経験価値向上と言う差別化手法

保険毎日新聞 連載 保険業界はシニアシフトにどう対応すべきか?第9回

経験価値を最大化するような場をつくる

 

前回取り上げた「知的新陳代謝モデル」のもう1つのポイントは、「経験価値」を最大化するように場をつくることだ。

 

ここで経験価値とは、顧客にとってのエクスペリエンス(経験や体験)が経済価値になるという考えだ。ちなみに、経験価値の観点で経済活動を捉える考え方を「エクスペリエンス・エコノミー(経験経済)」という。

 

エクスペリエンス・エコノミーにおいては、コモディティ、製品、サービス、エクスペリエンスの順に価値が上がる。たとえば、コーヒーの値段は、顧客がどのような体験をできるかによって変わる。

 

どこにでもあるコーヒー豆をバラ売りで売ると、コモディティとなり1杯分当たりの価格が1円にしかならない。それをパッケージにして売ると1杯分当たり10円になる。それをコーヒーにして売ると1杯当たり300円になる。さらに、それを高級ホテルのラウンジで提供すると1000円になる、という具合だ。



つまり、もとのコーヒーの材料は同じでも、ホテルニューオータニのラウンジで飲むと1000円の値段がつく。そして注文する側も1000円を支払うことを許容している。つまり、価値を認めているわけだ。これが、エクスペリエンス・エコノミーの意味だ。

 

image これに目をつけて成功したのがスターバックスだ。スターバックスは、もともと豆売りから事業を始め、次に立ち飲み店を始めた。それから「第3の場所」のコンセプトを知って、いまのスタイルになった。

 

その後、スターバックスは、そこでコーヒーを飲む以外のこともできることを価値に加えた。たとえば、無線LANが使えるサービスはスターバックスが始めたものだ。また、その場で音楽CDが焼けるというサービスも一時期提供していた。

 

このように、その場の経験価値を上げれば、コーヒーの価格が多少割高でも、顧客は受け入れる。だから、スターバックスが一貫して試みているのは、どういう経験価値が顧客の満足度を上げるのかである。

 

知的新陳代謝型の時間消費ビジネスにも、これと同じことが言える。現代はモノ余りの時代であり、すぐに競合商品が互いに真似しあい、似たような仕様になる。そして、商品差別化の猶予時間が どんどん短くなり、その結果、最終的には価格競争になり、体力勝負に陥ってしまう。たとえば、パックツアーのような商品は、すでにコモディティ化しており、激しい価格競争にさらされている。

 

こうした競争から脱却するための一つの手段が「経験・体験」という経済価値を中心に据えた「経験価値ビジネス」なのだ。たとえば、ディズニーリゾートもその一例だ。

 

ディズニーリゾートでは、個々のアトラクションやショーをそれぞれ単価いくらという商品として売っているわけではない。むしろ、そこでの非日常空間における心地よい、楽しいといった体験が心に残ることが顧客にとっての価値になっているのだ。

 

コト消費型のモノ消費ショップ

 

「コト消費型のモノ消費ショップ」とは、モノ消費の店に連載第7回で取り上げた回遊型時間消費の要素が入ったものだ。つまり、単にショップに行って必要なモノを買うだけではなく、その場で回遊して見ていると、買う気をそそられて思わずモノを買ってしまうショップのことだ。

 ステュー・レオナード_キャラクターを使った楽しい陳列

ニューヨークやコネティカット州に「スーパーマーケットのディズニーランド」と呼ばれるところがある。ステュー・レオナード(Stew Leonard,s)というスーパーらしくない名前のこの店の売りは、選び抜かれた良質の食料品と楽しく買い物できる工夫にあふれていることだ。

 

まず、オリジナルブランド商品が多いこと。この店は、もともと牧場から始まったため、自社保有の農場から牛乳やバター、牛肉を直販する。店の中に牛乳をパックするミニ工場があり、ガラス越しに見ることができる。こうした製品の「ライブショー」は、店のあちこちで見られる。さらに店内ではパンやマフィン、ベーグルなどをその場で焼いて販売する。

 

次に、工夫された商品の配列。最初に果物、ベーカリー、野菜、肉、飲み物、魚、チーズやハム、乳製品、最後に鶏肉料理や中華料理の量り売りがあって、レジにたどり着く。普通のスーパーのように四角い配列ではなく、まるで迷路のようにくねくねと回っていく。また、家族連れが多いためか、子供が楽しめるように、動くキャラクターが店内の至るところに見られる。

 ステュー・レオナード_ディスプレイの様子

食料品販売を中心とするスーパーは、基本的には「生活に必要だから行くところ」である。だが、ステュー・レオナードは、「行くと買う気をそそられるところ」だ。色鮮やかな商品を立体的なディスプレイやキャラクターで見せる手法は、単なるスーパーというよりエンターテインメント・パークと言えよう。

 

ステュー・レオナードの店舗数は、全米でわずか4店舗だが、1平方フィート当たりの売上高は、3470ドルで、全米平均500ドルの約7倍。世界一の面積効率でギネスブックにも掲載されている。

 

一方、取り扱い品目は、通常のショッピングモールが3万品目なのに対して2000品目とかなり少ない。しかし、顧客から品揃えが悪いというクレームが上がったことはほとんどないという。

 

顧客にとっては不要な商品を数多く並べられるより、質の高い商品に絞り、心地よい購買体験を演出されるほうが、はるかに経験価値が高い。ステュー・レオナードは、このことを実証している。

 

「経験価値」向上にはソフトウェアが重要

 

モノが乏しい、貧しい時代には、品数が多いほうが喜ばれた。百貨店などはその名のとおり、「百貨」品物があることが売りだった。しかし、モノがあふれる現代には、単に品数が多いだけではもはや差別化にならない。たいていのモノは、百貨店以外の店でいくらでも買えるからだ。多くの百貨店がここ数年苦戦している根本理由はここにある。

 

ステュー・レオナードのアプローチは、こうした競合から一歩抜きん出るための差別化の打ち手なのだ。一方、客を楽しませるさまざまな工夫はしながらも、ステュー・レオナードでは、建物や店内施設は、もともと牧場からスタートしたイメージを残しており、どちらかといえば粗末なもの。建物や店内設備に過大な投資はしていない。つまり、手間をかけるべきなのは、顧客が本当に求めている「経験価値」を実現するための「ソフトウェア」なのだ。

 

保険商品においても、保険加入者がどのようなタイミングで、どんな体験にさらされているかによって保障の価値は変わりうるだろう。経験価値向上と言う差別化手法は保険商品にも応用できる余地が十分にある。

 

 

参考文献:シニアシフトの衝撃

 

あわせて読みたい関連記事

タグ


このページの先頭へ

イメージ画像