スマートシニア・ビジネスレビュー 2009年4月10日 Vol.128

irodori株式会社いろどりといえば

「葉っぱビジネス」ですっかり有名になった。

 

いろどりのある徳島県上勝町は人口2,119人、高齢化率46.7%の高齢過疎地。

 

だが、平均年齢70歳以上のおばあちゃんが

「葉っぱビジネス」のおかげで

多い人では年商1000万円を稼ぎ出す。

 私もこの事業を知った6年前から

拙著「団塊・シニアビジネス 7つの発想転換」や

講演などで何度も紹介してきた。

 

この事業の立役者、株式会社いろどりの横石知二副社長が

最近、「生涯現役社会のつくり方」(ソフトバンク新書)という

著書でそのノウハウを公開しており、大変面白い。

 特に興味を惹かれたのは

「高齢者には共同作業より個人作業」というくだりだ。

 

横石氏は「いまの高齢者福祉ではお年寄りに対して

共同的な発想を持っているが、そうではなく、

もっと『個』に目を向けることがポイントだ」という。

 

なぜ、「個」を重視することにしたかというと、

上勝町のお年寄りたちと長年一緒に仕事をしてきた経験から、高齢者には共同でやる作業が意外に向かないことが

分かったから、という。

 

「たとえば、公園の花壇を整備する場合、共同作業で一緒に

やるよりは、Aさんはここ、Bさんはそこ、Cさんはあちらという

ように、作業範囲を一人ひとりで決めておこなったほうが成果が上がります」(横石知二「生涯現役社会のつくり方」より)

 

高齢者には共同作業より個人作業が適している理由として、

横石氏は、高齢者の「自意識の強さ」を挙げる。

しかも、これが都会に比べて田舎の方が強くなるという。

 

たとえば、田舎の農家では、100万円、200万円かかっても

田植え機を一軒一軒、みんな個人で買う。

共同で購入して田植えをするようなことはしない。

貸し借りすることも少ない。

非常に不採算に見えても、そうするという。

 

それは「負けん気」だったり「見栄」だったり、

隣が買ったからうちも買うという

子供のような意地の張り合いだという。

 

横石氏は、こうした田舎の高齢者の特徴を踏まえ、

一人ひとりの農家を「個」を中心とする「個人事業者」とし、

複数の個人事業者の能力をひきだす

「プロデューサー役」として株式会社いろどりを位置づけた。

これが見事にハマったのだ。

 

私はこの考え方を次の二つの理由で極めて妥当に思う。

 

ひとつは、上勝町のような田舎には

もともと「みかん農家」が多かったこと。

 

農家はサラリーマンとは異なり、元来自営業であり、

家族を中心とした「個人事業」としての意識が強い。

だから、葉っぱの生産を主体にした個人事業に切り替えても

違和感なく馴染むことができたのだと思う。

 

もうひとつは、アメリカなどで増えている年配者の

独立自営業「ナノコーポ」の増加の動きと似ていること。

 

この動きは、歳をとるにつれ、上司などの指示に従うより、

自分の意思で自分の好きなように活動したくなる

人間の性質を示している。

 

だから、もっと稼ぎたい人は、他の農家よりも多く働き、

さまざまな工夫を凝らす。

一方、それほど稼がなくてもよい人は、

健康維持のためにほどほど働く。

 

こうした自由裁量権が自分にあることが

一般に歳をとるほど心地よくなるのだ。

 

人がいきいきとした後半生を過ごすのに

何が本当の支援になるのか。

 

いろどり事業は、このことを深く考えさせてくれる。

 

 

 

参考情報

 

株式会社いろどり

 

横石知二「生涯現役社会のつくり方」(ソフトバンク新書)

 

団塊・シニアビジネス 7つの発想転換

 

〈ナノコーポ〉という新しいワークスタイルの台頭