「ゆるやかな大家族」が生み出す新たな需要

保険毎日新聞 連載 保険業界はシニアシフトにどう対応すべきか?第11

シニアシフト連載【第11回】大家族へ回帰する米国

 

近年、米国ではベビーブーマーの「大移動」が始まっている。移動には3つのタイプがある。第1のタイプは、いま住んでいるところよりも税金や生活費の安いところへの移動。第2のタイプは、広大なヤード(芝生の庭)のある大きな家から、もっと小さな家への移動。いわゆるダウンサイジングだ。

 

さらに、第3のタイプは、世帯ごとに独立して居を構えていたのを、親子2世帯あるいは親子孫3世帯など、「多世代世帯」で同居する家への移動である。多世代世帯とは、親・子、親・子・孫、親・孫などの複数世代がひとつ屋根の家に一緒に住む形態のことを言う。最近の調査によれば、今後10年間に米国の世帯の3分の1が多世代世帯になるという。

 

核家族が大部分で親・子がそれぞれ別に住む習慣が強い米国には、日本で一般的な2世帯住宅は極めて少ないイメージが強い。ところが、2世帯・3世帯の住宅は地方都市には結構存在する。クリーブランドで見た住宅地は単一世帯住宅と2世帯住宅とが混在しているところだった。

 

米国の2世帯住宅は、日本同様、1階に親世帯が住み、2階に子供世帯が住む形態が一般的だ。入り口が2つあり、両方並んでいるものもあれば、別々に設置されているものもある。これも日本で同様に見られるものだ。

 

一方、日本との違いは、3階が屋根裏になっていて各々の世帯が共同で利用する空間になっていることや、地下室があり、冷暖房機器や洗濯機が置かれていたり、倉庫になっていたりすることだ。また、面積も日本よりも広めだ。

 

日本の首都圏の建売り一軒家は30坪程度が多いが、クリーブランドで見たものは60坪程度あった。これに駐車場と庭を入れて80坪程度と日本の首都圏のものに比べるとかなり広い。中古の場合、この程度の住宅だと土地込みで9万ドル。1ドル=100円としても、何と900万円だ。

 

中古の場合は改修費用が加算されるのでもっと高くなるが、それを差し引いても安いだろう。3世帯住宅では、このような2世帯住宅に3世帯で住むことを想定しているようだ。その場合、世帯当たりのコストはさらに安くなる。

 

米国は大都市を除けば、一般に土地は広く、価格も安い。独立志向が強く、世帯ごとに別々に住む習慣のある米国人が、なぜ多世帯住宅に向かうのか。それは若い世代の経済的理由である。都市部に比べて相対的に安い地方でも、若い世代が住宅を買えなくなっているというのだ。

 

その理由は、仕事が減っているためだ。産業の空洞化、景気の低迷、農業人口の減少で地方都市では若者の就業機会が減っているのだ。

 

産業空洞化による若年層の所得水準低下

 

ここまでの米国の話を聞いて「なんだ、日本と同じことが起こっているじゃないか」と思われた方も多いだろう。産業の空洞化、景気の低迷、農業人口の減少で若者の就業機会が減っているのは、日本も同じだからだ。

 

日本の場合は、長引く円高傾向に加えて、2011年の大震災以降のエネルギー不安により、製造業の海外移転が加速している。こうした産業の空洞化の進展に加え、長引くデフレが私たちの所得水準を低下させた。

 

図表は、2000年と2010年の世帯主の年齢階級別年間所得を比較したものである。この10年で各年齢層とも年間所得が低下していることがわかる。最も金額が低下しているのは50代で、819・3万円から731・9万円へと87・4万円も下がっている。

 

だが、厳しいのは29歳以下の年齢層だ。338・3万円から301万円へと下げ幅は、50代よりも少ない37・3万円だが、年収301万円という水準は、70歳以上の406・5万円よりも100万円以上少ない。

 

政府は、アベノミクスで景気を回復し、所得水準を上げると言っているが、まだしばらく時間がかかるだろう。長期的な産業構造の変化がない限り、高度成長期のような所得の増大は考えにくい。

 

所得の低下が大家族化を加速

 

このような所得の低下、特に若年層での所得の低下は、私たちの家族形態にどのような変化をもたらすのだろうか。結論から言えば、米国で起きていることと同じことが起こる。つまり、大家族化を加速するだろう。ただし、日本の場合、住宅事情から大家族化=大きな家に同居とは限らない。

 

とりわけ90年代後半から「近居(近接居住)」という形態が増えてきた。近居というのは、電車やクルマで、おおむね30分以内で行き来できるくらいの距離に互いに住む形態だ。

 

近居にはメリットが多い。同居しているとお互いにいろいろ気を遣ってストレスが溜まるが、近居なら別居なのでそれが減る。一方で身体の衰えを感じる親世帯にとっては、子供が近くに住んでいるために、いざという時には世話をしてもらえる安心感がある。また、孫にもすぐに会え、交流もしやすい。

 

他方、子供世帯にもメリットが多い。まず、子育てを手伝ってもらえる。また、食費などの生活費の援助も受けられやすい。さらに、子供なしでちょっとどこかへ出かけたい時には子守を頼める。

「ゆるやかな大家族」が増加傾向に

 

このように、親世帯と子供世帯が近居をすると、同居はしていないけれども、親、子、孫の3世代が大家族のようにともに行動する機会が増える。私は、これを「ゆるやかな大家族」と呼んでいる。

 

この「ゆるやかな大家族」では、同居していないことで親と子または親と孫が直接顔を合わせる「回数」は減るが、そのことが逆に直接顔を合わせた時のコミュニケーションの「密度」を高める。

 

つまり、顔を合わせた時に相手とのコミュニケーションを深めようとする気持ちが湧き、その際、近くに住んでいるために行動をともにする機会が多くなる。これにより、親、子、孫の3世代による買い物や外食、レジャーなどで新たな消費が生まれ、結果として親であるシニア世代の消費支出が促されている。

 

「ゆるやかな大家族」では、普段家族全員が同居していないためか、互いの記念日のお祝いやそのお返しなどの家族イベントに力を入れる傾向がある。一方、このような「大家族」による外出機会の増加は、ミニバンなど大人数向けの移動手段の需要も生み出す。

 

さらに、同居していないために、かえって頻繁に連絡を取り合うため、電話、インターネットなどのコミュニケーション需要も増える。「ゆるやかな大家族」では、同居せずに互いに一定の距離を置いていることで、むしろコミュニケーション密度が高くなる。これが新たな需要を生み出す背景となっている。保険業界もこうした家族形態の変化が生み出す新たな需要に商機を見出すべきだろう。

 

 

参考文献:シニアシフトの衝撃

 

あわせて読みたい関連記事


タグ


このページの先頭へ

イメージ画像