仮想認知症ツアーという擬似体験

スマートシニア・ビジネスレビュー 2010年10月20日 Vol.145

DSC_9024今月初めに米国フロリダ州オーランドで開催された
AARPの年に一度の会員向け大イベント、
AARP Orland@50+に参加しました。

このような団塊世代やシニア向けのイベントは、
日本では2007年頃まで存在しましたが、
最近見かけなくなったので、少し懐かしい感じがしました。

とはいえ、従来よく見られた会員全体で政府に対して
シュプレヒコールを上げるようなシーンは少なくなり、
代わりに会員向けにいろいろな商品・サービスを紹介する
「販売展示会」の色彩が強くなっていました。

そのなかで目にとまったものの一つが、
Virtual Dementia Tour(仮想認知症ツアー)。
認知症でない健康な人が認知症になると、
どのような感覚になるのかを擬似体験できるという
仮想現実感(Virtual Reality)によるシミュレーターでした。

何でも実際に自分で体験するのが私のスタイルなので、
係の人に声をかけ、「ツアー」を体験してみました。

特殊なゴーグルをかけさせられると、
目の前は視界がまだらになり、
見ているものが何かよくわかりません。

また、装着されたヘッドホンからはガサガサと雑音がして、
外の音がよく聞こえません。
しばらく装着していると鬱陶しくなってきたので、
ほどなく終了しました。

体験後、正直複雑な気分になりました。
最大の理由はシミュレーターの信ぴょう性に対して
疑問が湧いたからです。

そもそも、このシミュレーターは、
自分が認知症になった時の”認知状態”を、
実際にどの程度正確に再現できているのだろうか、
という疑問です。

担当者に尋ねると、該当のシミュレーターは
認知症専門医の監修を受けているとのことでした。
しかし、「何かが違うんじゃない?」という
違和感が強く残りました。

それは、数年前に「インスタントシニア」という
高齢者シミュレーターを体験した時に感じたのと
“同じ違和感”です。
その時のレポートは、このレビューにも書きました。

(高齢者の疑似体験 2005年6月1日 Vol. 69

「インスタントシニアの目的は何ですか?」
という質問に対して、
「子供や若い人に体験を通じて
高齢者の大変さを知ってもらうことで、
高齢者へのいたわりの気持ちを強めてもらうことです」
というコメントを当時の展示担当者から聞いた時、
愕然としたことを覚えています。

私は、子供や若者がインスタントシニアを体験したら、
「こんな不自由で苦痛な高齢者になんて絶対なりたくない」と
逆に感じるだろうと当時感じました。

今回の「仮想認知症ツアー」は、
まさに“同じ誤り”に陥っていると思いました。

それは「こうした身体シミュレーターで
高齢者や認知症の方に対する理解が深められる
と考えること」の誤りです。

仮想認知症ツアーのやり方には、認知症になった方の
身体変化は考慮されているかもしれません。
しかし、認知症になった方の心の変化や
その家族との関係性の変化については
何も考慮されていません。

もっとも、こうした変化をシミュレーターで
体験しようとする考え方自体に無理があるのでしょう。

私は認知症改善・予防策の一つである
学習療法に関わっていることもあり、
高齢者施設で多くの認知症の方やその家族、
そしてケアに携わっている多くのスタッフの方と
接する機会があります。

こうした現場では、スタッフの皆さんの
愛情あふれる姿勢によって
認知症の方の状態が徐々に改善されていく事実を
目の当たりにしています。

現場で起こっている現実を知るにつれ、
仮想現実感は現実を超えることはできないことを
改めて認識します。

しかし、仮想現実感は、
現実に対する認識を深めるきっかけになる。
このことが仮想現実感の意義であることを
再認識させてくれます。
 

参考情報

スマートシニア・ビジネスレビュー2005年6月1日 Vol. 69
高齢者の疑似体験

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