2012年6月10日号 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第63回 

半歩先の団塊_シニアビジネス120610_2シニアビジネスの基本は「不」の解消

 

一つの新しい商品・サービス市場が立ち上がると、その商品・サービスに満足しない顧客が必ず出現する。これは多様な価値観をもつシニアは、限られた商品・サービスではカバーしきれない多様なニーズをもっているからである。

 

既存の市場が一見飽和しているように見えても、何らかの「不(不安・不満・不便)」をもっている人は意外に多いものだ。したがって、こうした人たちの「不」の内容を具体的に突き止め、それらの「不」を解消する商品・サービスを提供すれば新たなビジネスになりやすい。

 

これから有望なシニア市場とは?

 

これから有望なシニア市場とは、ずばり『ユーザー側の何かが変化しているにもかかわらず、旧態依然とした「不」が多い市場』である。

 

例えば「補聴器」は、その一例だ。補聴器は最近いろいろなバリエーションが増えてきたが、補聴器の利用が目立たないよう耳の奥に挿入する形式のものは、依然値段が高い。

 

そして、しばしば、余計なノイズを拾ってしまい、聞き取りにくく、長時間利用していると耳鳴りや頭痛がすると言われる。繊細な人間の身体のなかで機器を使おうとすると不具合が出やすいのだ。

 

日本の団塊世代に相当するアメリカのベビーブーマーには、これから補聴器が売れるようになると言われている。なぜなら、ロックンロールを大音量で聴き続けてきたので、難聴予備軍が多いからだ。

 

また、スマートホンも同様の例だ。現状のスマートホンの実態は、全くスマートではない。シニアではない一般ユーザーでも使いにくい点が多々ある。入力しづらい、利用価値の低い機能のてんこ盛りで、かつて携帯電話が辿った道を繰り返している。

 

imageようやくこの六月に富士通が従来のらくらくホンにならい、「らくらくスマートホン」と銘打って、シニア向けのスマホを市場に投入する。文字表示を大きくする機能、ボタンの押し間違いを減らす機能、クリアボイス機能など、らくらくホンで培ったノウハウをスマホに搭載している。

 

だが、現状のスマホの最大の欠点はとにかくバッテリーの消耗が早いことだ。これは付加価値の低いおせっかいな機能を多数搭載しているためである。こうした不具合は実際に使ってみないと実感できず、購入後のシニアユーザーのクレームのもとになるだろう。

 

さらに、大画面テレビ、ハードディスクレコーダー、といったデジタル家電も似た事例である。これらは近年大幅な価格破壊が起こり、電機メーカーは大変だが、依然多くの「不」が存在し、まだまだ改善の余地がある。相変わらずマニュアルがわかりにくい、リモコンが使いにくい。

 

そして、最初の設定が面倒くさい。筆者も先日買い換えたため、初期設定をやらざるを得なくなりトライしたが、難しくてコールセンターに電話して三〇分会話しながらようやく設定ができた状況だ。

 

これらは一見微々たることのようで、市場としては規模が小さすぎるように思えるかもしれない。ところが、国民一億二千万人の大半がテレビを見るし、携帯を使う。そう考えると、小さなことの改善でも積み重ねれば市場規模は結構大きいことに気がつく。

 

「不」を市場に変えるには何が必要か?

 

いまや大半のコンビニ、スーパーに販売管理システムPOS(ポイント・オブ・セールス)が導入されている。このPOSのメリットは、商品の売れ筋がリアルタイムで分かることだ。特に売り場面積が限られるコンビニでは、POSデータにもとづき、売れ筋商品のみを棚に陳列するように管理している。

 

一方、この裏返しで、売れないものはどんどん棚から外される。この結果、売れないものが、なぜ売れないのかが詳細に分析されにくくなっている。ところが、実はその売れなかった商品にこそ、次の事業機会が隠れていることが多いのだ。

 

飽和しているのは市場ではなく、むしろ私たちの頭の中である場合が多い。私たちのモノの見方、考え方が慣れきって、市場が飽和しているように認識してしまうのだ。これだとビジネスチャンスは見えない。

 

したがって、飽和市場と言われるものがあるならば、まず、その周辺をよく観察することだ。そこには必ずまだ解消されていない「不」がある。その「不」を見つけ出すことが市場創出の第一歩だ。

 

言い換えると、事業機会というのは外にあるようで、実は私たちの頭の中にある。つまり、私たちが意識を変えれば、事業機会が見えてくるのだ。

 

シルバ産業新聞社のご厚意により全文を掲載しています。