「店頭」から「在宅」へ 超高齢社会での小売業の進化

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第97回

「店頭」から「在宅」へ:11年前の予言が高齢化で現実に

ido01私は11年前に上梓したシニアビジネス 多様性市場で成功する10の鉄則で、これから商品の提供場所は「店頭」から「在宅」へ向かうと予言した。当時取り上げたのは、一人暮らしの生活周りを支える「ミスターハンディマン」というアメリカ発のニュービジネスだった。

ハンディマンとは、もともと「雑役夫」の意味。主に一人暮らしのシニアに、通常の専門業者がやらない、ちょっとした大工仕事から部屋の額縁の取付け、雨トイの掃除などの「雑役」をひとまとめにしてサービスする。

アメリカでミスターハンディマンがシニアに受けていたのは、いくつかの事情があった。第一に、加齢に伴う視力の衰えや足腰が弱り、家周りの力仕事や細かい作業が難しくなること。第二に、核家族化が進み、家族との同居が少なく、一人暮らしが多いこと。一般に女性は、男性より長生きであるため、女性の一人暮らしが多い。また、高齢の女性には力仕事や技能作業が苦手な人も多い。

第三に、アメリカでは一般に住宅が市街地から離れており、何か修理が必要でもすぐに繁華街に出かけるのが難しいこと。アメリカで通信販売が日本よりも発達している背景も同じだ。

当時の私はこのようなアメリカでの事情が日本でもいずれ同じになると予感した。その予感は的中し、多くのサービスの提供場所が「店頭」から「在宅」へ向かっていった。当初は、ハンディマンと似た便利屋サービスがその代表となった。その後、家事代行サービスが急速に増えていった。

ハンディマンサービスが主に家の設備の修繕などの「DIY(Do It Yourself)」代行サービスなのに対し、家事代行は、料理や部屋掃除などの文字通り家事の代行サービスだ。これらはいずれも人的な「サービス」の提供である。

大規模百貨店も「店頭」から「在宅」へ

これに対して、近年は「モノ」の販売と提供の場所が「店頭」から「在宅」へ向かう例が増えている。その代表が「ネットスーパー」だ。

従来スーパーマーケットは、大規模店舗で豊富な品ぞろえと安い価格を売りに大量販売することでビジネスを行ってきた。しかし、人口動態のシニアシフトで大型店舗への来店が困難な高齢者の割合が増えたため、店舗で商品を揃えているだけでは売れなくなってきたからだ。

こうした動きは、スーパーだけにとどまらない。百貨店もそうした動きを見せ始めている。神奈川県川崎市に本社のある百貨店「さいか屋」が昨年11月から始めた移動店舗がその一例。これは、さいか屋横須賀店を基地にして、横須賀市・三浦市内の14か所に、毎週決まった時間に移動店舗で“出店”しているものだ。

ido04販売商品は、食料品を中心に雑貨小物などを含め200品以上。さいか屋横須賀店で販売している商品と同じ、新鮮な魚、肉、青果はもちろん、パンやお惣菜、タオルなどの日用品も販売している。

移動販売車による商品販売の例はこれまでもいくつかあった。しかし、百貨店によるものは神奈川県では初という。実はこの「百貨店による」がミソだ。理由は、価格が百貨店並み、つまり、ちょっと高めの価格にも関わらず、結構売れるため、客単価が高く、販売効率がよいからだ。

シニアの細かい嗜好を満足する品質と品ぞろえが勘所

移動店舗の利用者は、足腰が弱り、実店舗まで行くのが困難なシニア女性。彼女たちが求めているのは、近所のスーパーやコンビニでは買えない「デパ地下」にある上質な食材や惣菜など。彼女たちの年代は、百貨店は高品質で安心、ちょっと贅沢な買い物を楽しみたい場所なのだ。

しかし、加齢による身体の衰えで、若い頃のように店まで出かけていくのがおっくうになっている。こうしたシニア女性を対象に、実店舗まで来なくても、「百貨店品質」を楽しんでもらうのが狙いだ。

実は従来大手百貨店には「外商」と呼ばれる在宅出張販売はあった。しかし、これは対象がごく一部の富裕層に限られていた。さいか屋の移動店舗は、富裕層ではなく、高齢化して百貨店に来られなくなった、ごく普通の主婦層の不便を解消するものなのだ。

商品の提供場所が「店頭」から「在宅」へ向かう動きは今後も増えるだろう。しかし、販売単価の低い商品だと、採算が合いにくい。シニアの細かい嗜好を十分に満足する品質と品ぞろえが勘所だ。

成功するシニアビジネスの教科書

シルバー産業新聞

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