変化するシニアマーケット

JADMA NEWS 20144月号 特集

 

JADMA NEWS_2014年4月号_7-1今や多くの通販会社がメインターゲットととらえるシニア。数年前からはいわゆる団塊世代までもこの名で呼ばれるようになり、通販業界にとどまらず日本社会全体でシニアが非常に重要な意味をもつようになってきている。

 

だが、その一方で「シニア」という言葉だけが先走っている印象も拭えない。そもそも「シニア」と呼ばれる人たちはどのような消費行動をとるのか。そして、これからどのように変化していくのか。このような問いに即座に答えられる通販会社も少ないだろう。

 

そこで今回はシニアビジネス分野・高齢社会研究の第一人者であり、村田アソシエイツ代表・村田裕之氏に登場していただく。年齢で区分けされた時代からシニアマーケットは多様化しており、さらに2025年には状況を一変させるような大きな変化を迎えるという村田氏に、通販とシニアの未来について語ってもらった。

 

「シニアマーケット」とは何か

 

シニアの消費行動は年齢ではなく、身のまわりの「変化」で決まる

 

――村田さんは「シニアマーケット」というものを年齢だけで区分けしてはいけないということをよくお話しされていますが、まずはそのあたりの理由から伺わせていただけますか?

 

村田 多くの企業では「シニア」を60歳前後と想定しているようですが、そもそも「シニア」という言葉に年齢の定義はありません。「シニアマスターズ」なんて使い方のように単に「年長者」という意味があるだけです。にも関わらず、年齢で区切ろうとするのは、これまでそのようなスタイルで商売ができたからなのです。

存知のように、小売業は54歳から19歳までを「ファミリー層」として、ここに当てはまらない層は「子ども」と「シニア」としてきました。かつてダイエーの看板に「主婦の店」とあったように、主婦とそこについてくる子どもだけをターゲットにしていれば良かったという時代が長かった。某大手スーパーなどがシニアを55歳以上と見ているのは、その名残でしょうね。

 

ただ、時代は変わりました。人口の年齢構成や企業の顧客の年齢構成が、高齢者中心へ移行するという、いわゆる「シニアシフト」が起きたことで、単純な「年齢」での区分けに意味がなくなってしまったのです。これには様々な理由がありますが、最も大きな理由は、60歳以上の消費行動が「年齢」ではなく、身のまわりで起きる様々な「変化」によって決まってくるからです。

 

JADMA NEWS_2014年4月号_7-3――その「変化」というのは、具体的には何でしょうか?

 

村田 主なものは5つあります。1つ目は「加齢による肉体の変化」。老眼や白髪、耳が遠くなりますので当然、関連商品の消費が始まります。女性ならボディラインも変わってくるので、ヒップアップやバストアップの商品も売れていく。

 

2つ目は「本人のライフステージの変化」。例えば、定年退職された方の半分くらいが半年以内に旅行に出かけるというデータがあります。この背景には今まで長期の休みがとれなかったことや、長い勤続をねぎらうご褒美の意味もある。つまり、「定年」というライフステージの変化が消費に結びついているわけです。

 

これと同じく、3つ目が「家族のライフステージの変化」。代表的なのが「親の介護」でしょう。私も経験がありますが、これには本当に大変な苦労がありますが、ビジネス面から見ると、食事の宅配など新たな消費に結びつく。もちろん、子どもの進学や就職、結婚も大きな変化といえるでしょう。

 

――孫ができたら、何でも買ってあげたくなる、という方は多いですものね。

 

村田 ええ。そして4つ目が、「本人の嗜好性の変化」です。これには、本人特有のものと世代特有のものがあって、後者は20歳ぐらいまでの文化体験、私は「世代原体験」と呼んでいますが、これを引きずることが多い。

 

例えば、団塊世代は総じてアメリカ文化。貧しいなかで見たジーンズやビートルズなどは眩しかったので、今も当時の音楽を聴いている方は多い。昭和30年代が舞台の映画『ALWAYS三丁目の夕日』がヒットしたのも、団塊世代の「世代原体験」をくすぐったからと言えるかもしれません。

 

そして、最後の5つ目は「時代性の変化」。つまり、流行ですね。例えば数年前、中高年女性の海外旅行先といえば韓国でしたが、今はそれほどでもありません。このような時代性の変化には、やはり女性が敏感ですね。

 

通販の役割が大きく変わる「2025年問題」とは

 

ネット普及率8割の団塊世代が高齢者になった時に何が起きる?

 

――「シニアはお金を持っていて購買力がある」というような一般的なイメージも誤りなのでしょうか?

 

村田 資産は持っていますが、所得が少ない。これをストックリッチのフロープアーと呼びます。これは数値を見れば明らかで、平均値では70代の資産は世帯当たり2200万円、60代で2100万円。50代で約1100万円と続きますが、所得で見ると、50代がトップで、40代、30代、60代、70代という順になる。

 

つまり、いざという時のお金は準備していますが、日々の買い物には倹約気味ということです。シニアをターゲットにするという方向性自体は誤りではありませんが、若者が買い物をしないので、シニアなら買ってくれるだろうというような安易な考えだと失敗してしまうでしょうね。

 

JADMA NEWS_2014年4月号_7-7――年齢だけで判断をしてはいけないというと、「シニア=ネットをやらない」のような見方も既に誤っているわけですね。

 

村田 ネットの普及率というのは年齢ではなく「時代の関数」です。1999年、東名阪で50歳以上のネット利用率を調べましたが、その時はわずか3%。それが15年を経て現在どうなっているかといえば、6669歳でも40%、65歳以下に至ってはその上の年齢層に比べて2倍以上はね上がって何と85%くらいになっています。もちろん、その下になれば9割を超えます。つまり、概ね団塊世代を境にネットの利用率がまったく変わってくるのです。

 

これから、この世代がどんどん歳を重ねて70代、80代になっていくわけですから爆発的にネット普及率が上がっていく。そういう意味では、シニアマーケットというものを考える時、「2025年」というのが非常に大きな節目になると考えています。なぜかといえば、ネット利用率の高い今の65歳が75歳を超える。つまり、「後期高齢者」になります。この呼び方はあまり評判が良くありませんが、医学的には根拠があって、75歳を過ぎると要介護率や、医者にかかる率が上がってくる。

 

――ネットを利用するシニアが介護を受け始めるのが2025年ということですね。

 

村田 そういうことです。仮に寝たきりになったとしても認知症でなくて手が使えて、自分の頭で判断できれば、みなさん寝ながら、タブレットで「今日の昼御飯はこれにしよう」とか「この服が欲しい」とか通販を利用する方が爆発的に増える。

 

例えば今、83歳の要介護率は40%ぐらい。それより上の年齢はもっと多いわけですから、この年代になるとだいたい2人に1人は要介護になる。その一方で、2025年の83歳がどれくらいネットを利用しているかといえば、45%くらいになる見込みです。つまり、要介護率とネットの利用率がほぼ同じくらいになるのです。

 

こういう未来が10年ちょっとで現実になります。通販の役割が飛躍的に高まるのはもはや間違いありません。つい最近もセブン&アイが通販会社を買いましたが、あれは明らかにこのような現実を見据えているからでしょうね。

 

JADMA NEWS_2014年4月号_7-5「賢いシニア」に合わせた情報の出し方が求められる

 

村田 このような2025年問題に加えて、通販の役割、位置付けが飛躍的に高まる理由がさらにもうひとつあります。それは「予防市場」の拡大です。先ほどもふれましたが今、親の介護などで苦労されている方は非常に多い。そのため、同じような苦労を子どもにかけたくない、自分は家族に迷惑をかけたくないという考えをもつ人の割合がものすごく増えているのです。

 

要介護状態にならないためには、健康であり続けるしかない。つまり、厚生労働省が最近よく言っている「健康寿命」というものです。女性の平均寿命はだいたい87歳、男性は79歳ですが、健康寿命だと女性が74歳、男性が70歳。つまり、誰かの世話にならなくてはいけない時間が女性で13年、男性で9年もあるということです。この時間をいかに短くするか、つまり健康寿命を延ばすことを多くの人たちが望んでいるし、国としても課題になっているわけですね。

 

そこで病気に向かいつつある状態、「未病」をいかに防ぐかという未病管理、未病予防のマーケット、商品サービスがもっと増えていくことが予想されます。ただ、だからといって、健康食品を売れば飛びつくかといえばそんな単純なものでもありません。シニアの多くは目が肥えてきていますから、怪しいのはだんだん淘汰されていきます。15年前、私はシニアの消費者も賢くなっていくということで、「スマートシニア」が増えると提唱しましたが、現実に、様々なこだわりをもった賢いシニアは増えています。客が賢くなったのだから、売る側はもっと賢くならないといけません。

 

――そのような「スマートシニア」に対して、通販はどのような訴求をしていけば良いのでしょう?

 

村田 例えば、要介護になる原因としてトップに挙げられるのは脳血管性障害、つまり脳卒中、脳梗塞、くも膜下出血。2番目が認知症となっていますが、こちらも3分の1は血管性ですよね。そして3番目が廃用性症候群や関節障害。これは仮設住宅などでも問題になっていますが、お年寄りが筋肉を使わないと動かなくなってしまうものや、膝や腰の問題ですね。

 

このようなデータをふまえれば、要介護の70%以上が脳と関節系に原因があることがわかる。こうなれば賢いシニアは、脳を使う運動習慣と体を使う運動習慣をやっておけば、ある程度は防くことができそうだと考えるわけですよね。

 

このような顧客の意識の奥底へスーッと入るような訴求の仕方が必要ですね。その好例が、サントリーの「オメガ脂肪酸」でしょう。このような「スマートシニア」に合わせた商品ラインナップ、情報の出し方、コミュニケーションの仕方というのはもっと求められていく。これからの通販はいわば、「スマート通販」にならないといけないでしょうね。

 

賢いシニアへ向けた「スマート通販」へ

 

「押しつけ」ではなく「共に感じる」ことが重要

 

――「スマート通販」を目指すにあたって、まず我々が気をつけなくてはいけないことは何でしょう?

 

村田 まず大事なのは、「押しつけない」ということです。「シニア向け」とうたった商品、サービスはほぼ例外なく失敗しています。テレビなどで「シニア向け」として大きく取り上げられる商品やサービスも実はそれほど売れていないという現実がある。

 

私はこれまで多くのシニアビジネスに関わってきましたが、その際、「シニア向け」などとうたったことは一度もありません。「シニア向け」とレッテルを貼る必要もありませんし、むしろやってはいけない。「シニア」の言葉を使ってよいのは「シニア割引」のように、お客さんが得をする場合だけ。

 

それを企業側もわかってきたので、最近は「50代」「ハリ」「ツヤ」などシニアが気になるキーワードだけを並べて、繰り返し訴求する方法などをとっています。「50代過ぎると、ハリが気になりますよね、ツヤもほしいですよね」という呼びかけで懐に入るやり方ですね。もちろん、あれがベストかどうかはわかりませんが、「シニア向け」を押し付けるよりは間違いなくいい。

 

結局、いかに共感するか、共に感じるかということですね。共感というのは、させるものではなく、自らするものです。シニアに感動してもらおう、シニアに共感してもらおう、という考えをもった瞬間に商品やサービスというものは絶対に売れなくなります。

 

――シニアと共感するためには何をすべきでしょう?

 

村田 少し年齢が高めの方にコールセンターのスタッフをやってもらうとか、そういうのは大事ですね。通販会社のみなさんには釈迦に説法でしょうが、コールセンターの役割は今後、飛躍的に高まっていく。どんなにネットが発達しても、高齢者というのはやはり生身の人間にいろいろ聞きたいものですからね。ですから、今後はコールセンターのスキルが高いが低いかで受注具合が変わってくると思いますね。

 

コールセンターを単なるクレーム処理のコストだととらえている経営者がいるとしたら、それは非常に残念なことです。そこにかかってくる電話こそ実は次の商品のチャンスがいっぱいつまっている。コールセンターは商品開発機能でもあるし、マーケティング機能でもあるわけです。

 

実際、シニア向けでいくつものヒットを生み出している某有名通販のコールセンターは、入会申し込みなどの事務的なものはアウトソースし、客からのクレームや相談は内部の専門スタッフが受けるようにしています。

 

JADMA NEWS_2014年4月号_表紙シニアマーケットにおける通販のポテンシャルは高い

 

――通販にもいろいろな形態がありますが、シニアマーケットの変化に合わせて、それぞれどのような変化が期待されますか? 例えば、カタログ通販の場合、シニアはネットを利用してもやはり紙のカタログの方が安心するのではという意見もあります。

 

村田 それはありますね。パルシステムなどもやはりメインは紙です。実際、紙の方が見やすいということが大きい。ただ、これは先ほどもお話ししたように、ネット普及率が「時間の関数」ということで言えば、必ずどこかの段階で紙とネットの逆転現象が起きる。

 

要は、どちらが好きという話ではなく、どちらの利便性が高いかということで決まってきます。そのような時間軸を見ながら、今年はネットと紙の配分をこうしようとかポートフォリオを考えていくということになっていくのではないでしょうか。

 

――テレビ通販やネット通販はいかがでしょう?

 

村田 テレビ通販は、情報の出し方や表現が最も強力です。シニアでも多くの方が利用している。ただ、メディアとしての構造があまりインタラクティブでない。これからの時代の変化を考えると、そろそろ一方通行ではいけないという気もしています。

 

例えば、LINEなどのテレビ電話機能をうまく使えば、田舎にいるおばあちゃんと都会の孫と、通販会社の3人が話をしながらショッピングをするという未来だってあるかもしれません。テレビ通販がアウトバウンドとすると、対照的にインバウンドといえるのがネット通販でしょうね。

 

自分で検索し、自分で通販会社を探して飛び込んでくる。つまり、「欲しい」という目的意識があるわけですね。いきなり電話がかかってきて「買ってください」と売りつけられるのは非常に鬱陶しいけれど、自分も欲しくてその時に適切な情報があればいい。

 

例えば、グーグルでも検索すると、画面の右側に関連するインタラクティブ広告が出ます。これはちょっと押し付けがましいけれど、まだ許せる。何か探している時などは助かる場合もありますから、意味のないバナー広告などよりも優れているわけです。

 

Amazonの購入者の好みを自動的におすすめする「レコメンド機能」なども然りです。鬱陶しい場合もありますが、確かに本やCDを探している場合は「おっ、こんなのもあるんだ」と参考になる。このような自動マーケティング機能は発展途上ですが、ネット通販の今後はこのようにいかに押しつけがましくなく、インバウンドへ来てもらうかということがポイントになっていくのではないでしょうか。どちらにせよ、通販のポテンシャルは非常に大きいと思います。メディアを扱って、顧客とのコミュニケーションができる仕組みがあって、そのうえでユーザーが加速度的に増えていくわけですから、社会的責任も増していくでしょうね。

 

――本日はありがとうございました。

 

村田 こちらこそありがとうございました。

 

 

JADMAのサイト(本インタビュー掲載誌がPDFで入手できます)

 

シニアシフトの衝撃

 

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