超高齢社会をビジネスチャンスに これからの「旅」マーケティング

週刊トラベルジャーナル5512特別号 トラベル懇話会 4月特別例会抄録

週刊トラベルジャーナル_2014年5月5日・12日号_表紙確実に進む人口の高齢化に伴い、日本社会のあらゆる局面でシニアシフトが加速化していく。それへの対応なしにはビジネスが成り立たない時代が迫っている。今回の講師は日本のシニアビジネスの第一人者である村田裕之氏。シニアシフトの現状や、シニアビジネスのポイントなどについて興味深いお話を聞かせていただいた。

 

オムツ市場は大人向けが過半

 

赤ちゃん用のオムツ市場は11年に1400億円。これに対して12年の大人用のオムツ市場はユニ・チャームによれば1650億円です。もはや日本のオムツの市場規模は大人用の方が大きいのが現実です。

 

次はコンビニ市場。89年度のセブン‐イレブンの来店客に占める50歳以上の割合は9%にすぎませんでした。ところが11年度は30%。3倍以上に増えています。かつてのコンビニは“近くで便利”だが“若者向け”というイメージでした。

 
しかし最近ではボリュームが小さめのお弁当や、サバの煮物、ヒジキ煮などシニア向け惣菜が増えてきました。こうした動きは人口のボリュームゾーンが高齢者に移りつつあるからで、小売業界では12年あたりから一斉にシニア向けの品揃えを強化しています。

 

日本の人口は08年をピークに減少に転じていますが、65歳以上の高齢者人口は増加しており、2040年までは増加傾向が続き、人口に占める高齢化率の高い状態はその後も長年にわたって続きます。ですからシニア市場の拡大は間違いありません。

ただし、このシニア市場をめぐっては俗説が蔓延している面が否めません。まず高齢者「金持ち」説。高齢者は確かに持ち家率が9割以上と高く、金融資産も多い。しかし年間所得は若い人たちの方が多く、高齢者の8割は年収400万円以下です。資産は多いが所得は低い。ここをしっかり把握しておく必要があります。

 

人数が増えるからといってシニア市場が「マス・マーケット」だというのも間違いです。単にシニア向けの商品を大量生産すれば在庫の山になります。彼らはひとくくりの市場というより多様なミクロマーケットの集まりとして捉えるべきです。中高年女性の消費行動は、現役で元気な夫がいる家族なのか、夫が退職した後なのかによっても異なるし、ライフステージの変化が消費行動に大きく影響するからです。

 

週刊トラベルジャーナル_2014年5月5日・12日号_2-2ビジネスの切り口は3つの「不」

 

シニア向けビジネスの切り口は不安、不満、不便の3つの「不」です。3つの「不」でシニアビジネスを成功させたのが中高年女性向けのフィットネスクラブ「カーブス」です。12年前に日本に進出。現在1400店舗、会員数60万人に成長しました。カーブスは会員の4割が60歳以上です。

 

基本は、健康“不安”の解消を求める高齢女性のニーズに応えるビジネスで、ノー・メン、ノー・メーキャップ、ノー・ミラーの3ノーMが特徴です。「男性と同じフィットネスクラブに通うのは嫌」「男性に見られたくない」「フィットネスクラブに行くのに化粧していくのは面倒」という声は女性の間に多い"不満"でした。カーブスはこうした不満を解消するため女性専用とし、3Mを貫いています。フィットネスクラブに付き物のプール、ジム、シャワーもなくしました。

 
駅前の立地ではなく住宅地のそばでの立地ですから、すぐに帰れる自宅でシャワーを浴びればよいのです。飲食スペースもありません。あればオシャベリが始まり、特定のグループができ、グループ以外の会員や、新会員が楽しみにくい雰囲気ができたりするからです。

 

プールなどがない分、設備投資も維持費も少なく会費を安くできる。30分程度で終了するフィットネスプログラムを用意し、家事の空き時間に手軽に通い、長続きできるよう工夫しています。

 

シニア商品に必要な3つの「E

 

資産はあるが“しぶちん”な面もあるシニア層の財布のひもを、楽しく緩めてもらう商品作りのために3つの「E」が重要です。Excited(わくわくする)、Engaged(関与する)、Encouraged(勇気づけられる)の3つです。

 

Excitedを取り込んだ成功例は、雑誌「いきいき」の「ボストン1カ月滞在 暮らすように旅して英語を学ぼう」という旅行企画。「何かを始めたい」「リセットしたい」「学びたい」というシニア層の変身願望を捉え、1カ月で120万円という安からぬ旅行商品の定員30名分を完売しました。


Engaged
の好例がクラブツーリズムです。もともとクラブツーリズムの顧客だった者などがエコースタッフとして登録し、会員誌「旅の友」の配布役を務める。時間に余裕がある主婦が、ちょっとした小遣い稼ぎとして参加し、お金が貯まると今度は顧客としてクラブツーリズムの旅行商品を購入して旅を楽しむ。エコースタッフになることで、クラブツーリズムに対するロイヤルティを高めることにもつながっています。


Encouraged
は、元気づけられると消費意欲が増すということ。旅行ビジネスが大いに注目すべきポイントです。脳をトレーニングしたり、筋力を鍛えたり、心身が活性化すると消費意欲も高まることが研究で明らかになっています。

すると、女性であれば新しく服を買ったり、外出意欲が高まったりするので旅行意欲も高まるということです。旅行自体にも心身をリフレッシュする効果があり、しかも旅行するとなれば旅行鞄も欲しい、靴も、帽子も必要だとなる。気持ちよくお金を使ってもらう最良の仕掛けです。

 

世界中で始まるシニアシフト

 

シニアビジネスでは2025年が重要です。団塊世代の最も若い年齢層が75歳以上になり、身体的な曲がり角を迎えるからです。要介護比率や認知症率は75歳以上になると急に上がります。一方で高齢者層におけるインターネット比率も急上昇します。現在の50代のインターネット普及率は9割、60代は7割で、こうした年代が75歳を超えていくわけです。

 

インターネットの普及は、誰もが安いコストで手軽に情報が入手できるようになることを意味し、消費者を賢くします。こうしてスマート・シニアが誕生。彼らはたとえ要介護で体の自由が利かなくなっても通販を利用できます。このため、通販市場は今後飛躍的に拡大するはずです。

 

シニアシフトは今後、世界中で起きます。アジアに目を向けても日本だけでなく香港や韓国、シンガポール、タイ、台湾などは日本以上に少子化が進んでおり、高齢化が今後急速に進むからです。しかもこれらの国々は購買力の面ではかなり豊かになっています。


2050
年には中国も莫大なシニア市場となります。しかし、まだこれら各国ではシニアシフトにサービスが追い付いていません。そこで日本で蓄えたノウハウがビジネスチャンスにつながるはずです。


今後の旅行業界では、さまざまなアイデアを試す価値があります。たとえばセミプロの活用。いまでは添乗員より旅行や現地情報に詳しいシニア旅行者は少なくありません。代官山の蔦谷書店では、本好きのシニアを分野別の案内役に起用して来店客からも好評です。また旅行業界ではシニア客層が加齢で旅に出なくなることが課題になりますが、食事やトレーニングと組み合わせた、健康な身体作りと旅行とのセット商品なども検討の余地があると思います。

 

 

参考文献:シニアシフトの衝撃

 

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