利用者目線での商品・サービスの絶え間ざる進化が必要

保険毎日新聞 連載 保険業界はシニアシフトにどう対応すべきか?第3回

homai_1306_fig加齢による身体の変化と気持との「ギャップ」をさりげなく埋める

 

NTTドコモの「らくらくホン」は、シニア向け携帯電話のパイオニアである。最初のモデルから累計2200万台以上売れたベストセラー商品だ。いかにして、らくらくホンはベストセラー商品になったのか。

 

第一の理由は、加齢による身体の変化をエレガントにカバーする便利な機能が満載されているためだ。たとえば、年齢が高くなるにつれて高音が聞き取りにくくなることから、利用者の年齢に合わせて通話音声の主に高音部分を自動で強調する「あわせるボイス」、騒音環境でも聞きやすい「スーパーはっきりボイス」、相手の声がゆっくり聞こえる「ゆっくりボイス」、雑音を除去し、クリアな音声を相手に伝える「スーパーダブルマイク」などは、耳の機能の衰えをさりげなくカバーしてくれる。

 

また、メール本文などを声で入力できる音声入力メールは、小さな操作ボタンでの入力が面倒な人に便利な機能である。らくらくホンシリーズには、こうした身体変化を補完する機能が満載されている。これは若年層を対象にした携帯にはない機能であり、顧客の定着率が高くなる大きな理由の一つである。

 

homai_1306機能だけでなく、スタイリッシュにしつらえる

 

第二の理由は、シニア向けの使いやすい機能だけでなく、商品デザインをスタイリッシュにしつらえているためだ。今ではベストセラーのらくらくホンも、実は初期段階ではそれほど売れなかった。消費者への知名度が低かったせいもあるが、当初のモデルは、ユニバーサルデザインを採用し、シニアにとって機能面での使いやすさのみを前面に出したものだった。

 

確かにディスプレイの字は大きく見やすかったし、操作ボタンも大きく押しやすく、老眼の人でも使いやすいと評判だった。また、耳の遠くなった人でもはっきりと聞こえる音声補整が施されていたり、握力の落ちた人でも握りやすく落としにくい形状であったりと、機能的にはそれまでの携帯電話にはない優れたものだった。

 

にもかかわらず、当のシニアのなかには「らくらくホンなんて使いたくない」という意見が根強くあった。その最大の理由は「製品のデザインが年寄りくさくって、それを持っていると年寄り扱いされるので嫌だ」というものだった。仮に自分では年を取ったと認識していても、まだ自立して元気に生活できるうちは、周りの人に「あなたは年寄り」だと言われたり、老人扱いされたりするのは嫌なものだ。

 

NTTドコモでは、その後検討を重ね、前述の「シニアにやさしい」機能は従来以上に強化したうえで、デザイン面でもっとスタイリッシュで、年寄りくさくない「らくらくホンベーシック」などのシリーズを開発した。その結果、発売以来中核モデルとして、毎月の売れ行きトップ10位に常時ランクされるほどの人気機種となった。

 

この例が示しているのは、機能面で「シニアにやさしい」ことが、デザイン面では「シニアにやさしい」とは限らないことだ。人のファッションセンスは、高齢になってもあまり変わらないからだ。特に女性にその傾向が強い。

 

「私でもできる」と思ってもらえる商品にする

 

第三の理由は、目の肥えたシニア利用者の「ツボ」を押さえた商品設計にある。たとえば、「らくらくホンベーシック3」では、「おまかせカメラ」という機能が目玉になっている。これは被写体に携帯カメラのレンズを向けると自動的にピントが合い、手ぶれ補正も歪み補正もすべて自動に行ってくれ、きれいな写真が誰でも簡単に撮れるというものだ。

 

実は「らくらくホンベーシック3」のユーザーにはシニア女性が多い。面倒な操作なしで高品質の写真が撮れるというのは大きなメリットになる。

また、カメラ以外に電話、メールといった、よく使われる機能については、「ここまでやるか!」というほど徹底的に使いやすく工夫されている。

 

その一方で、シニアにあまり使われない機能はあえて搭載せず、機能を絞りこんでいる。このように「本当に必要な機能」だけに絞り込むと商品の売りが鮮明になり、使いやすくなる。かつ、余分な機能がない分、価格を下げられる。これにより価格に敏感なシニア主婦にも購入のしきいが下がるのだ。

 

メカ嫌いで機種変更を嫌うシニアの心理を尊重する

 

第四の理由は、一旦商品にほれ込むと、他の商品に目移りしにくいシニアの消費行動の特徴にある。IT機器である携帯電話は、パソコンほどの複雑さはないが、洗濯機や掃除機ほどの使いやすさはない。シニア利用者は、若者向けの携帯電話の操作ボタンの小さいこと、画面文字が小さく見づらいこと、音が聞きづらいこと、操作が複雑なことなどに対する抵抗感は未だ強い。らくらくホンが売れたのは、まさにこうしたシニアの「操作不便」を一つひとつ解消していったからに他ならない。

 

また、らくらくホン利用者は、機種変更することをあまり好まない。機種変更すると、せっかく使い方を覚えたのに、また一から覚え直さないといけないのが大変面倒だからだ。

 

スマホ一辺倒にせず、利用者の選択肢を多く用意すべき

 

このように商品完成度の非常に高い「らくらくホン」だが、近年のスマホブームで影が薄くなっている。一方、2012年8月にドコモが投入した「らくらくスマートフォン」は、「らくらくホン」の商品成熟度に比べると、まだ発展途上の感が強い。スマートフォンとは直訳すれば「賢い電話」だ。だが、スマホの実態は電話ではなく、小型パソコンである。従来型の携帯電話に比べて非常に多くの機能があるのはそのためだ。

 

ところが、前述のとおり、一般のシニアはそれほど多くの機能を求めていない。現存の「らくらくホン」ですら、まだ機能が多すぎると言う声もあるほどだ。発売一年後の今年8月に改良版の「らくらくスマートフォン2」が発売予定だが、どの程度改善されるのかは未知数だ。

 

一方、今年5月にソフトバンクが、この「らくらくスマホ」に良く似た「シンプルスマホ」という機種を発売した。外観も機能も「らくらくスマホ」にそっくりなだけでなく、「らくらくホン」で提供しているサービス機能も一部取り込んでいる典型的な模倣品である。

  ソフトバンクは、以前「らくらくホン」にそっくりな「シンプルホン」というのを、東芝につくらせて商品化したことがあったが、ドコモから訴えられ、敗訴した経緯がある。今回のモデルはどうなるだろうか。

 

気になるのは、いずれのキャリアも、既存の携帯電話のシニアユーザーをスマホユーザーに乗り換えさせたいという意図が強すぎることだ。シニア市場は多様性市場であることを忘れてはいけない。シニアに無理にスマホに移行させるのではなく、利用者の選択肢を多く用意する方が、シニア市場での事業戦略として正しいからだ。

 

 

シニアシフトの衝撃

 

保険毎日新聞社

 

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