昭和リバイバルブームの本質は「ブラックボックス」からの解放

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第124回

再び脚光を浴びるアナログレコード市場

大手音楽会社ソニー・ミュージック・エンタテインメント(SME)はアナログレコードの人気再燃を受け、自社生産を約30年ぶりに復活した。

レコードは親会社のソニーなどが開発したコンパクトディスク(CD)の普及に押され、生産数は一時減少していた。今回の生産再開は、世界で初めてCDの量産を始めたSME子会社の工場(静岡県焼津市)で行われる。アナログからデジタルへの転換が本格的に始まった場所が、レコードの「復活」に一役買うことになる。

アナログからデジタルへの転換で何が変わったか

オーディオの世界では、1980年のCDの登場を機に、レコードが衰退していった。それとともに、プレーヤーやカートリッジなどレコード関連市場も衰退した。

さらに、MDの登場を機にカセットテープが衰退し、テープレコーダー市場も衰退した。90年代にはメーカー担当者から「オーディオ市場は死んだ市場」と言われた。

死んだオーディオ市場とは「アナログオーディオ」の市場。代わりに登場したのは「デジタルオーディオ」の市場だ。このデジタルオーディオの波がオーディオ市場に大きな変化をもたらした。それは「誰もが簡単に高品質を得られない製品の市場」から「誰もが簡単に高品質を得られる製品の市場」への変化だ。

ところが「誰もが簡単に高品質を得られる製品」とは、他との差異のない製品である。これにより、オーディオ製品は、どれも性能・機能に大差がなくなり、限界費用まで価格が低下した。この結果、「趣味嗜好品」から「コモディティ」と化したのである。

このようにして形成されたデジタルオーディオ市場では、アナログオーディオ市場に存在したものが失われた。それは、聴き手が音質を少しでも良くするために「自分で工夫できる余地」である。

たとえば、アナログレコードの再生では、高音質で聴くために、プレーヤーの構造、カートリッジの種類、アームの品質、レコードをのせるターンテーブルの材質、テーブルシートの材質までが微妙に音質に影響を与える。こうした無数の組み合わせの「妙」を追求するのが大きな楽しみであり、そこには夢があった。

しかし、デジタルオーディオの波は、商品を画一化というオブラートで包み、聴き手からこうした楽しみをすべて奪い取り、聴き手が何も関与できない「ブラックボックス」にしてしまったのである。

「昭和リバイバル」の本質はブラックボックスからの解放

近年、レコードだけでなく、廃れたはずのカセットテープや昭和の雰囲気を模した居酒屋などもにぎわいを見せている。

言い換えればスマホ・SNS、ハイレゾ等、デジタル化真っ只中の平成で「昭和リバイバル」が起こっている。なぜ人々は「昭和」に魅力を感じるのか?

中高年がアナログオーディオに回帰するのは、単にビートルズの赤いドーナツ盤レコードが懐かしいからではないだろう。アナログオーディオに心惹かれるのは、若い頃にお金がない代わりにオーディオ雑誌を読み漁り、買いもしないのにオーディオ店に何度も足を運び、音質を少しでも良くするために自分で工夫できた「自由」を取り戻せるからだ。

そして、かつて失った「自由」とともに無くした「遊び心」をもう一度取り戻したいからだ。昭和リバイバルブームの本質は「ブラックボックス」からの解放なのだ。

だから、商品提供側の企業は、利用者の遊び心を刺激する「ブラックボックス解放型商品」を提供するとうける。たとえば、かつてのように自分でエンジンルームを弄ることのできるクルマやオートバイ、自分で一から組み立てるラジコンや鉄道模型なども歓迎されるだろう。

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シルバー産業新聞社

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