2012年2月10日 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第59回

ニューヨークの典型的なデリちらしと現物とで異なる宅配の食事の質

 

最近、我が家にも食事宅配のちらしが頻繁に届く。明らかに一人暮らしのシニアや忙しい主婦などをターゲットにしている。ちらしは工夫され、きれいな写真入りのものが目立つ。

しかし、いくら写真がきれいでも、こうした出来合いの食事は、結局冷凍されていたり、パックに入っていたりで、実際に食べてみると価格の割に味気ないものが多い。

そこで、食事宅配よりも優れたサービスとして、私が可能性を感じるのはアメリカ式のデリである。デリとはデリカテッセンの略で、洋風惣菜店のこと。もともと、19世紀にヨーロッパからの移民によって起業されたもので、主にニューヨークで発展した。ニューヨークには数千店のデリがあるという。

 

アメリカで独自に発達したデリと言う業態

 

ヨーロッパ式のデリではハム、ソーセージ、チーズ、パン、オリーブ、サラダなどが主で、量り売りであることが多い。一方、アメリカ式では、これらに加えてソフトドリンク、低アルコール飲料(ビール等)、生活雑貨等も取り扱っており、コンビニの役割も果たしている。また、注文に応じて朝は朝食セット、昼以降はサンドイッチなどを作ってくれるほか、中華の惣菜も充実している。

惣菜店といっても、日本と大きく異なるのは、店内にきちんとした飲食設備があることだ。レストランのような広い飲食スペースがあるが、食べるものは自分で選び、その場で食べられる。持ち帰りもできる。

デリ店内の惣菜

 


アメリカ式デリが優れている5つの理由

 

このアメリカ式デリの優れた点は次の5つだ。

1.冷凍の温めではない、温かい食事が食べられること。

私も時々出張の際にやむを得ず冷たい弁当を二食連続して食べざるを得ないことがあるが、本当に味気ない。できれば一日二食は温かい食事を食べたいものだ。

2.料理のバリエーションが多く、バランスのよい食事が取れること。

一人暮らしになるとどうしても栄養バランスが偏りがち。特に野菜の取り方が少なくなる。デリが優れているのは、いわゆる葉物のサラダだけでなく、緑黄野菜のいためものなどが豊富な点だ。

3.自分で調理しなくてよい。

惣菜が主なので当然自分で調理しなくてよく、すぐ食べられ、時間の節約になる。

4.一人でも気にせず、食べられる。

レストランなどで外食の際、一人だと入りにくい店が多い。かといって、一人で入りやすいラーメン店や丼ぶり店などはカロリーが高めで栄養バランスに欠けるものが多い。

5.レストランより安い。自炊するよりも場合によっては安い。

一人暮らしになると自炊すると量が多くなり、一度作ると同じものをずっと食べなければいけない、などの不便がある。価格的にも高くつく場合が多いので、結局徐々に料理をしなくなる。その結果、栄養バランスが偏りやすくなる。

 

シルバー産業新聞2月10日号日本にはまだ存在しないアメリカ式デリ

 

ところが、このアメリカ式デリ、意外にも日本にはまだほとんど存在しないようだ。日本の惣菜店では、飲食スペースは基本的に設けないのが一般的だからだ。スペースを設ける場合も最小限にしている。

たとえば、デパ地下は惣菜の質は充実しているが、食事スペースは店前の窮屈なカウンタ―席のみのことが多い。惣菜専門店のRF1も質は充実しているが、飲食スペースは取ってつけたようなもの。惣菜売りのパイオニア、オリジン弁当には飲食スペースはない。

さらに、日本の惣菜店では、デパ地下、駅ナカ以外は一般に品ぞろえが少ない。たとえば、東京・大手町の日経ビルやJAビルに通じる地下に何軒かのデリがあり、それなりの飲食スペースはあるものの、惣菜の種類がきわめて少ない。

前者は地代家賃と店舗効率に、後者は商品供給体制に課題があるのは明らかだ。逆に言えば、日本でアメリカ式デリを実現するためにやるべきことは比較的見えていると言える。

 

市場の種は常に「ありそうで、ないもの」にある

 

私のこれまでの新規事業開発の経験から言えることは、新しい市場の種は常に「ありそうで、意外にないもの」にある。日本は人口減少、低成長と言われ市場は飽和しているとよく言われる。だが、飽和しているのは実は私たちの頭の中で、市場を見る目が飽和しているだけのことが多い。ブレークスルーの秘訣は常に自分の意識改革にあるのだ。

 

 

*シルバー産業新聞社のご好意により全文を掲載しています。