弱者の戦略

スマートシニア・ビジネスレビュー 2017年5月1日 Vol.221

4月24日にシンガポールで開催された第5回Eldercare Innovation Awardsの「ファイナリスト・プレゼンテーション」に審査員として参加しました。

今回は「イノベーション・オブ・ザ・イヤー」など20部門が設定され、7か国の審査員が審査しました。ファイナリスト・プレゼンでは、昨年同様、1件5分の英語のプレゼンを80件審査する体験をしました。

1件5分ですが、これが80件となるとプレゼンだけでも7時間弱。発表者の入れ替えと休憩時間を含み、9:15から18:15まで9時間。羽田発の深夜便でその日の早朝にシンガポールに到着した身には大変ハードな体験でした。

さて、昨年もコメントしましたが、80件のプレゼンを一気に拝聴して痛感するのは、発表者による「5分間の使い方」の差です。

5分のプレゼンは時間が短すぎるという意見もあります。しかし、5分という時間は、工夫すればかなり多くの情報を伝えることができます。

実は今回の審査でも、この5分間で創意工夫を凝らしたファイナリストが部門別の最優秀賞を獲得しました。その一例が、「イノベーション・オブ・ザ・イヤー 商品開発部門」で最優秀賞を受賞したQanemate Qaneという会社です。

この会社は、QANEという高齢者向けの転倒予防機能付きの杖を開発したのですが、発表者は13歳の男の子と11歳の女の子でした。

大人の専門業者ばかりが発表する中で幼い子供二人が発表するという意外性にまず印象付けられました。

しかし、受賞の真の理由はそこではありません。

5分間をフルに活用し、二人で分担してありとあらゆるデモとプレゼンをしたのです。とりわけ感心したのは、開発した杖を女の子が審査員の手元まで持ってきて身振り手振りで商品機能を懸命にアピールする姿。私を含む多くの審査員はそのひたむきな「サービス精神」に感銘を受けたのです。

私はこの姿を眺めて「弱者の戦略」という言葉を思い出しました。

この言葉は、子供=社会的弱者を活用するなどという意味では決してありません。この言葉の真の意味は「弱者の方が強者より創意工夫を凝らす」ということです。

昨年とは別の意味でプレゼンの基本の心得を再確認した良い機会となりました。

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なお、日本企業では次の皆さんが最優秀賞を受賞しました。

<年間最優秀施設(エイジングインプレイス部門)>
株式会社 舞浜倶楽部/舞浜倶楽部

<年間最優秀施設(介護付高齢者住宅部門)>
株式会社キャピタルメディカ/クラーチ佐倉

<最優秀健康改善プログラム部門>
医療法人社団 悠翔会/誤嚥性肺炎予防栄養支援チーム

<最優秀スマートケア技術サービス部門>
株式会社シルバーウッド/VR認知症

第5回Eldercare Innovation Awardsファイナリスト(英語)