香港から日本の高齢者政策を見る

スマートシニア・ビジネスレビュー 2010年11月30日 Vol.146

国民の大半が狭い土地に建てられた超高層住宅に住んでいる

先日講演に招かれて初めて香港に出張しました。香港の高齢化率は2010年現在で13%。高齢化率世界一の日本の23%に比べれば、まだまだ若い地域に見えます。

しかし、香港の高齢化率は20年後の2030年までに 現在の日本並みになると予測されており、 今のうちに準備が必要という危機感があるようです。

香港は総面積1,078平方kmに750万人が住む過密都市です。実際に訪れてわかりましたが、国民の大半が狭い土地にびっしりと建てられた超高層住宅に住んでいます。

日本の首都圏でも新浦安や北千住、最近は豊洲あたりにも高層住宅が列をなしていますが、香港の場合は、そのほとんどが超高層なのです。しかも建物と建物との間隔が非常に狭い。

もし、地震が起きたら簡単にドミノ倒しになりそうなほど狭い。しかし、幸い香港には地震が全くないのだそうです。よくこんな狭い間隔で建てたものだと感心する一方で地震国日本の住民の私には恐怖心も入り混じります。

この超高層住宅に住んでいる人たちの多くが高齢者になり、身体が不自由になったり、認知症になったりして要介護状態になったら、一体どうなるのだろうか。

介護サービスは全額自己負担でかなり高額

そんなことを考えながら、主催者が用意してくれたデイケアセンターの見学会に参加しました。一か所目は、いわゆる高齢者施設の雰囲気が全くなく、会員制のレクリエーションクラブのようなところ。

電磁式の立派なキッチンが備えられた多目的ルームやリハビリ用の運動器具などが完備されていました。ただし、見学時間が夕方近くだったため、利用者を見かけることができませんでした。

二か所目は、日本の高齢者施設によくあるデイケアセンターと似た雰囲気のところ。ショートステイ用の部屋も多数あり、認知症の人が多く利用していていました。

ただし、どちらも利用料は全額自己負担。一日あたり最低5千円から6千円の負担が必要です。サービスを追加すれば、もっと支払いが必要となり、一日当たり9千円かそれ以上になります。香港でもこれはかなり高額です。したがって、経済的に余裕のある人しか利用できません。

香港には日本のような、国による介護保険制度はないのでこうしたサービスは全額自己負担となるのです。介護保険制度がない国では、
これが当たり前という現実を思い知らされました。

1割負担で利用できる日本の介護保険制度は恵まれている

制度ができてから10年になる日本の介護保険制度。最近テレビなどで介護保険制度の現状の問題点がしばしば取り上げられています。

確かにいろいろな問題が存在しますが、香港のような一部の金持ちしか介護サービスが受けられない地域の現実を知ると、サービス料の1割負担で利用できる日本の介護保険制度は、恵まれていると思いました。

こう言うとスウェーデンやフィンランドなど北欧諸国では、自己負担なしで介護サービスが受けられるではないか、と思う人がいるかも知れません。

しかし、忘れてはいけないのは、一部の品を除いてスウェーデンでは25%、フィンランドでも23%の消費税を国民全員から徴収し、
その税収を福祉サービスにあてていることです。

世の中に「ただのサービス」は存在しない。介護サービスにマジックはないことを改めて感じた香港出張でした。