上の男女で日経新聞の読者。アンケート結果によれば「健康寿命延伸」のための意識がかなり高い母集団である。

この母集団に「健康寿命延伸」のために日ごろ実践していること、気をつけていることを挙げてもらったところ、かなり多くの割合が「ウォーキングや運動に取り組んでいる」と回答した。

ところが、「脳トレに取り組んでいる」と回答した人は非常に少なかった。つまり、今回のような健康意識がかなり高い母集団でも、脳トレを日々実践している人はごく少数にとどまっているのだ。

私はこの最大の理由は「脳トレを実践してみたいが具体的な手順・方法を知らないこと」ではないかと思う。

多くの方は脳トレという言葉は知っていても、そもそも何をどうすれば脳のトレーニングになるのかがよくわからない。加えて、自分で実施する脳トレの効果は通常自分で見ることができず、かつ、体感もしづらい。

科学的根拠に基づき、しっかりした理論に裏付けられた「真の脳トレ」を知りたい、実践したい、という社会的ニーズが高まっている。2016年はそうしたことを実感した年だった。

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