2012年の団塊シニア市場の実態とビジネスの可能性

宣伝会議201241日号 特集 新感覚シニア「団塊世代」

宣伝会議120401_表紙_2日本に「新・大人市場が拓ける?」

 

団塊世代が65歳を迎え始める2012年。圧倒的な“数の力”を持つ彼らにより、新たな市場の開拓・拡大がもたらされるのではとの期待が高まっている。団塊シニア市場を攻略するために企業に求められるのは、“シニア特有の変化”にどのようなものがあるのかを今一度見直し、それらがどう消費に結び付くのかを考えることだ。

 

無駄な消費を控えるシニア層の消費傾向

 

シニアの消費力が再び脚光を浴びている。団塊世代の最年長者である1947年生まれが今年65歳に到達し、大量の退職者による新たな市場が生まれるとの期待が大きいためだ。世帯主の年齢別の正味金融資産は、60代以上が全世代のなかで最も多い。さらに、世帯主の年齢別持家率も、60代以上では9割以上と全世代のなかで最も高い割合を占める。

 

しかし、実際には高齢者世帯の年間所得の平均値は307.9万円と、全世帯の平均値549.6万円に比べてかなり少ない上、平均値以下の世帯が全体の6割を占める。つまり、所得フローの面では60代以上は決して豊かとは言えないのだ。

 

宣伝会議120401_4-1_2シニアの資産の特徴は「ストック・リッチ、フロー・プア」である。(これは和製英語で、英語ではassets rich, cash poorという)。いざという時の出費は可能であり、また、それを可能とするために日常の生活においては無駄な出費をしないという消費傾向が見られる。将来に対する明るい展望が見られず、シニアの三大不安(健康不安、経済不安、孤独不安)がストックをフローに変えにくくしているのが実態だ。

 

総務省統計局の家計調査によれば、世帯主の年齢階級別の世帯あたり1カ月間の消費支出の傾向は、世帯主の年齢階級別の年間当たりの所得にほぼ比例していることがわかる(図1・2)。だから、団塊シニア市場を「人数が多い・金持ち・時間持ちマーケット」とみなして、おっとり刀で取り組むと火傷をすると心得たほうがよい。

 

宣伝会議120401_4-2_2シニアの消費はシニア特有の「変化」で決まる

 

消費は、ターゲットの何かが変化することで発生する。そしてシニア層には、若年層にはない特有の変化がある。それは、「加齢による体の変化」「本人のライフステージの変化」「家族のライフステージの変化」「嗜好性とその変化」「時代性の変化」である。これらの変化が消費行動にどのように影響するのかをよく知ることが重要である。

 

1.加齢による体の変化

 

図3は、50代と60代の女性に「最近、体調や体型の変化で気になることはありますか?」と尋ねた際の回答である。「体力の衰え」「体型の崩れ」についてはどちらの年代もほぼ同じ割合になっている。一方、「肌の衰え」「更年期障害」についてはまだ外出機会の多い50代が、「関節の痛み」については60代が、それぞれ割合が高くなっている。ちなみに、厚生労働省によれば、介護や支援が必要になった主な原因の上位は関節疾患であることから、60代の団塊女性は要介護予備軍に差し掛かっているともいえる。

 

宣伝会議120401_4-4_2これに呼応して「美容や体型維持のために定期的にしていることはありますか?」と尋ねると、50代では「コラーゲン等のサプリを購入」している割合が高い。これに対し、60代では「ウォーキング」「スポーツジム」など運動の割合が高くなっている。まだ仕事や家事で忙しい年代である50代は、時間のかからない解決策を求めるが、少し時間に余裕ができた60代は筋トレや有酸素運動などの直接的な解決策を求めることが分かる。

 

例えば、女性専用フィットネスクラブ「カーブス」の顧客年齢層で一番多いのは、実は60代前半、団塊世代だ。筋トレと有酸素運動がトータル30分ででき、忙しい主婦でも通いやすいからである。

 

さらに、次の3つの「ノーM」が団塊女性の心をつかんでいる。一つ目は、“ノー Men(男がいない)”。男性が運動した後に器具に残った汗に触れたくない、運動している姿を男性に見られたくない、といった人が団塊女性には結構多い。二つ目は、“ノーMake-up(化粧不要)”。化粧不要だと準備や後片付けの時間を短縮でき、忙しい主婦も家事や買い物の合間に通いやすくなる。三つ目は、“ノーMirror(鏡がない)”。鏡があると、太って体型が崩れた自分の姿が映って目障りだという人が多いのだという。

 

2.本人のライフステージの変化

 

男性では、転勤、退職、再就職、大病、住宅ローンの完済、離婚など、女性であればこれらに加えて子育て完了というライフステージの変化でも消費は生まれる。特に退職という変化は、退職金という臨時収入があるため、比較的高額品が消費されやすい。電通の調査によれば、退職をきっかけとした具体的な消費行動の上位は①夫婦での旅行、②パソコンの購入、③株やファンドの購入、④保険の加入・見直し、⑤車の買い替え・新規購入、⑥家のリフォームである。

 

総務省の調査でも、2010年の世帯主の年齢階級別世帯当たりのパック旅行への年間支出金額は60代が最も多い。また、小型のハイブリッドカーや軽自動車は、男性の退職を機会に購入されることが多い。これらは、退職後の日常生活の低コスト化を目的とした、いわゆる「ダウンサイジング消費」である。

 

3.家族のライフステージの変化

 

リビングくらしHOW研究所の調査によれば、50代女性の73.8%は夫が現役なのに対し、60代女性では現役はわずか17.9%である。これが消費行動に大きく影響を及ぼす。

 

例えば、夫の退職後の「第二の人生」を考える時、住まいに関する希望を尋ねると、50代では「わからない」が最も多く、「都心のマンションに引っ越す」「親のそばに引っ越す」「海外移住する」などの引越派と合わせると半数近くになる。

 

これに対し、60代では75.3%が「今のまま」でよいとの回答だった。まだ夫が現役で子どもとも同居し、両親の面倒も見なければならない50代では、期待や幻想もあり「揺れている」。これに対し、夫が退職して子どもとも別居し、両親の世話も終わった60代は、ある程度「ふっきれている」とも言えるだろう。

 

団塊シニア層に訴求する際に気を付けるべきポイント

 

シニア層を対象に商品・サービスを提示する場合、特定の年齢訴求が受け入れられる場合とそうでない場合があることに注意しなければならない。そうしたアプローチが受け入れられるのは、明らかに経済的メリットがあると感じられる場合だ。

 

例えば、映画や劇場、散髪などのシニア割引。JR東日本の「大人の休日倶楽部」は、特定の年齢に達した人向けの鉄道運賃の割引という古典的な例である。一方、年齢訴求が好ましくないのは「差別的ニュアンス」が感じられる場合である。例えば、後期高齢者医療制度。75歳以上に特化して保険料負担を増したことで、猛反発を受けた。

 

化粧品やファッションといったカテゴリーのコミュニケーションにおいて、「シニアの認知年齢は実年齢より10歳若いので、60代の人をターゲットにする場合は、50代向けのキャッチコピーを使うと良い」といった声がよく聞かれるが、これは間違っている。若い頃に比べ、体力も落ち、身体的にも衰えているのは自分が一番よくわかっているのだが、あえてそのことを誰かに指摘されたくない、という複雑な心境なのであり、その機微をよく理解する必要がある。

 

また団塊世代には、自分たちと上の世代との違いを感じている人が多い。具体的には、パソコンや携帯電話、スマートフォンなど情報機器が使いこなせることや、夫婦連れ立っての行動が恥ずかしくないことなどが挙げられる。

 

特に女性では、「資産は子どもより自分のために使う」「自立志向が強く、何でも自分で解決したい」といった傾向が顕著に見られる。その点で、例えば旅行商品ではパック旅行より、顧客が求める旅の「部品」や「付帯サービス」をネットで提供する「セミオーダー型」の旅行サービスの方が求められていくだろう。

 

2007年以降の出来事が消費マインド与えた影響

 

リーマンショックによる株価の大幅な下落で、株式や投資信託などで保有していた金融資産を失った人は、シニア層に多い。この結果、不要不急の高額商品は買い控えるようになった。例えば、老後に、メンテナンスに手間のかかる一軒家からマンションに住み替えようと思っていたが、思いとどまるといった具合である。

 

まだ介護が必要ではない人向けの自立型有料老人ホームは不要不急商品の代表格で市場が縮小し、急速な価格破壊が進んだ。かつては入居一時金が40005000万円のものでも売れたが、最近は入居一時金1000万円でも高いと言われるようになっている。

 

さらに震災以降に起こったユーロ危機、アメリカの景気低迷、イランの核開発、中東の民主化動向などに加え、国内の産業空洞化、消費税増税など国内外において先行き不透明な要因が山積みとなっている。その上、昨年後半からの急激な円高で雇用環境が悪化し、65歳以前に退職を余儀なくされる団塊世代が増加している。

 

こうした背景から、2007年以前には退職後は仕事をやめてのんびり過ごす「悠々自適派」がそれなりに存在したが、近年は年金をもらって多少は遊ぶが、可能な限り何らかの仕事を続けたいという「半働半遊派」が増加している。

 

団塊シニア消費は“わくわく感”で喚起

 

そのため今後は、退職後も何らかの形で働き続けられる機会や場の提供も、ビジネスチャンスに結び付くだろう。団塊世代を含む60代を中心に、公称300万世帯の会員にテーマ型旅行を提供しているクラブツーリズムでは「エコースタッフ」という仕組みがある。エコースタッフの役割は『旅の友』という旅行情報満載の冊子を毎月一回250部程度ご近所に配ること。これで月30004000円、配布部数の多い人は3万円以上を稼ぐ。現在所属する約7000人の中には、そうして稼いだお金を使ってクラブツーリズムの商品で旅行に出かける人も多い。

 

企業が顧客に働く機会を提供することで、経済的余裕が生まれると同時に、顧客の当事者意識が高まる。このような「当事者消費」は、今後の団塊消費を活性化する重要な形態の一つになるだろう。

 

また、シニア層のインサイトを正確に把握し、彼らの意欲をうまく喚起することも非常に重要だ。アメリカのジョージ・ワシントン大学の心理学者・コーエンによると、後半生の心理的発達段階は「再評価段階」「解放段階」「まとめ段階」「アンコール段階」の4つに大別され、団塊世代の多くが「解放段階」に位置付けられるという。

 

「解放段階」では、「何か違うことがしたい」「今やるしかない」「それがどうした」といった気持ちに基づく行動や、自分自身を自由に表現したり、新しいことに挑戦したりする行動がよく見られる。今まで抑圧されていたことから解放され、吹っ切れた気分になることで、社会的な因習も気にならなくなり、これまでにない快適さを味わう人も多い。

 

以前、雑誌『いきいき』が企画した「ワンマンス・ステイ」は単なる観光旅行ではなく、憧れの街で1カ月生活しながら英語を学ぶという旅行商品だった。これが5060代女性や夫婦の「何かを始めたい」「今だからこそ学びたい」という内的衝動を後押しし、一人120万円という高額にも関わらず、告知2週間で30人定員が完売した。シニア層のこうした“わくわく感”を後押しするような商品・サービスも求められるだろう。

 

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