シニア層の消費は「年齢」ではなく「変化」で決まる

スマートシニア・ビジネスレビュー 2014716 Vol.205

 

 

imageシニア市場をどう攻略するか、という議論が企業においてなされる時、必ず出るのがシニア市場を年齢によってセグメント分けするやり方です。しかし、この年齢によるセグメント分けには注意が必要です。なぜなら、私たちがモノやサービスを買うのは、何かの状態が変化した時であり、必ずしも年齢が変化した時ではないからです。

 

「加齢による身体の変化」と消費行動

 

私たちの身体は加齢とともに変化し、中高年期には一般に衰えていきます。老眼、体力の衰え、皮膚の衰え、体型の変化、更年期障害、肩やひざの痛みなどを実感すると、対処や予防のための消費が生まれます。

 

このような変化に対応した商品・サービスには、老眼鏡、ルーペ、白髪染め、補聴器、ウォーキングシューズ、トレーニングウエア、補整下着、各種サプリメント(コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、カルシウムなど)、スポーツジムなど、たくさんあります。

しかし、こうした商品・サービスは、誰にでも同程度に必要とされるわけではありません。たとえば、リビングくらしHOW研究所の調査によれば、50歳代、60歳代の女性に「最近、体調や体型の変化で気になることはありませんか」と尋ねると両年代とも「体力の衰え」を一番目に挙げます。ところが、50歳代が肌の衰えや更年期障害を二番目に挙げるのに対して、60歳代は関節の痛みを二番目に挙げます。

 

これに関連して、「美容や体型維持のために定期的にしていることはありますか?」と尋ねると、50歳代では「サプリメント」の服用が目立つのに対して、60歳代ではウォーキングやスポーツジムなどでの運動が目立ちます。

 

50歳代と60歳代の対処策の差は、時間的余裕の有無に起因します。仕事や家事、子育てで忙しい50歳代と、そうした作業から解放された60歳代との違いが消費行動の違いに表れているのです。

 

こうした消費行動の差は、実は年齢ではなく、身体の変化の違いと、この後に触れる「本人のライフステージの変化」によって生じていることに注意しましょう。

 

「本人のライフステージの変化」も消費行動に影響する

 

「本人のライフステージの変化」も消費行動に影響を及ぼします。男性で一番大きいライフステージの変化のひとつは退職です。電通の調査によれば、退職をきっかけとした具体的な行動で一番多いのが「夫婦での旅行」です。

 

これは実は定番商品で、退職したら半分くらいの人が旅行に出かけます。2012のパック旅行費への年間支出を見ると、一番多いのはやはり60歳代です。国内旅行、海外旅行ともに多い。次に多いのが、なんと70歳代です。旅行の場合は、退職後半年以内に、まず退職記念旅行に出かけ、その後も折に触れて何度も出かけるというパターンが多いようです。

 

その次には「散歩・ジョギング・ラジオ体操など」「家のリフォーム」「保険の加入・見直し」「株やファンドの購入」が上位にきます。退職直後の消費の共通点は、健康維持、老後準備、趣味・自分探しのための消費であることです。また、比較的高額商品が多いことも共通点です。

 

フルタイムで仕事をしていた人は、退職して仕事をやめると収入は減りますが、自由時間は大幅に増えます。このため、この増えた自由時間を使うための商品・サービスに目が行くようになります。また、収入が減った分を補填するため、安全かつ有利な投資活動にも興味を持つようになります。

 

ダウンサイジング消費は多くの退職者に起こる

 

先述の調査結果には出ていませんが、退職者によく売れる車は、軽自動車とハイブリッド車です。なぜ、こうした車が売れるのでしょうか?答えはダウンサイジング、つまり、生活支出の規模を小さくするためです。

 

年金生活に入るので毎月の出費はなるべく減らしたい。だから、ガソリン消費の少ない車がいい。子供はもう独立しているからサイズは小さくていい。こういうダウンサイジング消費が退職後3カ月から半年くらいの間に結構見られます。

 

サラリーマンの場合、定年退職する人は60歳から65歳の間に退職する場合が多いです。しかし、中には60歳以前に自主的に早期退職する人もいます。また、勤務先の定年が65歳だとしても、勤務先の業績が傾いたり、本人の業績が今一つだったりで、早期退職を余儀なくされる人もいます。その一方で65歳を過ぎても退職せず会社にとどまる人もいます。今後は後者が増えるでしょう。

 

いずれにせよ、退職年齢が多様化しているため、特定の年齢になったから退職するとは限らないことにも注意してください。つまり、本人のライフステージの変化も年齢だけでなく、本人のいろいろな都合で起きると認識すべきなのです。

 

「家族のライフステージの変化」と消費行動

 

さらに、「家族のライフステージの変化」も消費行動に影響を及ぼします。つまり、家族のライフステージが変わると、本人の消費行動が変わるのです。

 

たとえば、「夫は現役で働いていますか」と50歳代・60歳代の女性に尋ねると、50歳代では73.8%がまだ現役と答えます。ところが60歳代では17.9%が現役、55%が無職と答えます。

 

これに関連して「第二の人生を考える時に、住まいはどのようにしたいですか?」と尋ねると、50歳代は半分強が「今のままでいい」と答える一方、残りの半分弱は「親のそばに引っ越す」「都心のマンションに引っ越す」「リゾートや田舎に引っ越す」などと答えるものの、28.7%が「わからない」と答えます。つまり、「期待と幻想」が半分、そして「わからない」が半分なのです。

 

50歳代では、夫が今後一体どうなるかがまだわからないので、将来について確定しにくいのです。また、両親が要介護状態だとさらに不確定要素が多くなります。

 

ところが60歳代になると、75.3%が「今のままでいい」と答えます。この理由は、多くの場合、夫が退職してその先の予定が見え、両親の世話も一段落しているからです。

 

こうして60歳代の女性では気持ちが吹っ切れて、残り時間を楽しもうという気持ちが強まり、自分の好きなことや旅行などに時間とお金を割くようになります。私はこれを「吹っ切れ消費」と呼んでいます。

 

夫が退職しても妻の自由時間が増えるとは限らない

 

さらに前の設問と同じ母集団に「5年前と比べて自分の時間が増えたと思いますか?」と尋ねると、「減った」と答えた人が、夫がまだ現役の人では18.6%なのに対して、夫がすでに退職している人では31.6%と急増します。つまり、夫が退職しても、必ずしも妻の自由時間が増えるとは限らないのです。

 

そこで「一週間のうち、夫が家にいるのはどの位ですか?」と尋ねると、「ほぼ毎日家にいる」が38.5%、「家にいる方が外出より多い」が25%で、両者の和63.5%が「自宅引きこもり派」であることがわかります。夫は退職後に自宅にいる時間が長くなるため、妻が夫の世話に時間を取られるようなり、自分の時間が減るのです。

 

こうした背景から「お願いだから、お昼だけは外で食べてちょうだい!」と約束する夫婦も多いようです。一方、ビジネス面でこれを見ると、こうした「自宅引きこもり派」の夫が増えることで、たとえば惣菜や弁当などの「中食(なかしょく、外食と内食の間)」市場が、成長市場として浮かび上がってきます。

 

以上でお分かりのように、シニアの消費は「年齢」そのものでは決まりません。むしろシニア特有の「変化」で決まるのです。そのなかでも比較的影響力の大きいのは、①加齢による身体の変化、②本人のライフステージの変化、③家族のライフステージの変化、④世代特有の嗜好性とその変化、⑤時代性の変化、の「5つの変化」です。

 

私も60歳代、70歳代といった年齢に関わることを引用することがありますが、年齢によって消費が決まると言ったことはありません。その年齢の頃に起きやすい変化があり、その変化が消費のトリガーになるのです。

 

したがって、消費行動というのは表向きの現象で、その裏側にどういう変化があるのかをよく理解し、これらをよく見極めて、タイミングよく商品・サービスを提示することがむしろ重要です。

 

 

参考文献:成功するシニアビジネスの教科書

 

 

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