シニアのコト消費は「カフェ・ラウンジ」という幻想を捨てよ

2012年9月10日号 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第66回

平場ラウンジの例失敗しやすいシニア向けの「コト消費」ビジネス

 

「モノ消費」とは、消費財などの「商品の消費」である。それに対して、「コト消費」とは、モノ以外の目的による「時間の消費」だ。消費者にとっては、消費する時間が自分にとって何らかの価値があるかどうかが重要である。

 

ところが、商品・サービス提供者にとって重要なのは、消費者の時間消費機会をモノ消費機会につなげることだ。これができないと「コト消費」機会が単なるコスト要因になり、事業が長続きしない。シニア向けの「コト消費」ビジネスにはこのパターンが非常に多いので注意が必要だ。

 

時間消費には「定住型」と「回遊型」がある

 

「コト消費」は「時間消費」とも呼ぶ。時間消費には「定住型」と「回遊型」の二つのタイプがある。アメリカ・シカゴにある「マザー・カフェ・プラス」は、2003年に私が日本で初めて紹介したものだが、定住型時間消費の典型だ。

 

ビジネスのコンセプトは、退職者向けの「第三の場所」で、アメリカ版の老人クラブであるシニアセンターに代わる高齢者意識の薄いシニアの新たな居場所という価値を提唱して受けている。

 

マザーカフェプラス退職者向けの「第三の場所」の必要条件の一つは、何度も利用しやすいコア・サービスがあること。マザー・カフェ・プラスの場合は、飲食できるカフェがそれだ。

 

カフェには人と人を結びつける居場所のイメージが

 

なぜ、カフェにしたのかと言えば、食べるという行為が人と人とを結びつけるエージェントとして一番いいからだ。見知らぬ人同士が、いきなり隣に座っても、会話は進まない。同じテーブルで珈琲を飲み、食事をしながらだと会話は進みやすいのだ。

 

このようにコンセプトは大いに受けているカフェだが、実はカフェの運営自体では利益はほとんど出ていない。地域貢献という大義名分があるために、飲食物の価格を低く抑えているからだ。とはいえ、赤字は出せないのでカフェ以外のカルチャー教室や旅行仲介、小物販売などで何とか収益を出している。だが、たいしたことはない。

 

シルバー産業新聞9月号平場のラウンジは失敗事例の典型

 

これまで多くの日本企業が、マザー・カフェ・プラスを真似して「○○カフェ」や「XXサロン」を立ち上げてきたが、ことごとく失敗している。その理由の一つは、カフェを平場のラウンジにしてしまうことにある。平場のラウンジがダメなのは、広いスペースを使う割に、収益源が少ないからだ。

 

そもそも平場のラウンジは人が集いにくい。こうしたラウンジでよく見られるのは、会員のおばさんが四、五人集まって編み物しながらしゃべっている光景だ。利用者にとっては、ただ同然の費用で、家とは別のところで、似た者同士で交流できるので有益で楽しい。

 

ところが、カフェ運営側にはほとんどお金が落ちない。その一方で家賃と光熱費がかかるうえ、スタッフも必要なので人件費もかかる。

 

このように、シニアの時間消費の場=カフェ・ラウンジというステレオタイプにこだわると失敗する。私はこれまでこうした失敗事例を数多く見てきている。

 

シニア向けカフェの大半は、顧客が長時間「滞在しているだけ」のものが多い。つまり、顧客が「時間消費」をしているが、お金を落とさないビジネスモデルとなっているのだ。

 

時間消費が購買意欲を促す仕掛けが必要

 

したがって、カフェ事業で利益を出すには、「時間消費」という行為が商品・サービスの購買意欲を促す仕掛けが必要なのだ。そもそも、時間消費の場はカフェである必要はない。

 

さらに言えば、マザー・カフェ・プラスの運営会社Mather LifeWaysのメイン事業は、実は老人ホーム、デイケアセンター、訪問介護なのである。つまり、マザー・カフェ・プラスは、その見込み客の集客機能も担っている。だから、そもそもカフェ事業で大きな収益を上げる必要はないのだ。

 

こうした実態を知らず、たとえカフェ事業で利益が出なくても経営が継続できる体制をもたずに甘い収支計画で事業を始めてしまうと、事業立ち上げ後にすぐに行き詰まってしまう。

 

シニア向けのコト消費の場は「カフェ・ラウンジ」という幻想は捨てたほうがよい。

 

シルバー産業新聞社のご好意により全文を掲載しています。


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