増える「おひとりさま」と支援サービスの可能性

保険毎日新聞 連載 保険業界はシニアシフトにどう対応すべきか?第4回

クラブツーリズムのツアー風景 「一人で時間を過ごす人」の割合が増える

 

多くのサラリーマンにとって退職後の大きな変化は、生活リズムが「職場中心」から「個人中心」になることだ。サラリーマン時代は常に上司、同僚、部下、取引先が周辺にいて、昼は一緒にランチを食べ、夜は居酒屋で一杯やり、休日は接待ゴルフに出かけていた。

 

ところが退職すると、こうした機会がなくなる。毎日一緒だったのが嘘のように、職場の人たちと会う機会がなくなる。この変化に対して退職後しばらくの間、気持ちがついていかない。生活リズムが激変するからだ。

 

一方、退職後は妻と一緒に過ごそうと思っていても、そう簡単にはいかない。夫よりもはるか昔に退職した“先輩”は、自分の生活リズムをすでに確立している。趣味仲間や旅行の相手も豊富だ。

 

世間では「退職後は地域デビューを」とか言われるが、退職サラリーマンにとってはそれほど容易ではない。何十年も職場と家の往復のみで、隣近所との交流がほとんどない人も多い。共通の話題も乏しく、今さら地域デビューと言われても場違いな感じがする。

 

こうした現実を踏まえると、今後確実なのは、職場や家庭や地域といった“群れ”から離れて「一人で時間を過ごす人」の割合が増えることだ。ここに着目すると新しいビジネスのアイデアが生まれやすい。

 

homai130703群れから離れた人に新たな「群れづくり」を支援する

 

中高年対象の旅行サービス会社、クラブツーリズムが提供する数多くのクラブ活動のうち、人気が高いものに「クラブ・ララ」がある。これは、夫婦や友人どうしではなく、一人で参加する人限定のクラブだ。人気の行き先は沖縄だという。行ってみたいが一人ではなかなか行きにくいからだ。だから似たような境遇の人が集まる場所だと敢えて言うことで一人でも参加しやすくなるのだ。

 

心理学者のマズローが提唱した「欲求段階説」によれば、「生理的欲求」、「安全の欲求」の次に、「親和の欲求」段階がくる。簡単に言うと、人は衣食住が足り、命の安全が保証されると、次は何らかの集団に帰属したくなるのだ。「クラブ・ララ」は、群れから離れた人を再び群れに誘導する「群れづくり支援」のサービスといえよう。

 

「一人でも楽しめる」という価値に目をつける

 

一方、複数での利用が前提となっていることで一人では利用しにくいものが、まだ多く存在する。地方にある老舗の温泉旅館などでは、中高年女性一人で宿泊を申し込むと断られる例が未だにある。宿泊中に自殺でもされたら困るからだという。しかし、単純に一人で仕事を忘れて風情のある温泉旅館でリラックスしたいという人は増えている。

 

また、一人で食事をする機会が増えれば、カウンター主体のラーメン屋やファストフード店だけでなく、時には上質のレストランで食べたい人も多いだろう。ところが、そうした場所は、たいていカップルでの食事を前提にしたデザインになっている。女性同士ではこういう場所には結構入れるのだが、なぜか中高年の男性同士では入りにくい。ましてや、一人ではさらに入りにくい。

 

したがって、こうした需要に対しては、「一人専用宿泊パッケージ」や「一人専用食事コーナー」があればよい。このような、一人でもわびしくない「一人エンジョイ支援型」商品も求められていくだろう。

 

ちなみに、フランスのパリは、こうした「一人者」が多い街だ。カフェやレストランには一人マイペースで食事を取る人が老若男女関係なく実に多い。また、老人が公園のベンチで一人ぽつんと座っているシーンもしばしばお目にかかる。だが、不思議なことにこうした「一人者」たちが、あまり孤独そうに見えない。それどころか、一人者たちが街の風景のなかに溶け込んで絵になっているのである。

 

しかし、これが東京だと様子が異なる。たとえば、東京の公園で老人が一人ぽつねんとベンチに座っている風景は、なぜかとても寂しそうに見える。街の空間が「一人者」を排除しているように見えるのだ。

 

だから、単品の商品・サービスにとどまらず、「ショッピングモール」や「街づくり」などにも一人でいても周りから孤独と思われない空間の作り方が求められるだろう。

超高齢社会とは実はこうした「一人者」が増える社会だ。だから「一人でも楽しめる」という価値が、これからの商品開発のカギとなる。

 

「お金のプラン」を立てても「時間のプラン」を立てる人はいない

 

電通の調査によれば、サラリーマンが退職後に具体的に実施したことの上位に「株やファンドの購入」「保険の加入・見直し」が入っている。このように退職前後に「お金のプラン」を立てる人は多い。

 

ところが、退職後の大きな変化の一つである“自由時間の増加”に対応した「時間のプラン」を立てる人はあまり多くない。「せっかく、会社中心の時間に束縛される生活から自由になったのだから、時間のプランなんかつくりたくない」という意見の人も少なくない。

 

しかし、私の知る限り、退職直後からしばらくの間は自由気ままに過ごしても、数ヵ月後には時間にある程度の計画性をもった生活に戻りたがる傾向が強い。前述した「生活のリズム感」が欲しくなるからだ。

 

では、退職後の時間のプランづくりとは、どのようにすればよいのか。お金のプランの指南役のファイナンシャル・プランナーは、顧客の老後資金の見積りや準備方法は指南できても、時間のプランを指南できる人はほとんどいない。

 

その理由は、退職後に必要な生活資金には目標数値があるのに対して、退職後の時間の使い方は、人によってさまざまであり、標準的なものが存在しないからだ。だからこそ、顧客の退職後の時間のプランつくりの指南が、差別力のある新たなサービスとして浮かび上がってくるのである。

 

「資産ポートフォリオ」から「社会的ポートフォリオ」へ

 

その際のコツは、時間のプランといっても、現役サラリーマンのように仕事の締め切りを定めた工程表をつくらないことだ。むしろ「お金のプラン」の場合の「資産ポートフォリオ」にならって、「時間のプラン」のための「社会的ポートフォリオ」をつくるのである。

 

この考え方の基本は「暇ならば、孤独にならないように。孤独ならば、暇にならないように」である。退職後も社会とのつながりが重要であることを認識していても、それをつくって維持できるとは限らない。

 

聴力や視力が衰えたり、以前はよく参加していたスポーツなどの活動も、体力が落ちて参加できないといった状況では、新しい友人をつくったり、古い友人と付き合い続けていくことは難しくなる。こうした退職後の状況変化に対して、顧客がそれに対応して実行できる「時間の使い方の選択肢」を社会的ポートフォリオとして指南するのだ。

 

資産ポートフォリオに加えて、社会的ポートフォリオを提案することで、単なる金融商品を売りつけるだけの営業マンと大きく差別化できるだろう。

 

 

シニアシフトの衝撃

 

保険毎日新聞社

 

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