高齢化する日本は老後期を積極的に包み込もうとしている

新聞・雑誌

Wall Street Journal 2015年11月29日

起業家が高齢者の潜在能力を引き出すためにロボットや技術革新を探索する

米国ウォールストリートジャーナル(WSJ)が「Graying Japan Tries to Embrace the Golden Years」と題した大きな特集記事を掲載しました。

3,400ワードに渡る巨大記事の副題は「Entrepreneurs are exploring robotics and other innovations to unleash the potential of the elderly(起業家が高齢者の潜在能力を引き出すためにロボットや技術革新を探索している)」となっています。

日本では相変わらず下流老人や老後破綻のような高齢社会のネガティブな側面だけを強調して危機を煽るだけの論調が見られます。

しかし、今回のWSJの特集は、そうした厳しい現実はファクトとして数値で示しつつ、それらの課題を技術革新やビジネスの工夫で乗り越えようとする日本の革新性について焦点を当てた記事になっています。

担当記者の方が実際に多くの現場に足を運んだようで、実に多くの日本企業の事例が取り上げられています。

例えば、長野県小川村で高齢者がおやきを製造販売している株式会社小川の庄が取り上げられているのを見て、「ああ、あの山中の急斜面ばかりのところに行ってきたんだ」と親近感が湧き、地道に足で稼ぐ記者本来の姿勢を感じました。

高齢化する日本は個人の高齢期を積極的に包み込もうとしている

アメリカ人記者が自分の目で見て、耳で聞いた莫大な情報をまとめた末の記事のタイトルは、

「Graying Japan Tries to Embrace the Golden Years」。

実はこれは大変英語的な表現で、日本語に訳すのが少し難しいですが、あえて訳せば、

「高齢化する日本は高齢黄金期を積極的に包み込もうとしている」

という感じです。

Golden Yearsは、〔退職後・65歳以後の〕老後期という意味です。一方、Embraceという単語には、「人を抱擁する、進んで~を利用[活用]する、〔全体の一部として〕~を包含する」という意味があります。

超高齢社会の日本は確かに厳しく、楽観を許さない状況ではあるものの、そこで生きている人たちのいろいろな分野での試みを丹念に見ていくと、それは単なる能天気ではない、日本人の前向きな生き方や強さを感じる。

その蓄積としての記事のタイトルに「Embrace」というポジティブな言葉を使っているように思えてなりません。

記事の冒頭に建設業界での労働者不足を雇用延長でシニア従業員を戦力とする大林組の取り組みから始まり、高齢労働者派遣の株式会社高齢社や長野県小川村で高齢女性がおやきをつくって販売する株式会社小川の庄など高齢者を有用な働き手として伝えています。

一方、今回の記事の重点は技術革新で、ロボットの事例が多く取り上げられています。神奈川の老人ホームで職員がサイバーダインのHALを活用する様子がビデオで見られます。

また、私が所属する東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授が監修した仙台放送の「テレビ脳体操」ソフトバンクのペッパーがインストラクターとなって高齢者施設で脳トレをする場面も見られます。

介護以外のアクティブシニア向けの例では、パナソニックのシニア向け家電「Jコンセプト」味の素アミノ酸サプリメント日本郵便が日本IBMとアップルと共同で行う高齢者向けサービス、イオンのGGモールなどが取り挙げられています。

また、シニア婚活や終活市場も紹介されており、出会いパーティーの「三幸倶楽部」就活フェスタ朝日新聞社による自分史作成支援サービスまで紹介されていました。

アンチエイジングではなくスマート・エイジングへ世の中の見方を変える必要がある

私へのインタビューコメントも次の通り引用されています。

“We have to change our view from ‘antiaging’ to ‘smart aging,’ ” says business consultant Hiroyuki Murata, author of Japanese best-sellers like “The Business of Aging: 10 Successful Strategies for a Diverse Market.”(「私たちはアンチエイジングではなくスマート・エイジングへ、世の中の見方を変える必要がある」とベストセラー「シニアビジネス 多様性市場で成功する10の鉄則」の著者、村田裕之は言う)

アメリカ人の視点で日本の高齢化対応動向を幅広くバランスよくまとめた記事になっており、英文3400文字の大きな特集ですが、日本の方にも一読をお勧めします。

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