1210 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第81

imageシニアシフトへの対応が遅い業種の一つが介護食以外の食品メーカーだ。特に菓子や乳製品は長い間子どもや若者など若年層がターゲットだったため、メーカーの中に「菓子は若者向け」という固定観念ができ上がっている例が多い。

 

しかし市場がどんどん高齢者層にシフトしているのだから、市場の変化に合わせて供給サイドも発想転換の必要がある。

 

「子ども向け」に売っていたものを「シニア向け」に売ってみる

 

食品メーカーの新製品プレスリリースを見ると、ターゲット顧客が「20代から30代」と記載されている例が非常に多い。しかし、製品をよく眺めると、ちょっと工夫すればもっと上の年齢層にも売れそうなものも多く見られる。

 

例えば、森永乳業が森永製菓とコラボして商品化した「ミルクキャラメルプリン」 がそうだ。この製品は、「森永ミルクキャラメル」の発売100周年を記念して企画されたもので、主要ターゲット「2030代男女」となっている。

 

ここで、本連載6月号で取り上げた「世代特有の嗜好性」の観点で見てみよう。幼少の頃にミルクキャラメルを食べた「世代原体験」を持つ4060代の人にもこの商品を適切に打ち出すことで、「あら、懐かしいわね」「あのミルクキャラメルの味がプリンになったの、どんな味かしら」といった「ノスタルジー消費」が起きる可能性は少なくない。

 

imageまた、1965年からある森永乳業の「マミー」は、今では小売店では紙パックで販売している。例えばこれを、発売当時のデザインの「ビン入り」で販売できれば、50代以上の「ノスタルジー消費」が喚起されやすくなるのではないか。

 

50代以上にとって、幼少の頃、毎朝自宅の牛乳箱に届く「ビン入りマミー」を飲むのがちょっとしたぜいたくな楽しみだった人は少なくないだろう。

 

これらはあくまでアイデアだが、こうした「世代原体験」をもつ人たちに懐かしさを感じてもらい、つい商品を手に取ってみたくなるアプローチをすることで、従来の若年層以外のシニア層へも新たな市場が広がる可能性がある。

 

呼び名ではなく「効能を明確に」訴求する

 

私はシニアビジネスの専門家であり、シニアという言葉は何度も使ってきた。だが、商品を売るときに「シニア向け」とうたって売れ、とは一度も言ったことがない。

 

その理由は年長者の中にはシニアと呼ばれることを嫌う人が多いからだ。そのため「シニアに代わる何か良い呼び名はありませんか?」という質問を何度も受けてきた。

 

結論から言うと、特定の年齢層を一つの言葉で表すのは無理があるので、そうした呼び名はしない方がよい、というのが私の考えだ。

 

もちろん、「団塊世代」「焼け跡世代」など世代原体験を共有する特定の世代を「○○世代」と呼ぶのは構わない。ただし、本連載6月号で述べた通り、対象者が「世代原体験」を共有していることが必須条件だ。

 

image一方、シニアより下の、3040代をターゲットにした菓子や乳製品においては「大人」という言葉を使った「大人の〇〇」といった名前の商品が多く見受けられる。

 

こうした商品は、「ちょっとしたぜいたく感」のことを「大人」と言っていると推測されるケースが多いが、「何が大人向けなのか」をはっきり表現しているわけではない。

 

しかし、シニア世代に向けて訴求する場合、あえて何かをはっきり言わない「大人の」という言葉を使うよりも、これまで本連載で述べてきたシニアのさまざまな変化に即した「効能を明確に訴求する」方がよい。

 

例えば缶コーヒーなら、「脂肪を消費しやすくする ヘルシアコーヒー」という表現の方が非常に分かりやすい。もちろんこの場合は特保商品だから、ということもあるが「これを買うと私の何をどうしてくれるのか」を明確に示すことが重要なのだ。

 


参考文献:シニアシフトの衝撃