シニア消費を促す3つのE

不動産経済連載 団塊・シニアビジネスの勘所 第二回

60代に解放段階が訪れる理由解放型消費を促すインナープッシュ

 

団塊世代を含むシニア層が消費のけん引役と期待されている。しかし、シニアの資産構造は「ストック・リッチ、フロー・プアー」であることを忘れてはいけない。日常消費はおおむねフロー、つまり所得に一致している。退職者の割合の多い60代、70代の所得は、50代に比べて当然少なくなる。だから、金融資産が多いからと言って日常のフロー消費も多いとは限らない。

フロー消費をすくい上げるには、相当きめ細かい緻密なアプローチが必要となる。一方、シニアの消費を促すには、フロー消費だけでなく、ストック消費を促す商品やサービスの提案が必要だ。次にそのヒントをお話しする。

 

ジョージ・ワシントン大学の心理学者ジーン・コーエンが、45歳以降になると心理的発達の段階が4段階に分かれると言っている。50代中盤から70代前半にかけて「解放段階」と呼ぶ段階がある。団塊世代はちょうどこの解放段階のど真ん中だ。解放段階の特徴は、何か今までと違うことをやりたくなるという傾向が強いことだ。例えば、サラリーマンを辞めて沖縄に行ってダイバーになるとか、ずっとスーパーでパートのレジ打ちをやっていた女性がダンスの先生になるなど、一種の変身が起こりやすくなる。

 

なぜ、60代前後に「解放段階」が訪れるのか。1つは、自分も家族もライフステージが大きく変わるために、これがきっかけで心理面の変化が起きやすくなるからだ。もう人生、長くないのだから、やりたいことをやろうという気持ちが強くなる。コーエンは、自己解放を促すエネルギー「インナープッシュ」が湧きやすくなると言っている。このインナープッシュには衝動、欲求、憧れなどいろいろあり、これらが消費のきっかけになる。

 

私はこうした消費を「解放型消費」と呼んでいる。シニアに解放型消費が起きるきっかけで特に重要なのは、「Excited(わくわくする)」、「Engaged(関与する、当事者になる)」、「Encouraged(勇気付けられる、元気になる)」の3つだ。

 

消費促進の成功例

 

Excited」を具体的に商品化した例として、雑誌「いきいき」がかつて販売した「ボストン・ワンマンス・ステイ」という旅行商品が挙げられる。あこがれの街で1カ月滞在生活しながら英語を学ぶ旅で、飛行機代込みで1人120万円。一見高く思われるが、告知2週間で定員30人が完売した。50代、60代の女性には、何かを始めたい、リセットしたい、変わりたい、今だから学びたいという人が多いことが分かっていたので、それをちょっと後押ししてあげたのだ。

30人というのは数としてはそれほど多くはない。だが、個人で120万円を出しても買いたくなる人がいることに注目したい。50、60、70歳になっても、多くの人はわくわくしたい、もう一度夢を見たいのだ。私はこういう消費形態を「わくわく消費」と呼んでいる。

 

2つ目のEは「Engaged(当事者になる)」。旅行会社のクラブツーリズムは、首都圏を中心に300万世帯、700万人の会員を持っている。主な会員は大体60代、70代のシニアで、多くのテーマ型旅行をやっている。この会社の面白いのは、顧客参加型の活動だ。「旅の友」という月刊誌を会員に無料で配るのだが、エコースタッフという女性に配ってもらう。このスタッフは、もともと顧客だ。スタッフになって会報誌を月に1回250部配ると、月に大体3千円程度おこづかいをもらえる。実はこれでも郵送するよりもコストが安い。かつ、直接配ることで顔を合わせて話をするというリレーションシップ・マネジメント(RM)にもなっている。

 

話題があって楽しく、おこづかいが貯まる。おこづかいが貯まって結局どうするかというと、クラブツーリズムの旅行に行くのだ。やや、でき過ぎの仕組みに思えるが、ご本人たちは非常に楽しいし、満足している。やっぱり年金だけでは心細い。ちょっと仕事をして、おこづかいをもらえて、また楽しい旅行に出かけられる。こういうライフスタイルをシニア世代は求めている。だから、自分が単なる傍観者ではなくて当事者になると消費が発生する。そういう意味で、私はこうした消費形態を「当事者消費」と呼んでいる。

 

最後の「Encouraged(元気になる)」の典型例として、女性専用フィットネスクラブ「カーブス」が挙げられる。カーブスでは、女性たちが筋肉トレーニングや有酸素運動をやって元気になる。そうすると、体型が痩せることもあり運動着以外の洋服を新たに買ったり、クラブの通い仲間と一緒に旅行に行ったりするようになる。全国のカーブスの店舗ではいま旅行が花盛りだ。一度旅行に行くと、店舗の雰囲気がさらに明るくなり、運営も格段にしやすくなるという。このように身体が元気になると単に医療費や介護費が減るだけでなく、新たな消費が生まれやすいのだ。いまこの現象を私の大学で学術的に研究しているが、ビジネスとしては実際すでに起きている。私はこれを「元気消費」と呼んでいる。人は元気になると消費するのだ。だから、顧客に消費してほしいなら、顧客を元気にすることだ。

参考文献:リタイア・モラトリアム(日本経済新聞出版社)
 

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