販促会議11月号 連載 実例!シニアを捉えるプロモーション 第九回

cover2高度成長期に発展し、成功した産業・業界・業態ほど、シニアシフトへの対応が遅い。特に遅さが目につくのは、多くの食品メーカー、家電メーカーなどの製造業だ。エンドユーザーにはシニア世代も多いのだが、実は多くのメーカーはこれまで消費者のことを見ているようで、あまりよく見てはいなかった

 

なぜなら、かつては消費者の動向把握などは、その先の中間卸や量販店、小売業に任せておけばよかったからだ。だが、これからはメーカーも、エンドユーザーのことを詳しく知らなければ、売れるものを作れない時代である。

 

1.シニア顧客のニーズが直接見える仕組みを自前で持つ

 

シニア市場に進出するためには、まずは何から始めたらいいのか?そんな質問をよく受ける。それに対する一番の答えは、顧客ニーズが見える仕組みを「自前で」持つことだ。

 

一般に大企業がシニア市場への足がかりとして最初に行うのが、調査会社にアンケート調査、グループインタビューなどの市場調査を依頼することだ。しかし、私が見てきた限り、そうした調査結果の90%は役に立っていない

 

なぜなら、調査を依頼する企業が、シニア市場でどのような商品やサービスを生み出して、どういう販路で売り出していくのか、という戦略がないまま、とりあえず市場の状況を調べてみよう、という程度のものが結構多いからだ。

 

そんなことに割ける予算があるのなら、自社で製造した商品が末端のエンドユーザーの間でどのような売れ方をしているのか、どういう評判になっているのかを、量販店や中間卸経由ではなく、直接、自分たちが知ることのできる仕組みづくりに、むしろお金をかけるべきだ。

 

しかし、それぞれの産業、業界には長年、守り続けてきた商習慣などの暗黙の縛りがある。製造業界にはメーカーがいて、中間の卸業者がいて、さらに量販店、系列店などの小売り業者がいて、ようやくエンドユーザーがいる。

 

この序列をないがしろにすることはこれまでの商習慣の破壊であり、そうした既存の仕組みの改革には、メーカーといえどもなかなか踏み込めていない。しかし、もうそんなことは言っていられない状況であることは、経営トップなら、十分に分かっているはずだ。

 

2.メーカーが直接、通販会社を持つ。コールセンターは外注しない。

 

既存の商習慣の破壊なしで、仮にメーカーが直接、シニアユーザーなどの消費者ニーズを把握する有効な方法は何か?それは、例えばメーカーが直接、通販会社を持つことだ。

 

そして、通販会社の運営自体はアウトソースでも構わないが、コールセンターなどの顧客接点のある部分は絶対にアウトソースしてはいけない。実際に顧客と接し、会話のやり取りなどが行われる業務領域は、自社の社員が直接行うべきである。ここが重要だ。

 

実際、業績の伸びている通販会社はすべて、この手法でやっている。コールセンターには大きく二つの役割がある。一つは商品の支払いに関する手続きなど事務的な処理で対応可能なもの。これはテレマーケティング会社へのアウトソースでも十分だ。

 

しかし、もう一つの顧客からの商品に関する問い合わせ、クレームなどの細かなニーズへの受け答えの領域はアウトソースしてはいけない。むしろ、なるべく製造部門の現場に近い立場の人が対応するのが理想だ。

 

そこで交わされる顧客からのクレームや要望の生の声は、小売業者のところで滞留していた貴重な消費者の生の声でもあり、調査会社や広告代理店への丸投げではなかなか入手できない情報なのだ。

 

そうした仕組みで顧客から直に仕入れた情報を効果的に活用し、まずはモニター用として直営店などで売ってみる。その中から例えば60%以上の売れ行きのものを厳選した後に量販店での本格販売に移行すればよい。

 

シニア顧客の基本ニーズは「不(不安・不満・不便))」の解消だ。だが、そうした顧客の不は、顧客と直接接しないとなかなか聞こえてこないものだ。

 

3.家電製品ばかりを売るコンビニをつくる

 

メーカーの顧客接点の視点が問われている一方で、小売業ではナショナルブランド(メーカー製品)以外のプライベートブランド商品が売り場で一定のシェアを占め始めている。いわば小売業者のメーカー化ともいえる現象でもあり、ますます消費者の既存メーカー離れが危惧されそうな流れにある。

 

小売り業者がプライベートブランドでメーカー化しているように、逆にメーカーも小売りの発想を持つべきだ。小売り化しないから、売れない商品を量産し、在庫調整ばかりやっている。そうではなく、メーカーも、思い切って不採算で身売り先を求めているスーパーやコンビニを買収する。それぐらいの発想があってもよい。

 

今の時代に求められているのは、例えばパナソニックが同業のソニーの真似をする、あるいは東芝の真似をするのではなく、イオンやセブン&アイの真似をする。そうした発想だ。家電製品ばかりを売るコンビニがあってもいい。そうした新しい業態を作るという発想こそが、家電メーカーに求められている。

 

4.家電を売りたいなら、家電以外を売る

 

東京・町田の郊外にある「でんかのヤマグチ」は、従業員40人、周囲に6店の家電量販店に囲まれつつも15期連続の黒字を維持している家電店だ。この店の特徴は、ものを「高く売る」ことだ。たとえばテレビは一般的な量販店の2倍の値段でも売れるという。その秘密は、顧客は町田市内の高齢者を中心に絞り込み、社員による徹底した顧客サービスにある。

 

テレビとレコーダーを買ってもらったら顧客の自宅まで届け、配線して設置する。また、顧客から電球1個でも交換の依頼があれば、すぐに顧客宅に行き、交換する。顧客の留守の間に郵便物を受け取ることもある。

 

さらには、一般の家電販売店ではまず不可能なサービスも行っている。たとえば、営業担当者がクルマで担当地域を巡回中、顔見知りのお客様を見かけると声をかける。すると、「これから病院に行くのよ」という返事があれば「それなら、すぐそこですから乗っていってください」と病院まで送るということもやる。また、韓流ドラマが大好きな高齢女性のために、わざわざ自宅に出向き、顧客の代わりに録画をセットするということもやる。

 

顧客に困りごとがあったら、1分でも早く駆けつけ、とことん手助けをする。こうした積み重ねで、顧客から深い信頼を得ると、多少高くても本業の家電製品を高く買ってくれるのだ。

 

 

参考文献:シニアシフトの衝撃