保険毎日新聞 連載 シニア市場の気になるトレンド 第3回

似たような品揃えになってきたスーパー、コンビニ、ドラッグストア

ローソンマート以前は、それぞれ別の業態だったスーパー、コンビニ、ドラッグストアが、最近互いに似たような品揃えになり、境界が不鮮明になってきた。このように、もともとは違ったものが、互いに似てくることを「コンバージェンス(Convergence)」と言う。

小売業におけるコンバージェンスの例は、コンビニのスーパー化。ローソンが始めた「ローソン100」という業態がそれだ。この店は名前の通り、もともとは100円均一ストアからスタートしたが、肉や野菜などの生鮮食品が比較的豊富にあることが売りになっていった。

そこでローソンは、20143月から「ローソンマート」という新業態の展開をスタートさせた。これは「ローソン100」における100円均一の制約を外し、コンビニの利便性とスーパーの幅広い品揃えを兼ね備え、店舗はコンビニより大きめの「進化型コンビニ」を目指したものだ。

image一方、別のコンバージェンスの例は、スーパーのコンビニ化。数年前にイオンが始めた「まいばすけっと」がそれだ。コンビニの跡地など、150平米ぐらいの空き店舗に展開する小型スーパーである。売っているものは、イオンで売っているプライベートブランド商品や生鮮品など。

ローソン100のように100円均一ではないが、値段の安さを売りにしている。来店客は、高齢者、近隣の主婦、帰宅の遅いOLなどが中心。営業時間は、概ね朝7時から深夜0時までで、通常のスーパーの閉開店前後の顧客の受け皿にもなっている。

商品間コンバージェンスの古典的ヒット事例は「写メール」

このコンバージェンスの古典的な例は、「ネット機能つきデジタルカメラ(デジカメ)」と「デジカメつき携帯電話」だ。かつてデジカメの普及期に、デジカメにネット機能がついたものが富士写真フイルムから製品化された。

これはデジカメで撮影した写真を、その場ですぐネット経由で送信できるというものだった。ただし、当時は価格が高かったせいか、あまり売れなかった。(実はこの機能を持つデジカメが数年前から再登場している)

imageその後、当時のJフォン(いまのソフトバンク)が、携帯電話に最初にデジカメを付けた「写メール」を商品化した。これが爆発的な人気を呼び、すべての携帯電話キャリアが真似した結果、あっという間にデジカメ付携帯電話が普及した。

このようにデジカメと携帯電話という、もともと異なる製品どうしが、互いの機能を付加しあい、製品としての淘汰の過程を経て、気がつけば同じような製品になった。

 他の古典的な例では「パソコン機能付テレビ」と「テレビ機能付パソコン」がある。もともと、それぞれテレビ、パソコンと異なるものだったのが、テレビにパソコンの機能が付加され、パソコンにテレビの機能が付加された。そして、両者はきわめて似たような製品になった。

コンバージェンスは、こうしたITやデジタル機器などの分野でよく見られる。ところが、近年、ITやデジタル機器「以外」の分野でも増えているのだ。冒頭に挙げた小売業は、まさにその主戦場になっている。

「商品間コンバージェンス」の共通の特徴

異なる業態の商品(サービス・店舗)間でコンバージェンスが進展する過程には、次の段階が共通に見られる。

(1) 互いに相手商品の機能を取り入れる(相互学習)

(2) 商品の改善と選択が進む(淘汰)

(3) ほぼ同じような商品となる(統合)

そして、この過程において、各々商品は次の特徴をもつようになる。

(1) 多機能 Multi-function

(2) 一か所集中 One-Stop

(3) 小型軽量 Compact

(4) 低価格 Price Down

商品間コンバージェンスの第一の特徴は、多くの機能が一か所あるいは一つの製品に集中することだ。たとえば、先の携帯電話では、電話機能にネット接続機能、デジカメ機能、PIM(個人情報管理)機能、GPS機能、音楽再生機能、クレジットカード機能などの多くの機能が搭載されるようになった。そして、スマートフォンという一つの製品に進化した。これらの機能はもともとそれぞれ別の製品の機能だった。

また、メディカル・フィットネスという分野では、当初は地理的に別々にあるフィットネスクラブと病院との提携だったのが、既存のフィットネスに医療設備を併設したり、逆に病院にフィットネスジムを設けたりして「一か所化」を図っている。

ちなみに、メディカル・フィットネス先進国アメリカでは、当初から医療サービスと栄養アドバイス、ジムとが一か所に統合された形態のフィットネスクラブも登場している。

第二の特徴は、小型軽量化・低価格化が進むことだ。特にIT、デジタル機器ではよく見られる。最近ではイオンやビックカメラといった小売業が格安スマホを販売し、シニアを中心に人気を集めている。

このように当初は差異化を図り、互いに異なるサービスでも、しばらくすると互いに似たような内容になり、価格競争になる。この価格競争から脱するために、別の差異化を図り、それでしばらくは優位に立てる。

しかし、すぐに競合先が真似をし、似たような内容になっていき、また価格競争になる。家電製品などを見ればおわかりのとおり、こうした繰り返しのインターバルが、一昔前に比べ、どんどん短くなっている。

商品間コンバージェンスが起こる理由は何か?

そもそも、なぜ、このような商品間コンバージェンスが起こるのか。その理由は、モノ余りに伴う「消費者ニーズの深化」という社会的背景にある。商品間コンバージェンスは、すべて商品提供者の差異化の営みの結果である。この営みが起こるのは、ますます多様化・深化する顧客ニーズへの対応が求められているからだ。

この対応を怠ると、商品提供者は、短期間のうちに商品競争力を失い、すなわち顧客を失ってしまう。なぜなら、現代の顧客は、多くの商品選択肢をもっているために、商品に対する目がきわめて肥えており、常に魅力の高い商品に選択が向かいやすいからだ。

一方、新商品開発において、まったく新たな商品を一から開発するより、既存商品の機能を統合して一か所に多機能化するほうが容易なことも多い。

これらの背景から、顧客を失いたくない商品提供者は、商品差異化策として、商品間コンバージェンスに向かうのだ。

お気づきの通り、保険商品も商品間コンバージェンスが起きやすい分野である。こういう分野で競合他社をリードするためには、差異化できる間に圧倒的な市場シェアを握るか、新たな差異化の土俵を他社に先駆けて作り続けることが必要だ。