昔からあるが旧態依然として「不」が多い市場を狙う

不動産経済 連載シニアシフトの衝撃 第6回

image高額でも満足できない商品は狙い目

 

有望なシニア市場の例のひとつは、需要側が変化しているのに、供給側が旧態依然としていて利用者の「不」が多い市場である。この市場の代表が補聴器市場だ。

 

補聴器はドイツやデンマークなどからの輸入品が多く、今でも一台35万~50万円という高価格で売られている。にもかかわらず、「雑音が多い」「耳に閉塞感を感じる」「フィッティング感が悪い」「頭痛がする」などの理由から、使用をやめてしまう人が結構多い。

 

こうした体験を経て一度使用をやめた人は、まず二度と補聴器を買わない。一台50万円もしたのに役に立たなかったというネガティブ体験がそうさせるのだ。売る側からすれば、売れてしまえば目標達成なのだが、これではまるで焼畑農業。こうしたことを続けていくと、ブランドイメージの失墜に繋がりかねない。

 

一方、国産メーカーから一台数万円程度の安価なものも出ているが、それほどよく売れていない。「聴く」という人間の生存に直結する機能を補う商品では、値段の安さは購買決定要因ではない。違和感なくフィットし、あたかも自分自身の器官のように機能してくれるものであれば、多少高くても売れる。

 

補聴器という商品の最大の問題点は、しばらく使ってみないと本当に自分にフィットしたものであるかがわからないことだ。そのためにはまず購入しないといけないのだが、それにしては高価過ぎる。百歩譲って高価でも絶対満足できるものであればよいが、そうとは限らないのがこの商品の遅れているところだ。

 

image使い勝手の悪いリモコンは莫大な潜在市場

 

供給側が旧態依然として利用者に不満がある他の例として、家電製品についてくるリモコンがある。どのリモコンもボタンの数が大変多く、配列がまちまち。しかも、ボタンのサイズも文字も小さくて、老眼気味の人には操作しづらいものがたくさんある。

 

地上デジタルテレビひとつを取っても、付属のリモコンはメーカーごとに仕様が異なる。また、同じメーカーであっても、製品ごとにリモコンが異なることもしばしばだ。恐らく一つの家の中ですら、かなりの数のリモコンがあるだろうから、シニアにとってはこれらの整理だけでも大変だ。ましてや機能をしっかり理解し、使いこなせるようになるのはもっと大変だろう。

 

家電製品のリモコンの数は莫大だ。したがって、業界の統一規格を作り、どれを使っても共通に、誰もが簡単に使えるリモコンがあれば、シニア利用者の満足度は大きくなるはず。日本企業の競争力も上がるだろう。

 

先進的な製品の陰で放置される見づらいマニュアル

 

シニア向けの商品開発で、私が関わったものにNTTドコモの携帯電話「らくらくホン」がある。これはシニアにやさしく、使いやすい製品という設計思想でつくられている。

 

ところが、残念なことに、そのマニュアルのなかには「らくらく」とは言い難いものもあった。サイズが小さく、分厚く、字が小さい。使い方を調べようと思っても、説明箇所に行き当たるのが困難だ。製品は「らくらく」なのに、マニュアルは頭が「クラクラ」する代物だったのだ。

 

こうしたことが起こる最大の原因は、製品づくりの役割が細かく分担され、全体をプロデュースする機能が弱いことだ。製品づくりとマニュアルづくりとを統一してマネジメントしていないため、このようなちぐはぐなことが起きてしまうのだ。別の言い方をすれば、真の意味でユーザーの立場でモノづくりをしていないということだ。

 

これと対照的な製品がiPhoneだ。マニュアルは数枚で、必要最小限の説明があるのみだ。しかし、製品を使ってみるとその理由がよくわかる。

 

マニュアルを読まなくても、実に簡単にいろいろな機能を使えるように設計されている。iPhoneを含むアップル製品は、すべてこうした思想で設計されている。アップル製品が多くの人に支持される理由はここにある。

 

ちなみに、シニアが使うタブレットのほとんどがアップルのiPadである。理由は、使い方がわかりやすいためだ。アンドロイドOSのタブレットは、価格は安いがメーカーによってボタンの位置や操作方法が微妙に異なり、シニアには使いにくいのだ。

 


忘れ去られた固定電話は潜在ヒット商品

 

携帯電話やスマホはどんどん機能を増やして進化しているが、その反面、固定電話機は進化がほとんど止まっている。携帯電話優位の時代で、もはや固定電話の成長が見込めないと思われているため、メーカーも固定電話の開発・改良には金も力も注がないのだろう。

 

しかし、シニア層にはまだまだ固定電話派が多いことを忘れてはいけない。たとえば、携帯電話やスマホでは当たり前の電話帳を簡単に変換できる機能や「らくらくホン」では当たり前の「はっきりボイス」などの機能が全くない。

 

すでに存在する使いやすい機能を盛り込むだけで、容易に高付加価値化が図れ、ヒットは間違いなしだと思うのだが、こんな簡単そうなことが意外に実現していない。

 

 

参考文献:成功するシニアビジネスの教科書

 

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