不動産経済ファンドレビュー 201425日号 Focus

不動産経済ファンドレビュー_140205_目次_(P1)世界でも例のない超高齢化社会に突入した日本。世帯主が65歳以上の世帯の1人当たりの支出水準は全世帯平均を上回り、貯蓄は全世帯平均の1.4倍に達している。消費のポテンシャルが高いシニア世代は各方面から注目の的だ。シニア世代の消費はどこへ向かうのか。高額品を中心にその動向に迫った。

 

十把一絡げでは語れない消費行動の実態

Tリテラシー高い「スマートシニア」がこだわり層

 

高齢化が進む先進国の中でも、日本は先頭を走る超高齢化社会だ。 65才以上のシニアの数は2013年9月時点で3186万人。総人口に占める割合は25%。実に4人に1人がシニア世代だ。彼ら彼女からの消費は、これからの日本の経済の行方を握る「鍵」といってもいい。

 

しかし、シニア消費を見る上では、すべてのシニアを十把一絡げにしたアプローチでは実態にそぐわない。現在6567才となった団塊世代とその上の世代とでは消費志向や求めるライフスタイルに大きな違いがあるからだ。

 

全般的にシニアは貯蓄に熱心とされる。これは間違いではないが、団塊世代は「貯めるだけ」ではなく、使う世代でもある。博報堂の新しいおとな文化研究所が2013年にまとめた「新大人研レポート3」では、団塊世代を含む60代はどの世代よりも投資運用に意欲的で、消費への意欲も明らかであり、従来の高齢者層とは異なる「お金を増やして使う新エルダー」である、とまとめている。

 

シニア世代の主要な関心事の1つである旅行についても、団塊世代には顕著な特徴が見られる。シニアの富裕層を対象に、平均70万円のパッケージツアーを販売するJTBロイヤルロード銀座では2013年に完全に退職した団塊世代の伸び率は1020%。 ヨーロッパヘの旅行を好む点ではその上の世代と違いはないが、食に対するニーズが異なるという。 70代以上がツアー中も日本食を食べたがるのに対して、団塊世代には日本食ニーズがほとんど見られないのである。 日本食よりも強いのは、3つ星レストランや現地でしか体験できないイベントヘのニーズだ。多少、費用や手間がかかっても自分の要望を実現させたいというこだわり派が多い。高額の旅行商品を買うならば、日本では味わえない上質な「ハレ」の体験を徹底的に追求したい。そんな新しいシニア像がうかがえる。

 

一方、団塊世代には現役時代に個人旅行を経験し、海外経験を豊富に持つ人が少なくないものの、ツアーヘのニーズに衰えは見られない。理由の1つは、年をとると個人での手配を煩わしく感じるため。 また、リタイアしているからこそ、いろいろな人との交流が期待できるツアーが好まれるからだ。社会との交流の場を欲するのはシニア全般の傾向だ。

 

シニアの消費に詳しい、村田裕之・村田アソシエイツ代表取締役は、同じシニア層でもさらにネットの習熟度に大きな差があると指摘する。「団塊世代のネット利用率は6070%あり、その上の世代よりも利用率が高い。モノを買う時もまずネットをチェックする。私は『スマートシニア』と呼んでいるが、10年前の60代といまの60代とではネットのITリテラシーがまったく違う。ネットで情報を集め、さらに口コミも利用するなど情報武装している」。

 

投資にも消費にも意欲的だが、こだわりが強く、消費をする際には情報武装し、吟味を重ねた上で判断する団塊世代は、スマートかつタフな消費者である。

 

リフォーム市場に拡大の可能性

世代間交流図るシニア住宅も登場

 

高額品の代表格である住宅の消費はどうか。

 

シニア向け住宅消費としては住み替え用の住宅購入やリフォームが挙げられるが、住み替えの1つの形態である老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下サ高住)は、入居一時金の下落が著しいようだ。理由は、先に村田氏が指摘したスマートシニアの台頭にある。「以前だったら入居一時金5000万円、6000万円の老人ホームを勢いで契約するという人も多かったが、今は違う。民間企業の参入により供給過多になったことに加えて、スマートシニアが慎重に慎重を重ねて購入を決めるため、入居一時金も500万~1000万円に下がり、売る側の情報開示も誠実になってきた。そうせざるを得ない。 自宅を売却してまで老人ホームを買うという人も少なくなった」。

 

そのためか、リフォーム市場については先行きが明るい。矢野経済研究所の予測では、2013年のリフォーム市場規模は前年比10.6%増え、年6.7兆円に達したが、さらに拡大しそうだ。三井不動産リアルティが2011年に実施した調査によると、住み替え時の平均持ち出し費用は2497万円、リフォームの平均費用は717万円。ただし、年代別に見ると、住み替えが60歳未満の場合は平均2704万円、60歳以上は平均2165万円、リフォームは60歳未満が平均793万円、60歳以上の平均は644万円。 2011年時点でいずれも60歳未満は自宅に対する支出額が高く、現在スマートシニアとなった世代が、このままリフォーム市場に好影響を与えていく可能性かある。

 

ここへきて、シニアライフを送る住まいの選択肢が増えている。例えば、分譲マンションやクラブハウス、グラウンドなどが設置され、60歳以上で健康的に自立したシニアだけを集めた「スマートコミュニテイ稲毛」(千葉市稲毛区)。米国ではこうした施設は珍しくないが、日本では初。分譲マンションは33㎡台・1400万円台から。平均坪単価136140万円、月々8.9万円の施設利用費はリーズナブルな設定といえる。

 

幅広い世代と接することのできる住環境を好むシニアに応えた施設も誕生している。積和不動産のサ高住「マストライフ古河庭園」(東京都北区)だ。一時金は74.1万円、月額費用は18.3万円。シニア住宅と子育て支援住宅が同一敷地内にあり、シニアと子育て世代との交流を可能にしている。前述の村田氏は言う。「今のシニアには、シニアばかりの環境は好まれないのではないか。その点、マストライフ古河庭園は日本的なモデルといえる。今後は、150年ぐらいもつ、住み替え不要の3世代マンションという選択肢も出てくるのではないか。今のシニアは金銭的に余裕があるが、下の世代は違う。もう一世代限りで家を買う時代ではないので、供給側も売切り御免の体質から脱却する必要がある」。

 

新しいタイプのシニア向け住宅が少しずつ増えているが、まだ「これが有望」という明確な答えは出ていない。これからのシニアのニーズをつかむ住宅はどのような形態なのか。いまはトライアルの段階だ。