政治家に国民の声を伝える術・日米比較

スマートシニア・ビジネスレビュー 2007年8月1日 Vol. 107

ObamaAARP自民党の惨敗に終わった参議院選挙。
選挙後の各党に共通の発言は
「国民の声を真摯に受け止めよ」だ。

ところが、こうした発言が強調されるほど、
政治家が普段国民の声をいかに「聞いていないか」をかえって露呈している気がする。

政治家が我々の声を聞いていないのには二つ理由がある。

第一は、我々の声を政治家に届ける仕組みが未整備なこと。
第二は、我々の声が届いていたとしても政治家がまともに受け止めていないことだ。

選挙時以外に政治家に声を届ける従来の方法は、
陳情、後援会、永田町での座り込み、タウンミーティング等があった。
しかし、これらの方法はどれも今ひとつだった。

陳情は業界団体など政治家と関係の深い特定の人にしかできなかった。
後援会を通じての依頼は選挙での支持とのバーターでしか成立しない。
永田町での座り込みは一種のデモ行為だが、
一部メディアが注目する程度でほとんど効果がない。

タウンミーティングは、本来政治家と市民との直接対話の場である。
だが、欧米で盛んなこのやり方も公開の場での討論に慣れていない
日本人にはなじまず、大半がやらせになっていたのが実態だ。

一方、アメリカでは政治家に声を届ける方法として、
市民がその選挙区の議員に直接手紙を送るやり方が非常に多い。
特に興味深いのは、何かの法案の可否を審議する前に、
議員あてに「その法案はこれこれの理由で可決すべき/否決すべき」
という意思を伝え、議員にアクションを促すことだ。

このように「議員にアクションを促すこと」は、
アドボカシー(唱導)と呼ばれる活動の一つである。
高齢者政策のアドボカシーの中心的存在が
AARPであることはアメリカでは良く知られている。

AARPによる典型的なやり方は、
新聞告知で議員への手紙送付を促すことだ。
例えば、次のような告知広告を掲載してアクションを促す。

The proposed prescription drug Medicare bill isn’t perfect.
But millions of Americans can’t afford to wait for perfect.
Tell Congress to pass it now.
(メディケアで処方箋薬を扱うために提出された法案は完璧ではありません。
しかし、何百万人もの米国人は、制度が完璧になるまでは待てません。
最寄りの議員にその法案を通すように言ってください)

これはAARPが以前ニューヨークタイムズをはじめとする
米国の主要紙に掲載した広告である。
この広告を見て「そうだ」と思う人は自分の州の議員に手紙を送る。

手紙は手書きが多いが、最近は電子メールも増えている。
面白いのは市民がこうした議員へのアクション促進メールを
簡単に送信できるシステムをAARPが開発していることである。

このシステムはAARPのホームページにある。
これを見ると今どの州でどんな法案を審議中なのかが
一目でわかるようになっている。

しかも法案名を選択すると、政治家に送る
メッセージ文の雛形まで出てくる徹底ぶりだ。
また、メッセージの送り方も、電子メール、ファックス、
印刷した紙、から選べるようになっている。

AARPというと日本では50歳以上の会員への
割引サービスの提供者としてイメージしている人が多い。
だが、アドボカシーこそがAARPの活動の柱なのである。

こうした徹底したシステムの存在によって、
市民の声が政治家のもとに届きやすくなっているのが
アメリカの優れたところである。

だが、このようなシステムがあったとしても、
そもそも政治家が市民の声をまともに
受け止めないのであれば機能しない。

このシステムが機能するのは、
アメリカでは多くの政治家(全てではない)が
選挙民である市民の反応を常に見る文化があるからだ。

これに対して日本の政治家の多くは、
選挙の時にしか選挙民の方を見ない。
なぜ、この差が生まれるのか。

アメリカでは、たとえ大統領でも一般市民の家に来たら、
必ず「ファーストネーム」で呼ばれる。
「ミスター・プレジデント」という呼び方は、
余程心理的距離が遠い場合にしか使わない。
一方、日本では政治家は「センセイ」と呼ばれ、
崇め奉られることが多い。

アメリカでは議員は「市民の代表者」としての意識が強いのに対し、
日本では「権力者」としての意識が強いからだ。

日本では政治家が選挙で地元を回るときには
電柱にも頭を下げろ、といわれる。
しかし、こうした選挙のときだけ媚びへつらい、
当選したらセンセイになるスタイルはもはや時代遅れだ。

平時から市民の代弁者としての立ち位置を明確にして活動していれば、
選挙で慌てふためく必要もないはずである。

時代遅れの政治家の意識改革を促すためにも、
AARPが運営しているようなシステムを
日本でも導入したら面白いだろう。

●参考情報

AARP-米国最強のロビイストNPO
スマートシニア・ビジネスレビュー Vol. 39

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