意外に知らないシニア消費100兆円の「中身」

スマートシニア・ビジネスレビュー 2012年2月6日 Vol.175

前回、日経新聞の記事を題材に「シニア消費100兆円の正しい見方」について説明したところ、多くの反響をいただきました。ところが、2月5日の産経新聞に「今年で65歳、完全リタイア シニア市場100兆、団塊商戦再び」という記事が。明らかに先の日経記事の二番煎じですね。

企業担当者は、こういう「100兆円市場」だけを強調した表面的な記事に振り回されないよう、シニア市場の本質を見極めることが大切です。ということで、今回はシニア消費100兆円が、何に対していくら消費されているのかについて説明します。

世帯主の年齢階級別の世帯あたり月間消費支出とその特徴

次のページの図表2-4をご覧ください。

http://muratainc.com/basics/02.html

 図表2-4は、総務省統計局「家計調査」をもとに、世帯主の年齢階級別の世帯あたり月間消費支出グラフ化したものです。このうち、世帯主年齢が50代、60代、70代の世帯あたり月間消費支出を図表2-5に示してあります。

50代世帯とシニア世帯(60代以上の世帯)とを比較すると、費目別の支出金額が異なることがよくわかります。50代世帯の月間支出平均が299,922円なのに対して、60代世帯では256,985円、70代世帯では199,935円と減っています。

シニア世帯といっても60代と70代とで57,050円も違うんですね。これだけでも「シニア世帯」をひとくくりにすると見誤ることがわかります。

年代が上がるに連れてほとんどの費目で金額が減っています。特に50代では月15,000円かかっていた教育費が、60代以上ではほぼゼロになっています。これは子育てが終了したからですね。

食費が減っているのは家族の数が減ったことと食事の量が減ったことが理由でしょう。また、被服・履物費が減っているのは、家族の数の減少に加えて、本人たちがあまり買わなくなったためと思われます。

一方、金額的にあまり変わっていないのは、住居費、光熱・水道費、家具・家事用品。これらは同じ家に住み続けていれば、年代にあまり影響しないからです。

面白いのは、教養・娯楽費もそれほど減っていないこと。図表2-6の割合で見ると、年代が上がるにしたがって、教養・娯楽費の割合はむしろ微増しています。自由時間が増えることと、定年退職後には仕事以外の趣味にお金をかけるからでしょう。

金額でも割合でも増えているのは保健医療費

他方、金額でも割合でも増えているのは保健医療費です。50代で3.5%だったのが、70代では6%にまで増えています。加齢による身体機能の変化で医療費支出が増える傾向がうかがえます。

シニア向けに商品・サービス提供を考えている方は、こうした年代による違いに加えて、費目ごとの数値を頭に入れておくと役に立ちます。たとえば、食費で見ると、60代では一日当たり2,052円の出費となり、平均世帯人数が2.27なので、904円/日・人となります。

同様に70代以上では、一日当たり1,640円の出費となり、平均世帯人数が1.85なので、886円/日・人となります。こうした数値を知っておくと、店頭で売れそうな価格帯のイメージも湧きやすくなるでしょう。

もちろん、これまでの話は平均値ベースですので、実際の消費者の支出額と異なることは十分にあり得ます。ただ、100兆円という漠然としたイメージより、こうした数値をもとにする方が、はるかに現実感のある商品戦略を構築できることでしょう。 

ストック・リッチ、フロー・プア - シニア市場100兆円の幻想