シニア市場は「女性主導」市場

国内動向

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第127回

シニア市場は退職男性の市場、という俗説

シニア市場は退職男性の市場だと思っている方が企業経営者には多い。以前本連載で述べた通り、男性の大きなライフステージの変化である退職をきっかけに新たな消費が発生するのは確かだ。

しかし、シニア市場が退職男性の市場だと思い込んでしまうと、市場を見誤る

図は、その人口動態の男女の数値を同じ軸に重ねたものだ。縦軸が人数、横軸が年齢。日本の高齢化率は16年9月現在27.3%で世界一。男女比は70代で1対2、80代で1対3程度。老人ホームに行くと、開所当初は男性:女性が4:6程度だが、5年も経つと大体2:8程度になる。

団塊世代よりも上の年齢層は女性の数が圧倒的に多い

図中の60歳以上で出っ張って目立つところが団塊世代である。注目してほしいのは、団塊世代よりも上の年齢層。男女重ねたグラフで飛び出ている箇所は、実は女性。女性の数が圧倒的に多いのだ。これよりシニア市場は「女性主導」市場であることがわかる。

ただし、シニア市場が女性主導市場というのは、男性のことは忘れてもよいという意味ではない。女性の数の方が多いので女性に受け入れられることを考えた方がビジネスになりやすいということだ。

その良い例は、女性専用フィットネス「カーブス」だ。05年7月の1号店開店から12年以上経過した現在、全国1,834店舗、84万人の会員を抱えるまでに成長した。会員は全員女性、平均年齢は62歳。人数割合が多いことは潜在市場も大きいことをカーブスの成功が示している。

退職後に男性が活躍するため必要なことは何か?

シニア市場が女性主導市場であることが男性市場にも大きく影響する。

私の周辺では多くの退職前サラリーマン男性が、退職後の活動の場や機会を求めて議論している。議論の中身は「現役時代のスキルの棚卸が必要だ」「ジョブマッチングの精度を上げることが重要だ」など、自分のキャリアとマッチした活動の場を探し出せるシステムが構築できないか、といった内容が多い。

しかし、私は退職後の男性が活躍するために最も必要なことは「女性とのコミュニケーション力」だと思う。

前述の通り、多くの老人ホームは、いわば「女性の園」。だから男性は、将来老人ホームに行ったら多くの女性に囲まれる。

男性にとって楽園のように思えるが実態はそうとは限らない。女性も目が肥えているので、男性なら誰でもモテるわけではない。これからの男性は高齢になっても格好良くダンディでないとモテないだろう

シニア男性には女性とのコミュニケーション力が不可欠

例えば、ホームの食堂では女性たちは適当に仲間をつくり、おしゃべりと共に食事を楽しむ。一方、男性ではテーブルの端の方にポツンと一人で黙々と食事をしている風景をよく目にする。

こうした風景は老人ホームに限らない。高齢者向けのあるNPOに退職後の男性が「ボランティアをやりたい」と門を叩いてきた。主催者は男性スタッフが少ないので当初は大歓迎した。

ところが、事務所に来ても席に座っているだけでほとんど何もしない。挙句の果てにビールを持ってきて一人で飲み始め「前の職場ではこうだった」と昔の自慢話を始めた。さすがの主催者もこの人には辞めてもらったが、こんな例が少なくない。

会社組織は役職による階層が明確な「階層社会」である。「○○長」という肩書きがあることで、周囲がそれなりに扱ってくれる便利な社会だ。しかし、退職とは、こうした階層のない「フラットな社会」に飛び出すことである。これが退職サラリーマンにとって最初に直面する大きな戸惑いの一つとなる。

したがって、退職後に必要なのは、会社とは違うフラットな社会において円満な関係を構築できる力量だ。その核が「女性とのコミュニケーション力」なのだ。なぜなら、地域の女性たちは肩書なしの「フラットな関係性」での活動に慣れているからだ。

こうした力量を身につけるには退職後では遅すぎる。現役時代のなるべく早い段階から会社以外の「フラット社会」に参加して実践する以外にない。社外の勉強会でも地域ボランティアでも何でもよい。

その際特に気を付けることは①自慢話をしないこと、②説教をしないことだ。

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