新規事業の芽は顧客の「不」(不安・不満・不便)にあり

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第139回

日本企業の経営者(特に大企業)には、ニッチ分野は手間がかかり、割に合わないと軽んじる人も少なくない。

だが、初めはニッチに見えても、ちりも積もればビッグビジネスになる例は少なくない。その起業時にどのような物の見方をしているかが重要だ。カーブス創業者のゲーリー・ヘビン氏はかつてこう話していた。

「女性専用フィットネスと言っても初めは、誰もがそんなニッチ分野はビジネスにならないと言ったよ。年配の女性はいろいろと要求がうるさくて、相手にするのが大変だってね。でも、僕らには確信があった。人が不満に思っていることにこそ、事業機会は隠れているものなんだ

飽和市場の隣には必ず新たな「不」(不安・不満・不便)が出現する。なぜなら、多様な価値観をもつシニア世代は、限られた商品・サービスではカバーしきれない多様なニーズをもっているからである。

カーブスの例は、新事業の糸口を見つけ出すには、このような顧客が抱えている何らかの「不」を見つけ出せということを示している。

実は、カーブス以外にもこのような例は多い。日本ではダスキンとの提携で事業展開していたホーム・インステッド・シニア・ケアという会社がある。(日本での事業名称は本年4月よりダスキンライフケアに変更)

この会社も、以前アントレプレナー誌のシニアケア部門の第一位にランクされていた。この会社の設立のきっかけについて、創業者のポール・ホーガン氏は、次のように語っていた。

「当時、私は家庭の部屋掃除をする会社の店員でした。お客様の家で掃除をしていると、『ちょっと、こちらに来ていろいろ話をしないか』とか『庭の草むしりも、ついでにお願いできないか』などと相談を受けることがしょっちゅうありました」

「私は店に戻り、お客様からいろいろと相談を受けるので、それをビジネスとして受けたらどうでしょうかと上司に提案しました。しかし、上司は、『そんなことは我々の仕事ではない』といって相手にしてくれませんでした。それなら、自分でやってやろうと思って、この会社を立ち上げたのです」

管理職は、往々にして自分の所掌分野での業績向上と上席者からの業務指示が、優先順位の上位になりやすい。管理職にとっては、顧客の顔より、自分の上司の顔が気になってしょうがない。

だから、顧客のために、といいながら、実は上司のため、というより、自分の立場を守るために業務をこなすという本末転倒がしばしば起こる。

この結果、顧客から生の声を受けている現場スタッフの意見に耳を傾けず、有望な事業機会をみすみす失っていることは、案外多いのである。

だが、せっかく顧客の生の声を直接聴ける仕組みをもっていても、事業責任者を動かすことができなければ、その顧客の声が商品・サービスに転換されることはない。

いくら良いアイデアや改善提案でも、理解力がないか実行力のない人が上司であることは、めぐり合わせで決まる。したがって、ホーガン氏の場合は、自ら起業することで事業責任者になった例だ。

既存の商品やサービスで市場が飽和しているように見えても、実際にはそれらに満足していない顧客は必ず存在する。課題は、いかにして、このような顧客の潜在的な「不」に気がつくかである。

日々の営業活動やサービス提供の過程で得られる顧客からのクレーム、不満の声を、単なる顧客のわがままだと思うのか、それとも新しい事業機会だと思うのか。その解釈の仕方が、新しい市場をつくり出せるかどうかの分かれ目になるのである。

18世紀のイギリスの著述家ホレーショ・ウォルポーは、「この世は、考える人たちにとっては喜劇であり、感じる人にとっては悲劇である」と述べている。

事業機会というのは、外部にあるように思えるが、実は、担当者自身の心の持ちようにある。つまり、顧客からのクレームを事業機会と捉えるポジティブ・マインドをもつことが必要なのである。

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シルバー産業新聞社

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