60歳以上のためのデザインセンターの意味

スマートシニア・ビジネスレビュー 2008年8月25日 Vol. 120

60designcenter6月下旬に再びシンガポールに出張した。理由は、シンガポールで年配者のためのデザインセンターが開所するため、そのセレモニーへの出席と併せて開催される国際アワードの審査員を依頼されたためだ。

新しいデザインセンターは、
「>60 (グレーター・ザン・シックスティー)Design Centre」という。
文字通り60歳以上の人の商品・サービスをデザインするところだ。
開所式は、6月27日に行われ、
当日はナザン大統領も出席するほどの力の入れようだった。

シンガポールの高齢化率は8%。
国連の定義によれば「高齢化社会」の仲間入りをしたばかりの若い国だ。
にもかかわらず、なぜ、このようなセンターを政府が後押しして立ち上げたのか。
そのヒントは、センターが設置された場所にある。

 実はデザインセンターは、
テマセク・ポリテクニック(Temasek Polytechnic)という
教育機関の中に設立されたのだ。

ポリテクニックとは日本人にはなじみが薄いが、
海外では多く見られる高等教育機関である。
大学機関が主に学問(学術)を教える組織であるのに対し、
ポリテクニックでは実学(実務)を中心に教育課程が編成されている。

シンガポールは次の時代の中核産業がシルバー産業になると見ている。
そのための人材育成が今から必要だと考え、
その中核となる場を教育機関に設けたのである。

開所式に先立ち、私は年配者向け商品の国際アワードの最終審査に参加した。
募集期間は6ヶ月で、一般部門、学生部門、国際部門の3部門で募集されていた。
審査員には、シンガポールの学識経験者以外に、
イスラエルの専門家と私が招かれた。

応募数はかなり多く、審査にはかなりの時間を要した。
ところが、提案の水準はまだ高くない、というのが率直な感想だった。

その最大の理由は、提案の多くが介護や医療分野に偏っており、
年配者を「体の弱った社会的弱者」と見立てた提案が多かったからだ。

提案水準の低さのもう一つの理由は、
提案者の多くが16歳から20歳のポリテクニックの若い学生であることにもよる。

シンガポールでは都市型ライフスタイルが進み、
核家族が多く、祖父母との交流機会が少ない人が多くなっている。
このため、「年寄りというのはこういうもんだ」という先入観で
商品設計も考えてしまいがちだ。

こうした話を友人のシンガポール人に話すと
「そうなんだ、それがシンガポールの課題なんだ」と口をそろえて言う。

しかし、私はこの課題はシンガポール特有のものだとは思わない。
同じ課題は日本でもつい数年前まで頻繁に見られたもので、
年配者をターゲットにしてビジネスに取り組む初期段階に
必ず陥る落とし穴なのだ。

若い学生中心の「>60 Design Centre」の試行錯誤はしばらく続くだろう。
だが、この試行錯誤は、センターにとって間違いなく
血肉のようなノウハウとなり、デザイン力の基礎になっていくだろう。

シンガポールという国は、淡路島程度の面積しかなく、資源も乏しい。
水ですら隣国マレーシアから購入している。
ところが、この国の一人当たりのGDPは実はつい最近日本を超えたのだ。

スイスのIMDによる「世界競争力ランキング」でも、
アメリカについで2位にランキングされた。
ちなみに日本は中国より低い25位だった。

生活水準も高く、英語圏であり、
世界のフロンティアの動きを迅速にキャッチアップする
シンガポールという国は決して侮ることはできない。

 

●参考情報

シンガポール国際デザインアワード2008
2008年6月26日

Vol. 117 2008年5月7日
年金のない成長国・シンガポール

Vol.113 2008年1月15日
動き出したシンガポールのシルバー産業

Silver Industry Conference Exhibition (SICEX) 2008

The Straits Times 2008年1月12日号
Hitting the campus: How Japan tackles issue

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