消費者から求められるこれからの高齢者向け住宅

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TOTOパブリックレポート2012.11 特集 選ばれる高齢者住宅・施設

特集2 消費者から求められるこれからの高齢者向け住宅

制度スタートから1年が経過し、次々建設が進んでいる「サービス付き高齢者向け住宅」。長引く不況で、あり方を変えようとしている「有料老人ホーム」。高齢者向け住宅はいま大きな転機を迎えようとしています。施設はどのようにあるべきか、シニアビジネスに詳しい村田裕之氏に、市場から見た、これからの高齢者向け住宅の現在の傾向と消費者目線でのこれからのあり方を俯瞰していただきました。

全般的に価格が下がり気味の高齢者向け住宅

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現在、日本における高齢者向け施設・住宅は、介護施設を除くと、2つに大別されます[図1]。1つは「老人ホーム」。もう1つは「サービス付き高齢者向け住宅」(以下、サ付き住宅)が含まれる「高齢者向け住宅」です。

前者の代表格は「有料老人ホーム」で、「介護サービスのない住宅型・健康型」(以下、自立型)と「介護型」に分かれます。いずれもほとんどの施設が入居一時金と月額利用料を支払って「利用権」を得る方式です。

一方、後者は201111月からはじまった見守り・生活相談などのサービスが付いている賃貸住宅です。月極家賃を支払って「賃借権」を得るもので、もともとは有料老人ホームなどの高額な一時金が支払えない高齢者へ住居を提供する狙いがあります。

これらの施設に対して消費者が求めているものは何でしょうか? 重要なものの一つは、支払可能な価格です。「有料老人ホーム」では、10年前には入居一時金5000万円も珍しくなかったのですが、今では5001000万円程度とかなり価格が下がっています。

第一の理由は、20004月から開始した介護保険制度によって民間企業が多く参入し、供給過多になったことです[図2]。第二の理由は、「スマートシニア」と呼ぶべき自ら情報武装した賢いシニア層が増えたことが挙げられます。

団塊世代より若い今の60代前半の78割の方々はパソコンを使い慣れておりインターネットを利用しています。60代後半でも34割の方が利用しています。10年前の60代と今の60代とではインターネットの習熟度が格段に異なります。

今は多くの高齢者がインターネットで情報を集め、施設を見学し、コミュニティを通じて情報交換を行なっているのです。そのような賢い消費者がより良い施設を求め、買い控えすることから、豊富な運営実績があり、しっかりとしたサービスを提供する有料老人ホームだけが選ばれ、そうでないところでは在庫になり、値崩れが起こっています。

特にその状況に拍車をかけたのが、2008年に起きたリーマン・ショックが引き金となった世界的金融危機でしょう。有料老人ホームは一種の不動産商品のようなものであるため、無くても生活に困らないことから2008年後半、日本の不動産市場が凍り付くのと連動して、高級タイプの自立型ホームのニーズが減少していきました。

一方、「サ付き住宅」は入居の際に入居一時金を支払う必要がなく、家賃も抑えられているため、年金での生活が可能なものが多いです。

ますます多様になる高齢者向け住宅

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では、どのようなサービス体系の施設がこれから求められていくのでしょうか? 答えは、ますます多様な施設が求められていくということです。

消費者ごとに重視するポイントや経済状況が異なるため、人によって求めるものが異なります。例えば資産が少なく、主たる収入が年金の高齢者では「サ付き住宅」のような形態を選択するでしょう。サ付き住宅といっても3食付き月額79,800円のところもあれば、中には月額25万円でコンシェルジュ・サービス付きというところもあります。

また、年金以外の収入がある方なら高級な有料老人ホームという選択肢も出てきます。さらに、入居一時金がなく、自分の財産となるという理由から分譲型ケア付きマンションを選択する方もいます。一方で、固定資産税が発生するなど自分自身で管理が必要になるため、すべてを運営事業者に任せたいという方は有料老人ホームを選ぶでしょう。

今後は、従来少なかった介助サービス付きの自立型有料老人ホームへのニーズが増えてくるでしょう。

従来の日本の自立型有料老人ホームは、仕組みやサービス内容をアメリカの例に習い提供してきました。

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ハッピー・リタイアメント(十分な老後資金を確保し、定年以前に悠々自適の引退生活に入ること)をコンセプトに、元気なうちから有料老人ホームへ入り、そのコミュニティの中で優雅に暮らしましょうというもので、豪華なロビーがしつらえられ、社交の場であることが重要視されました。

しかし実際のところ、日本人入居者はそのような空間を好まないせいか、社交の場としてはあまり利用されませんでした。日本の自立型有料老人ホームの場合、本当に元気な方でなく、近い将来に介護が必要となる方が入居する傾向にあります。

これからは従来型、つまり自立健康型よりも、むしろ要介護手前の方へのサポートサービスが充実した、アメリカでいう「アシステッド・リビング」のような施設が求められてくるでしょう。

一方、「サ付き住宅」で懸念されるのは、入居者が将来要介護状態になった時の対応です。入居者自身が要介護状態になると、在宅介護サービスを別料金で受けなければなりません。さらに、重度化すれば、スタッフが少ない「サ付き住宅」では対応が難しく、他の介護施設や介護付き有料老人ホームへ移る必要があるでしょう。

気になるのは入居者がそうしたことを認識しているかどうかです。「サ付き住宅」は今、補助金があるので建設ブームになっています。この補助金がなくなったときにブームはなくなり、市場原理で動くようになるでしょう。その時にトラブルにならぬよう、運営事業者側は心しておくことが必要でしょう。

透明性が求められる契約と運営システム

多様なニーズが出てくる高齢者向け住宅ですが、共通して求められているのは、質のよい介助・介護サービスです。ところが、それは実際に受けてみないとわかりません。有料老人ホームはそもそも口コミ商品。新聞広告などを出せば必ずお客さんが入居するわけではありません。

冒頭でも述べましたが、今は消費者自身が情報に敏感で、スマートシニアと呼ぶべき情報武装した高齢者が増えました。インターネットなどを使って、口コミ情報を共有しています。

それに比べ運営者側は他の施設を知る機会が少なく、消費者よりも他の施設の実情を知らないこともしばしばです。消費者がどのようなことを求め、施設をチェックしているのかにもっと敏感になるべきでしょう。

また、これからは、何ごとも包み隠さない、正直でオープンな姿勢が、消費者からの信用獲得につながります。以前の有料老人ホームでは、入居一時金以外にもさまざまな名目で一時金を徴収していたことがありました。

しかし、現在は消費者保護の観点から使途について明確に求められる傾向にあります。その背景には入居者から返金の場合のルールなどの契約内容を明確にしてほしいニーズが高まっていることが挙げられます。

有料老人ホーム契約後にトラブルになるのは、退去する際の入居一時金返還額に関わることです。それを防ぐために契約時に運営者側と入居者とで退去時の返金ルールを確認・合意しておく必要があります。

また、「サ付き住宅」で居住者と齟齬の多いのは、見守り・生活相談以上のサービスが有料オプションになることです。いずれも運営者側は契約時に、消費者が理解できるよう情報を明示することが求められます。

消費者が求めるこれからの高齢者向け住宅

これからの消費者が施設に求めることは、価格に応じた妥当性のあるサービスであると述べました。それを見極める評価ポイントを紹介します[図3]。

有料老人ホームではまず、施設長(ホーム長)および介護棟のリーダーがしっかりしていることが挙げられます。ホームのサービスの質は施設長の力量で決まると言っても過言ではありません。またスタッフの雰囲気、入居者への対応状態も、施設長の力量を表します。

また、施設の入居率は評価ポイントの一つと言えます。たとえば、開設後2年経過した時点で入居率が半分以下の場合、何らかの問題があると考えられます。

更に施設のハードにも運営の善し悪しが現れます。豪華なつくりは一見魅力的ですが、それよりもトイレをはじめとした水まわり空間を見てみることが、経営状態を知ることができます。汚れが残ったままになっておらず、掃除が行き届いているか、破損や故障はないか、などをチェックすると良いでしょう。

また、施設内のエレベータの位置や広さ、居室やケアステーションのレイアウトなどを確認することも重要なポイントです。

「有料老人ホーム」も「サ付き住宅」も一定の質を維持しながら、より価格の低いものが求められています。ということは、今後は限られたコストの中で、いかに付加価値を上げていくかが勝負となります。

たとえば、高価な建材を使わなくても、居室や廊下の質感を高めたり、色の使い方などで工夫する設計力が求められます。従来は経済性を求めれば、居室の配置を片廊下の一直線プランにする例が多かったのですが、これだと病院のような施設臭い雰囲気になりがちで、潜在入居者からは避けられます。

そうではなく、たとえば、「サ付き住宅」においてもユニットケア(入居者を10人程度のグループに分け、それを生活の単位として介護を行なう体制)を参考にした居室配置なども柔軟に採り入れるべきです。そうすることで人数を増やしても施設臭くならずに収入を増やせ、かついざ入居者が要介護状態になった時に訪問介護を受ける場合でも作業を効率化できるでしょう。

参考:親が70歳を過ぎたら読む本

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