シンガポールの老人ホームと浄水場に見る知恵の差

スマートシニア・ビジネスレビュー 2010年4月19日 Vol.140

P1000672081月のSICEXに講演者として招かれて以来、仕事でシンガポールを訪れる機会がすっかり増えた。

 

先週も訪れた際、シンガポール人の友人に

いろいろなところを案内してもらった。

仕事柄かねてから訪れてみたいと思っていた

老人ホームを今回訪れることができた。

 

訪れたのは健常者向けのシニア住宅と

要介護者向けのナーシングホームの二つ。

 

シンガポールでは住民の8割がHDBと呼ばれる

国の住宅公社が提供する公営住宅に住んでいる。

今回訪れた健常者向けのシニア住宅は、

公営でHDBのシニア版といった感じであった。

P1000679HDBがしばしばそうであるように、

シニア住宅も16階建ての高層住宅だった。

 

通常のHDBとの違いは、

①部屋数が少なく、狭い、

②バリヤフリーで廊下や室内に段差がなく手すりが多い、

③ストレッチャーが入る幅広エレベーターが設置されている、

④住民が集えるコミュニティスペースがある、などである。

 

一方、ナーシングホームは、教会がチャリティで運営しているもので、シニア住宅とは異なり、ゆったりとしたスペースに多くの平屋建ての施設があった。

 

P1000706施設長がシスターで、白の修道服を着た慈悲深い女性だった。

 

欧米のナーシングホームの源が教会であることは

十分承知していたが、実際に施設長がシスターである

施設を訪れたのは初めてだったので、新鮮な感じがした。

 

だが、日本の最近の介護施設と異なり、

介護居室は全て8人一緒の相部屋だった。

 

シンガポールの介護施設はまだ相部屋が一般的とのこと。

ホスピスも併設されていたが、部屋の造りは

介護居室と変わりがなかった。

 

二つの施設を訪問した印象は、

シンガポールのこの分野は日本に比べると

まだ15年以上遅れている気がした。

 

ただし、この分野で遅れているという理由は、

経済事情や技術的な問題では決してない。

 

シンガポールがまだ高齢化率8%の若い国であり、

高齢者問題が深刻化していないため、

本格的な取り組みがなされていないためだ。

 

P1000715そのことを痛感したのは、老人ホームの次に訪れたMarina Barrageという最新の浄水場ダムを見た時である。

 

日本でダムと言うと八ッ場ダムのように山中にあるが、Marina Barrageは、海と運河の境界に造られている。

 

このMarina Barrageにはいくつかの役割がある。

一つは、津波や豪雨による洪水から湾岸を守る役割。

もう一つは、シンガポール最大の貯水池としての役割だ。

 

特に後者の役割が重要である。

運河を流れてくる下水処理水をせき止め、

降雨も合わせてせき止める構造となっている。

 

シンガポールには山間部が少なく、国内だけで水を

完全自給できるだけの十分な貯水池を持たなかった。

 

このため、必然的に水源を隣国に依存するしかなく、

シンガポールは、マレーシアとの間に1961年および

1962年の両年にわたり水資源購入契約を締結した。

 

さらに1988年に新たな契約が締結され、

マレーシア・ジョホール州から一日当たり、

最大で約11億リットルの原水を購入している。

 

しかし、これらの契約は2011年と2061年に

切れることになっている。

 

Marina Barrageが完成したおかげで、

2011年の契約終了後でも

水源を確保できるようになったのである。

 

P1000717Marina Barrageの一階に「New Water」という飲料水がある。友人達が飲むようにしきりに勧めるので試しに飲んでみた。

気温35度のなか、よく冷えていたこともあり、

市販のミネラルウォーターよりも美味しい気がした。

 

実はこの「New Water」こそ、下水処理水からつくられた

再生水なのである。

 

シンガポールにとって水源の確保は

建国以来国家存亡の重要課題の一つであった。

水源を隣国マレーシアに依存してきたため、

何度も政治的駆け引きの道具として使われてきた。

 

このため、建国の父であるリー・クアン・ユーは、

水資源の開拓を国家政策の最上位に掲げ、

多額の国家予算をつぎ込んできた。

 

この結果、シンガポールの水処理技術は、

オランダ、フランスと並び世界最高水準となり、

今では他国にその技術を輸出できるようになった。

 

必要は発明の母であるが、

必要の度合いが強くなるには、

危機感が強くなければならない。

 

シンガポールを眺めていると、

国のリーダー層がどの程度危機感を持ち、

どの位本気で取り組むかで、

国の将来が決まることを痛感する

 

現時点では老人ホームよりも浄水場に

シンガポールという国の知恵が集積されている。

 

だが、繰り返しになるが、現時点でシンガポールの

老人ホームが遅れているのは、

単にまだ優先順位が高くないだけのことなのだ。

 

Marina Barrageを見て、私はシンガポールの

老人ホームの将来に凄味を感じた。

 

  

 

参考情報

 

スマートシニア・ビジネスレビュー Vol.113 2008年1月15日

動き出したシンガポールのシルバー産業

 

スマートシニア・ビジネスレビュー Vol.117 2008年5月7日

年金のない成長国・シンガポール

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