過剰な自粛より運動して基礎疾患を改善

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サーキット運動群と対照群の変化量

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第161回

サーキット運動の即時効果を初めて検証

東北大学加齢医学研究所と女性専用フィットネスクラブ最大手のカーブス・ジャパンが最近、興味深い共同研究成果を発表した。

それは中高年女性が30分のプログラムを一回行うだけで、認知力の一種である「抑制能力」(がまんする力)と「活力」(ポジティブな気分)が即時的に向上すること(即時効果)を初めて明らかにしたことだ。

即時効果とは、その介入行為を行うとすぐに現れる効果のことを言う。これまでの研究で有酸素運動は高齢者の認知機能向上に即時効果があることは知られていた。

しかし、カーブスのようなサーキット運動の即時効果の詳細は、これまでほとんど研究がなされていなかった。

研究では「無作為比較対照試験」という手法でサーキット運動による即時効果の検証を行った。これは医療分野で用いられる根拠の質(エビデンスレベル)の高い研究手法だ。

具体的には、中高年女性64人を、プログラムを実施する「サーキット運動群」と運動をしないで待機する「対照群」に分け、運動の前後で認知機能検査と心理アンケートを行い、その変化量を比較することで、サーキット運動の即時効果を調べた。

解析の結果、サーキット運動群の方が対照群よりも、抑制能力(検査名:ストループ)と活力(検査名:活気-活力尺度POMS-II)が向上することが明らかになった(図)

抑制能力とは感情や行動のコントロールに関わる機能のことを言う。例えば、ちょっとしたことでイライラしないよう感情を抑え、人間関係を良好に保つ能力のことだ。また、活力とは物事を前向きにとらえ、毎日を前向きに楽しく過ごす能力のことだ。

コロナ禍が続く中、精神的なストレスがたまり、感情的になりやすく、落ち込みやすい日々が続いている。こうした状況下では、何らかの方法で抑制能力や活力を向上させることがきわめて有用だ。

基礎疾患ない高齢者の死亡率は低い

新型コロナウイルス感染症の拡大初期段階の本年2月頃、千葉県のスポーツジムの温浴施設で計5人の感染が発覚した。千葉県初の「クラスター(集団感染)」と言われたことで多くのメディアに取り上げられた。それ以来「スポーツジムはクラスター業種」と見なされたため、業界は3月から営業自粛を余儀なくされた。

その後、多くのスポーツジムでは感染予防対策を施して営業再開したが、一度「クラスター」のレッテルを張られるとそのイメージはなかなか払しょくされにくい。

一方、東京都の発表資料「東京都における新型コロナウイルス感染症による死亡症例」(6月30日までの集計)によると、陽性患者6,225人のうち、死亡症例は325例で死亡率は5.2%。死亡者の内訳は男性199人、女性126人、平均年齢は男性77.1歳、女性82.9歳。

高齢者ほど死亡割合が高く、90歳代が33.9%、80歳代が30.2%、70歳代が17%だが、一方で50歳代以下の死亡割合は0.5%と非常に低い、と報告されている。

ここで注意したいのは、死亡者のなかで基礎疾患の有無が確認できた198人のうち、基礎疾患(糖尿病、高血圧、腎疾患などの疾患)があった人が194人、なかった人が4人であること。つまり、死亡者の98%が何らかの基礎疾患を持っていた人だという点だ。

現状では高齢者層に基礎疾患保有者の割合が多いのは事実だ。だが、基礎疾患がない高齢者の死亡割合は、70代女性で5.9%、80代女性で3.7%であり、症例全体の死亡率5.2%とさほど変わらない

これらのデータより、基礎疾患がある人は感染症による死亡リスクが高いと言えるが、高齢者は死亡リスクが高いとは一概に言えないことがわかる

つまり、高齢者であっても、基礎疾患のない健康な人であるならば、死亡リスクは他の年齢層と同水準なのだ。

従って、新型コロナウイルス感染時の死亡リスクを下げるには、基礎疾患を持たないこと、持っていても何らかの方法で改善することが重要なのだ。

今回の研究成果が示しているのは、過剰な自粛で運動不足になって精神的ストレスを溜めるより、きちんとした感染予防策を講じている場所で科学的に効果検証された運動を行うことの有用性だ。

そうした運動により前向きな気持ちで基礎疾患を改善・予防できることで、むしろ感染症による死亡リスクを下げるということだ。

東北大学プレスリリース

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