大量輸送に慣れきった鉄道会社のシニアシフト戦略とは?

210 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第83

ななつ星ヨーロッパ型のゴージャス車両でシニアのコト消費をモノ消費につなげる

 

私は07年に上梓した拙著「リタイア・モラトリアム」で、団塊世代の退職が本格化すると在来線には昼間走る「ゴージャス車両」が復活する、と予想した。ここ数年、ようやくその予想が現実化している。

 

JR九州が10月に運行開始した豪華寝台列車「ななつ星in九州」は、その代表だ。高級感ある内外装にこだわり、3泊4日または1泊2日の日程で九州を回る。旅行代金は1人15万~55万円だが、60代を中心に来年6月出発分まですでに予約が埋まっているとのことだ。

 

しかし、「ななつ星」は多くの注目を浴びているものの、定員わずか30人と規模が小さい。しかも、料金もかなり高めであり、リピート客がつきにくく、収益性の面でもあまり期待できない。

 

一方、こうした「ゴージャス車両」をけん引してきたのは、むしろ私鉄だった。今年の3月、近畿日本鉄道が導入した観光特急「しまかぜ」、もっと昔からあるものでは小田急電鉄の「ロマンスカー」、東武鉄道の「スペーシア」などがその例だ。ところが、これらの私鉄車両は、「しまかぜ」を除くと開発時期が古いため、サービスの質がやや時代遅れになっている。

 

今後は「ななつ星」のようなハイエンドレベルと現状の私鉄レベルとの「中間レベルのゴージャス車両」が受けるだろう。そのモデルは、ヨーロッパ大陸を横断するIC特急のダイニング車両にある。風光明媚な景色を楽しみながら、通過する国ごとに異なる美味しいワインと食事を食べられ、会話を楽しめる。

 

列車とは単なる移動手段ではなく、移動のプロセスを楽しませてくれる究極のコト消費商品なのだ。

 

通勤定期の代わりに「シニア定期」を導入する

 

人数の多い団塊世代の退職が進むと通勤客が減る。また、退職者は現役サラリーマンに比べ旅行の頻度が多くなるとはいえ、毎日行くわけではない。一方、退職すると郊外から都心に出かける頻度が一般には少なくなる。その理由は交通費がばかにならないからだ。

 

現役時代は会社支給の通勤定期があったので、通勤以外でも自腹を切らずに外出できた。だが、退職するとそうはいかない。千葉や神奈川、埼玉から都心に出て来るのに意外に交通費がかかるため、その支出を嫌って都心に来る頻度が少なくなる。

 

一方、JR東日本は「大人の休日倶楽部」で会員制の中高年向け運賃割引を実施しているが、片道201キロ以上でないと割引の対象にならない。

 

こうした状況を考慮すると、通勤定期ほど割り引く必要はないが、もっと近距離でも通常の切符より安く乗れる「シニア定期」のようなサービスに市場性がある。もちろん、会費制で良い。ある程度使えば、元が取れると思えば、多少高めでも年会費は払う傾向が強い。

 

川越の小江戸巡回バス駅と駅の狭間のシニア住民の“足”を提供する

 

どの鉄道会社もグループに百貨店やスーパーを持っているが住民の高齢化に伴い、こうした店舗への来店客が減っている。いろいろな理由で外出頻度が下がっているからだ。

 

しかし、鉄道会社グループは、こうした外出困難な人に対する生活支援サービスがまだ手薄で食事宅配業者やネットスーパーなどに徐々に客を取られつつある。したがって、鉄道会社グループもこうした宅配やネットショップに注力するべきだ。

 

そのうえで、こうした競合他社が真似しづらいのは、ずばり「交通手段の提供」だ。宅配サービスは便利だが、高齢者には自分の足で買い物に行き、自分の目で確かめて買い物したい人は案外多い。しかし、以前は徒歩15分の買い物に行けた人も、加齢で足腰が弱ると、徒歩10分でも荷物を持つとしんどくなる。

 

こうした人たちのために、駅と駅の狭間の住宅地に巡回バスを走らせるのはどうだろうか。鉄道会社はバスを豊富に持っているからだ。とはいえ、それなりの費用のかかるバスの巡回を効率化するには、運行時間帯を食事の買い物が必要な時に絞る、ネットや携帯で利用を申し込んでもらうなどの工夫が有効だ。

 

参考文献:シニアシフトの衝撃

 

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