拡大するシニア市場をビジネスチャンスに変える秘訣

中部経済連合会会報2月号(13125日広島市での講演録 

中国経済連合会_会報2014年2月号_表紙■加速化が止まらないシニアシフトの流れ

 

日本の人口は減少傾向にあるが、高齢者は増え続けている。紙おむつ市場では大人用が赤ちゃん用を逆転、リカちゃん人形におばあちゃんが登場、コンビニでは50歳以上が顧客の30%に到達している。これらの動きを、私はシニアシフトと呼んでいる。

 

これには2つの意味がある。1つは、年齢構成が若者から高齢者へシフトする「人口動態のシニアシフト」。もう1つは、企業がターゲット顧客を若者から高齢者へシフトする「企業活動のシニアシフト」である。

 

これまで前者が粛々と進行していたにも関わらず、後者は一部の企業と業種を除き、取り組みが遅れ気味だった。しかし、ようやく企業がシニア層の取り込みを本気で考えはじめている。

 

■市場の見方を誤るな

 

世間にはシニア市場に関する俗説がはびこり、それが誤解を増大させ、市場参入の妨げになっている。そこで、シニア層についての6つの俗説とその正しい見方を解説する。

 

俗説1:他の年齢層よりお金持ちである

→他の年齢層より資産は多いが、所得は少ない

世帯主が60代以上の正味金融資産(貯蓄-負債)の平均値は2,000万円以上であるが、年間所得は50代をピークに減少し、65歳以上の高齢者世帯では、約8割が400万円以下となっている。

 

俗説2:資産持ちなので日常消費も多い

→日常消費は、資産ではなく、所得にほぼ比例

 

年代別の消費支出は、年間所得の推移とほぼ比例している。従って、年間所得が少ないシニアの普段の生活は実は控え目なのである。

 

俗説3:消費の仕方が皆同じ

→年代が変われば消費の仕方は異なる

年齢層が上がるにつれ、消費支出は下がっていくが、その中で費目によって増減がみられる。消費額が減少するものは教育費、被服・履物、食費、教養・娯楽費などである(食費、教養・娯楽費の額は減少するが、支出に占める割合は上昇)。一方で保健医療費は増加する。

 

中国経済連合会_会報2014年2月号俗説4:シニア層の消費は年齢で決まる

→シニア層の消費はシニア層特有の変化で決まる

 

消費は何かが変化することで促される。シニア層の消費行動はシニア層特有の変化で決まる。

 

3つ例をあげて説明すると、1つ目は、身体の変化。女性は50代になると肌の衰えを最も気にするようになる。さらに60代になると関節痛が出てくる。美容や体型維持のため、現役で忙しい50代ではサプリメントの摂取を、時間的に余裕ができる60代では運動をする傾向がある。このように身体の変化によって、消費行動にも差が出てくるのである。

 

2つ目は、本人のライフステージの変化。典型的なものが退職で、「夫婦で旅行」「リフォーム」「投資」など、退職金により高額商品が消費されやすい。

 

3つ目は、家族のライフステージの変化。夫は退職後、引きこもり傾向となることから、妻は夫の世話に時間をとられる。そこで、料理を代行するニーズが生まれる。スーパーやコンビニでは外食と内食の中間である中食マーケットに相当注力している。

 

俗説5:人数の多いシニア市場は、マス・マーケット

→シニア市場は、人数は多いが、新しい価値観で括られる多様なミクロ市場の集合体

シニア層は個々で価値観が異なり、消費行動も多様である。このため、シニア市場は人数が多いが、ビッグヒットの出づらく、マスセールスが難しい市場なのである。

 

俗説6:シニア市場は退職男性の市場

→シニア市場は女性主導の市場

 

団塊世代より上は、女性の数が圧倒的に多い。このため、女性が何を求めているかをよく理解することが必要だ。また、男性は女性の動きに引かれて消費する傾向もある。従って、会社の企画会議などには女性の存在が不可欠となる。

 

■消費者の変化を見誤るな

 

年齢層別のネット利用率の推移をみると、2001年以降で50代以上の増加率が大きく、2012年には利用率が約85%に達している。これに伴い、シニアの消費行動が劇的に変化した。

 

例えば、老人ホームの説明会では、これまでのようにその場で入居希望せず、ネットで他と十分に比較検討する。家電量販店では話を聞くだけで、購入は帰宅後にネットで行う。このように情報武装し、情報収集したうえで消費する「スマートシニア」が増えたことで、シニア市場は買い手市場になった。従来の売り手の論理が通用しなくなったのである。

 

■身近な「不」に目を向けよ

 

シニアビジネスの基本は、不安、不満、不便といった「不」の解消にある。

 

(健康不安の解消)

例えば、「健康不安」。これを解消する際にポイントとなるのが、楽しく、気軽にできることである。私が9年前に日本に持ち込んだ女性専用フィットネスクラブ「カーブス」を紹介すると、人気が出た理由は、住宅地と商店街の間で通いやすく、30分間で全部でき、月額5,900円と比較的安いこと。

 

また、特に中高年女性にとっては、スリー・ノーMといって、①NO MEN:男性がいない、②NO MAKE-UP:メイク不要、③NO MIRROR:鏡がなく自分の姿を気にせず集中できるといった続けやすい特徴がある。

 

運営面では、空中店舗も可能で、安い賃料で出店しやすく、確実な投資回収が可能となる。また、温浴施設やシャワーなど、成果に不要なものは排除している。飲食スペースもない。これがあると、溜まり場になって派閥ができやすく、新しい人が来づらくなる。

 

会員は8割が40歳以上の女性と、中高年が中心。中高年は一度気に入るとなかなか辞めないため、この層を押さえると安定的なビジネスになる。

 

導入当時、フィットネスクラブは、運動好きというイメージから利用者が限定され、市場は飽和したと言われていた。ところが、カーブスは中高年女性の既存のフィットネスクラブに対する不満をことごとく解消していったことで、全く新しい市場をつくったのである。

 

(不満・不便の解消)

「不満・不便」の解消について、私が携わったNTTドコモ「らくらくホン」シリーズを紹介する。それまでの携帯は機能重視でボタンも小さく、若者向けであった。ここに、高齢者にとって「不満・不便」が発生していた。そこで、シニアが求める機能を盛り込み操作不便を解消するとともに、シニアの多様なニーズに対応した新機種を加えていくことで、「らくらくホン」シリーズは大ヒットとなった。

 

(孤独不安の解消)

2010年の高齢者に占める一人暮らしの割合は、女性18.9%、男性10.4%となっている。そして、東京の夜間相談電話には、家族と同居している高齢者からも「孤独・寂しい」といった声が寄せられる。

 

このように多くの高齢者は「孤独不安」を抱えている。それを解消すべく、産業技術総合研究所が開発したのが癒しロボット「パロ」である。えさ代がほとんど不要、何処でも連れて行ける、故障はするが死なないなど、ロボットとペットの良い所を上手に組み合わせている。秀逸なのは、ロボットだがロボットらしくなく、技術の力で愛嬌を表現した所であり、これが成功の秘訣となっている。

 

(今後有望なシニア市場)

今後有望なシニア市場は、ユーザー側が変化しているにも関わらず、旧態依然として「不」が多い市場である。例えば、補聴器、TVHDDレコーダーのリモコン、携帯電話のマニュアル、ポイントカードなど、身の回りには不便なものが沢山ある。

 

市場の見方についても、市場が飽和しているのではなく、市場を先入観で見ている我々の頭の中が飽和しているだけである。また、飽和市場があっても、その周辺には必ず新たな「不」が出現する。買い手目線で、身近なところの「不」を発見することが、ビジネスチャンスの第一歩となる。

 

日本企業、特に製造業は高い技術力と品質管理力といった強みを持つ一方、技術を過信し市場を良く見ていない傾向がある。今後のシニア市場を開拓していくには、買い手目線をもつ異業種企業とのアライアンスや、シニア市場の中心である女性の参加などによって、商品開発・マーケティングを強化していくことが必要である。

 

■「3つのE」を商品に組み込め

 

シニアは、ストックは多いが、それが消費に回りにくい。これを促すためのカギは、脳を中心とした身体の変化にある。

 

45歳頃からの心理的発達段階には、「再評価段階」「解放段階」「まとめ段階」「アンコール段階」の4つの段階があると言われている。そのうち5070代前半は「解放段階」にある。

 

脳の変化とライフステージの変化が相互影響し、この年代では自己解放をしたくなる衝動が出やすくなる。それが消費のきっかけになる。私はそれを解放型消費と呼んでおり、そのトリガーとなるのが3つのEである。

 

1.Excited(わくわくする)

海外に1ヶ月滞在しながら英語を学ぶ「ボストン・ワンマンス・ステイ」やJR九州「寝台特急ななつ星」などへ、高額にもかかわらず高齢者が申し込んでいる。これは、歳をとっても「わくわくしたい」という人達がそれなりにいることを意味する。こうしたシニア層の心理的なわくわく感を後押しすることが消費に結びつくのである。

 

2.Engaged(当事者になる)

シニアを主な会員とする旅行会社のクラブツーリズムは、顧客参加型の活動を行っている。月刊誌「旅の友」を顧客がエコースタッフとして配布している。会員に配る際に、記事を話題に会話を楽しんだり、得た収入でまた旅行に参加したりと、顧客が当事者として楽しみ、満足もしている。このように顧客が事業に関与することで、当事者意識が高まるとともに、収入を得ることで消費も促されているのである。

 

3.Encouraged(元気になる)。

前述のカーブスに3ヶ月通うとほとんどの場合、痩せて元気になる。そうすると、新しい洋服を買ったり、旅行をしたりと新たな消費が生まれる。また、医療・介護コストも下がる。このように元気になることが経済の活性化にも貢献する。

 

シニアの解放型消費を促していくためには、これら3つのEを、商品やサービスに組み込むことを考えていくことが必要である。

 

2025年、シニアの消費行動はどうなるか

 

2025年には団塊世代の最年少者が75歳を超え、要支援・要介護者の割合が急上昇する。一方で、7582歳のネット利用率は50%を超える。寝たきりでも、頭が働き指も動けばネットでモノを購入できるので、2025年には通販の役割が飛躍的に高まるであろう。よって企業も、店舗だけでなく通販がなければ存続は難しい。また、要介護状態になりたくないと思う人も増えるため、予防市場の拡大も予想される。

 

■これから世界中で起こるシニアシフト

 

これから、シニアシフトは世界中に拡大していく。日本は世界一の超高齢社会であるが。アジアでは、香港、韓国、シンガポール、台湾が続いている。香港の高齢者施設では、大半が大部屋でプライバシーがほとんどないなど、高齢化への対応は遅れており、日本の対応を学ぶニーズは高まっている。

 

日本は高齢化が早いだけに、それに伴う課題やその解決に向けたビジネスチャンスの顕在化も早い。このため、日本はシニアビジネスの分野で世界のリーダーになれる可能性がある。

新興国において、今は子ども向けの商品を販売し、そのうち高齢化が進めば、日本のシニア市場で育んできた大人向けの商品を販売していくのである。

 

シニアビジネスは日本だけのビジネスではない、グローバル規模で顧客のライフサイクルにわたるビジネスになる。

 

 

参考文献:シニアシフトの衝撃

 

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