今、企業が取り組むべき超高齢社会への対応

新潟機構インタビュー 新聞・雑誌
新潟機構インタビュー

NICOプレス 201411月号

今、企業が取り組むべき超高齢社会への対応 シニアシフトを見据えて何をすべきか?

公益財団法人にいがた産業創造機構(通称:NICO)が発行する機関誌、NICOプレスにインタビュー記事が掲載されました。

NICOプレスは、ビジネスに役立つタイムリーな特集記事のほか、ユニーク企業やその取り組み、優れた新商品の紹介、NICOの支援情報などを掲載した機関誌です。

最近、故郷の新潟からの仕事依頼が増えています。NICOの担当の方は、シニアビジネスの専門家を探索していて私を見つけ出したところ、新潟出身だと知ったとのことです。

いろいろな地域の方から仕事のご依頼をいただきますが、やはり故郷からの依頼に対しては、恩返しの気持ちからか、いつもより力が入る傾向があります。以下に全文を掲載します。

 これからのシニアビジネスは世界に市場が広がっていく

2014年9月現在、日本の65歳以上の高齢者人口は3,296万人、高齢化率は昨年10月時点で25.1%となっており、これは世界トップの数値です。

超高齢社会となった国内では、2011年の震災半年後あたりから企業のシニアシフト活動が増えてきました。「シニアシフト」とは、人口構成のピークが若者から、高齢者へ移行する状態を指します。

徐々に高齢者中心へと人口動態が変化し、なおかつ成熟経済でモノ余りの時代を迎えたにも関わらず、実は多くの企業が大量生産、大量流通、大量販売という、高度成長期の体制をとったままでした。

それが、高齢者中心の人口構成に合わせた商品デザインやマーケティング、流通、アフターサービスが必要であることに企業がようやく気付き、シニアシフト活動を始めた訳です。

まず動いたのはコンビニ、スーパー、百貨店などの流通小売業で、それに先導される形で他業界も目を向け始めたというのが、この23年の動向といえます。

実はシニアシフトは日本だけでなく、世界中で起きています。その中で、超高齢社会で世界の先頭を行く日本が、今のうちにシニアシフトに対応した商品・サービスを練り上げておけば、新潟発、日本発でビジネスを世界に広げることも不可能ではありません。

シニア層の特徴はひとり暮らし、女性主導、ストックリッチ・フロープア

超高齢社会では、まずひとり暮らしが増えます。特に高齢者層では、女性のひとり暮らしが多くなります。70代の男女比は1280代では13となり、超高齢社会は女性主導社会であるとも言えます。

大都市と田舎では傾向が異なり、新潟県の場合、新潟市や長岡市の都市部を除くと、まだ大家族で暮らす人が多いですが、20202030年頃になると大家族世帯が減り、夫婦のみ世帯と単独世帯が増えます。

さらに団塊ジュニアが50代にさしかかり、それまでのシニアとは異なる嗜好性をもつ人が増えるので、今までとは違う商品・サービスへのニーズが高まるでしょう。

また、高齢者層は貯蓄から負債を除いた正味金融資産を他の年齢層よりも多く保有しています(図1参照)。しかし、毎月の収入は年金に頼っているため他の年齢層ほど多くなく、「ストックリッチ・フロープア」の状況にあります。

私の試算によれば、世帯主が60歳以上の全世帯の正味金融資産は、日本の国家予算の5倍弱の482兆円もありますが、それがなかなか消費には回りません。それは、将来病気で入院したり、要介護状態になったりすることへの不安から、それに備えて蓄えているためです。一方、日々の生活はフローの部分、つまり年金収入で賄っているので、日常生活では収入を超える出費は控えるようにするためです。

しかし、仮に、シニアの健康寿命をもっと伸ばし、医療・介護費が掛からないようにすれば、浮いた分を消費に回せます。そのためには、高齢者がいきいきと活躍できる場が大切です。その一番良い形が仕事を通じて世の中に関わり続けることです。仕事があると毎日の生活にリズムが出て元気になりますし、年金以外の副収入は消費する傾向にあります。企業がシニアに仕事をする機会を作れば、消費拡大にもつながるという訳です。

「変化」をきっかけにニーズは生まれる

シニアビジネスに参入する場合、どこにマーケットがあるのかをよく見極めることが大切です。例えば、2005年に誕生した女性専用フィットネス「カーブス」は、現在1,480店舗、会員数65万人を超え、会員の平均年齢は60歳です。飽和市場と言われていたフィットネス市場で成功したのは、そこに他者が気付かない需要が有ったということです。

成功のポイントは、中高年女性がフィットネスジムに抱いていた、「男性に見られたくない」「時間がかかるのは嫌」「料金が高いのは嫌」といった不満の全てを解決したことです。シニアビジネスでは、こうした不安、不満、不便といった「不」の解消がポイントになります。

シニアビジネスは大きく分けると、公的保険で賄われる医療介護の市場と自費で賄う市場があります。将来、要介護者が増加すると財源が足りなくなるので、今よりも介護予防のための商品・サービスの役割が重要になるでしょうし、国の政策もその方向を強調してくると思います。

今後は、外出が不自由な人向けの宅配サービスがさらに充実する一方、元気なシニア層がさらに健康維持するのに役立つ旅行やホビー、などに新たなマーケット機会があると思います。

シニア層のニーズが生まれるきっかけは、年齢ではなく「変化」にあります(図2参照)。まず、老眼や肌の衰えといった体の変化。次に個人のライフステージの変化。男性の場合、その代表的な大きな変化は退職です。退職すると旅行や、保険の見直し、住宅のリフォームという消費需要が生まれ、また車を小型車に買い替えるダウンサイジング消費も起きます。

さらに、家族のライフステージの変化も重要です。女性の場合、典型的なのは夫の退職で、それによって食事の準備など妻の生活パターンが変わるので消費行動も変わります。

また、子どもが家を出て夫婦のみの世帯になったり、単身世帯になったりすると、小型の電気釜や1杯用のコーヒーメーカーなどが求められるようになります。これらは家族のライフステージが変わって暮らし方が変わるから生まれるニーズであるとことを理解し、目配りすることが大切です。

超高齢社会は無限の可能性がある市場

商品やサービスを買ってもらうためには、やはりマーケティングが重要です。中小企業は団結して、マーケットを良く理解しているところ、販路を持っているところとパートナーを組むことが重要になります。

また、市場の変化や顧客の家族構成、生活環境に関する正しい知識を持って、「この人たちにはこういう課題があるはずだ。こういう提案をすると良いだろう」と考える想像力が大切です。さらに、「なぜそれが必要なのか、それがあなたにとってどんな意味があるのか」という、気づきの機会を作ることも必要です。

例えば、高齢になると、特に女性は筋肉が落ちやすく、運動していない人ですと60歳で筋肉は若い時の3分の1から半分に落ちます。そのため転倒骨折し、要介護状態になることが多い。フィットネスの場合、それを潜在顧客に伝え、「だから運動が必要で、運動すれば転びにくくなります」という、意識啓発をするコミュニケーションが消費を促す訳です。

新潟の企業は新潟だけがマーケットと思わず、海外も含めた大消費地にどう売るかを考えるべきです。そのためには、新潟にあるモノが潜在顧客にとって、どんな価値があるかを知らないといけません。売れるかどうかは、外の目で見ないと分かりにくいのです。なので、例えば首都圏在住の新潟県人のネットワークや情報発信力を活用することも有効だと思います。

超高齢社会には多くのビジネスチャンスが潜んでいます。そのチャンスをつかむためには、遠慮せず、恥ずかしがらずに、自社の商品価値を理解してくれる人を探すことが大事です。シニア市場で、フットワーク良く活躍する企業や人材が新潟から育ってほしいと思います。

NICO(にいがた産業創造機構)

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