スマートシニア・ビジネスレビュー 2007年7月8日 Vol. 106

crbh-paloaltoシリコンバレーというとインテルやグーグルといったIT関連あるいはネット関連ビジネスの印象が強い。しかし、この地にはシニアビジネスの動きも案外多い。

たとえば、スタンフォード大学のそばにクラシック・レジデンス・バイ・ハイアット(CRbH)という全米でもトップクラスのコミュニティ型の高級シニア住宅がある。

こうした住宅は全米に2,200以上あるといわれているが、
このシリコンバレーにあるCRbHは群を抜いている。
特に驚かされるのは居室の大きさと価格である。

最も広い居室の面積は4,000平米。
日本の首都圏の一戸建ての標準サイズ100平米の
何と40倍の広さが共同住宅の居室の一つなのだ。

聞くと、入居者にとってこの居室に引っ越すことは
「ダウンサイジング(住む家を小さくすること)」とのこと。
ここに移る前に10,000平米以上の家に住んでいる人が
ターゲット入居者だという。

この居室の終身利用のための入居金は約4億8千万円。
これでも7つある居室のうち、4つがすでに埋まっていた。

一方、これとは対照的な動きもある。
こうしたシニア住宅などの施設に移らず
自宅で暮らし続けたいという高齢者向けのサービスが、
アブニダスというシニアセンターを中心に始まっている。

これは地域全体を高齢者が住みやすい「ビレッジ」にし、
施設で受けられるのと同様のサービスを
ビレッジ内の住民が受けられるようにしようというもの。
これは拙著「シニアビジネス」で取り上げた
ボストンにある「ビーコンヒル・ビレッジ」のコンセプトと同じである。

AARPによればアメリカ人の45歳以上の83%が、
可能な限り長く自宅に住み続けたいと思っている。

しかし、年老いて一人暮らしになった時、
どうやって日々の生活をおくり、
いざという時に備えられるか、不安は大きい。

こうした不安を解消するのが、
この「ビレッジ・サービス」なのである。

さらに、ある企業は健康意識の高い年配者をターゲットに、
ウォルグリーンのような大量陳列型ドラッグストアとは異なる
ハイセンスな商品・サービスを提供する新店舗を始めている。

また、別の企業はパソコンを使わない高齢者向けに、
家庭用のプリンターに電話線をつなげば
孫の写真が自動的に送られてくるサービスを始めている。

こうした動きはまだいろいろある。
恐らくこれからも新しい動きがどんどん出てくるだろう。

なぜなら、シリコンバレーという土地は、
90年代以降IT関連やネットビジネスだけでなく、
「ニュービジネスのショーケース」になっているからだ。
そこは、人間が考えつくおおよそのことが具体的な形として
最初に現れる場所といえる。

実は今から8年前、ネットバブル華やかな時にも、
シリコンバレーには多くのシニアビジネスの動きがあった。
しかし、その多くは2年以内に消えていった。
だから、今現在ある動きも2年後にどうなっていて
何社残っているのかはわからない。

一方、ビジネスとして継続しているものの共通点は、
「ターゲット客」が明確なことである。
つまり「誰」に対して「何の価値」を提供するのかが
はっきりしている。そして、提供側に迷いがない。

先に挙げたCRbHの居室の大きさや価格帯は、
アメリカ国内でも他に例がないほど高い。
しかし、それでも、すでに大半の居室が埋まっている。

シリコンバレーという土地に住む
「特殊な高齢者」をターゲットに、
「彼らが求める価値」を商品化しているからである。

つまり、アリゾナやフロリダで成立しないような商品でも
シリコンバレーの特殊な高齢者には成立するものがある。
逆も真で、シリコンバレーで成立する商品が、
他の地域で成立するとは限らない。

日本では「団塊向け」と謳った商品が相変わらず
毎日のように登場している。
しかし、繰り返し述べているように、
「団塊世代」というひとかたまりの人格は存在しない。

団塊世代といっても、どこに住み、どういう生活環境にあって、
どんな身体の変化やライフステージの変化に
さらされているのかは人によって大きく異なるからだ。

「誰」に対して、「何の価値」を提供するのかをはっきりさせる。
これがシリコンバレーのシニアビジネスからのメッセージである。

 

●参考情報

知縁 - 居住コミュニティでは「知的刺激」が求心力になる