スマートシニア・ビジネスレビュー 2015年5月15日 Vol.211

Print地方創生が叫ばれ、政府による地方自治体との「プレミアム付商品券」施策などが進められています。しかし、こうした商品券施策より、地方を舞台にした「ご当地映画製作」の方がはるかに効果的な地方創生策になると考えます。

地方創生策としての商品券施策の問題点

地方創生策としての商品券施策の第一の問題点は、各地域において商品券という金券の使用可能先の利害調整が必要になり、施策実行までに時間がかかることです。現状の施策はこれが理由で商品券発行そのものの工程が遅れ、来年3月までの予算消化が危ぶまれています。

第二の問題点は、そもそも商品券施策は形を変えた「税金バラ撒き」であり、一過性の効果しか見込めないことです。こうした「バラ撒き策」は過去に何度も実施されているものの、それによって地域が創生した、活性化したという話はほとんど聞いたことがありません。

「ご当地映画製作」が地方創生策として優れている理由

一方、地方を舞台にした「ご当地映画製作」が効果的な地方創生策になる理由は次の3つです。

(1) 映画製作の過程で地域の人同士の連帯感が強まること
(2) 外部の目線で地域を見ることにより、地域の人にも新たな魅力が発見できること
(3) 映画製作という「知的共同作業」により心のレベルでの交流が深まること

これらを具体的な事例で説明しましょう。

(1)映画製作の過程で地域の人同士の連帯感が強まること

「花蓮」(かれん)」という映画があります。この映画は「茨城の魅力を発信したい」「霞ヶ浦地域を盛り上げたい」という熱い想いで立ち上がった茨城の地元有志により制作されたものです。

karenまず、この映画では、地元出身・地元と縁のある俳優・女優が主役として参加しています。茨城県出身の歌手であり女優のキタキマユと、映画やドラマと話題作への出演が続く若手俳優・三浦貴大(三浦友和・山口百恵の息子)が主演を務め、茨城在住の女優・浦井なおも重要な役目で華を添えています。

次に、ご当地・茨城を単なるロケ地にするだけでなく、映画の物語の舞台としています。物語は、茨城県霞ヶ浦の美しい風景の中で、将来に迷う青年と日系タイ人女性、そして青年の幼馴染みの3人が織りなす淡い恋を描いたものです。

実は茨城は映画のロケ地にはよく利用されるのですが、茨城そのものが映画の物語の舞台になることが、これまでほとんどありませんでした

このような「地元を舞台にした映画製作」では、ロケーション撮影の際に地元の人がよい撮影場所を教えてくれたり、俳優・女優さん・スタッフに炊き出しや宿の提供をしてくれたり、地元の人がエキストラで出演したりと、色々な形での参加・協力機会が生まれます。

その結果、地元に住んでいたものの、これまで互いにあまり交流のなかった人どうしに新たな交流が生まれ、連帯感が高まるということがしばしば起こります。

(2)外部の目線で地域を見ることにより、地域の人にも新たな発見が得られること

hasu実は私は、この映画を観るまで茨城にレンコン畑が多数あることを全く知りませんでした。おそらく茨城で生まれ育ったか住んでいる人以外の多くの人は、私と同じレベルなのではないでしょうか。

一方、地元・茨城の多くの人にすれば、レンコン畑の風景など何の変哲もない面白くもない風景でしょう。

ところが、プロの映画監督の指示のもとでプロカメラマンが撮影した映像を見ると、その「何の変哲もない面白くもない風景」のレンコン畑と蓮(はす)の花が何と美しいことか。映画「花蓮」のタイトルは、主人公のタイ人女性の名前ですが、実は茨城・霞ヶ浦地域の代表的風景である「蓮の花」も重ねているのです。

この映画のメガホンを取っている五藤利弘監督は、私の生まれ故郷・新潟の栃尾を舞台に「モノクロームの少女」「ゆめのかよいじ」といった何本かの映画を撮っている気鋭の映画監督です。中越(ちゅうえつ)地方の栃尾は、近年大きなサイズの「栃尾あぶらげ」や清酒「景虎」などで全国に知られるようになりましたが、実は日本でも有数の豪雪地帯です。幼い頃の私は、冬の雪景色が大嫌いで、この街の風景には正直うんざりしていました。

tochio_tanadaところが、五藤監督が映画のシーンに切り取る栃尾の風景は、私の幼い頃のイメージと全く異なるものでした。

美しい棚田の風景や素朴な雁木(がんぎ)の街並み、歴史のある神社など、都市部ではすでに失われてしまった日本の風情を見事に表現していたのです。私もこれらの映画を通じて、自分が住んでいた頃には気が付かなかった栃尾の魅力を再発見したのです。

「花蓮」の撮影の際に五藤さんが「この枯れた蓮畑の風景、いいですね」と地元の人に言うと「そんな風景、どこがいいの?」と言われたそうです。しかし、でき上がった映画で観るとその地元の人も「枯れた蓮畑がこんなに美しいと思ったのは初めてだ」と言ったとのことです。

地元に長くいると、かえって地元の良さが分からないことがよくあります。外部のプロの目線で客観的に見つめると、地元の人が気付かない地元の良さが、逆に発見できるものなのです。

(3)映画製作という「知的共同作業」により心のレベルでの交流が深まること

renkonbatake外部の人と地元の人とが地方で、共同でイベント作業を行うことで、互いの信頼感や連帯感は強まります。しかし、映画製作は単なる共同作業ではなく、「知的共同作業」である点が重要です。

レンコン畑、蓮の花、地元農家の跡取り問題、といった地域の素材をもとに、日本人の父親をもつタイ人との出会い、昔馴染みの彼女との関係、自分の将来への葛藤といった物語を重ね、存在感のある俳優・女優さんによる演技による心の動き映像効果でくるめて描く

こうした複合的な営みによって、映画製作にかかわった人たちだけでなく、映画を観て何かを感じた人たち、全ての人たちに新たな化学反応を起こし、互いの結びつきを強めていくのが映画の魅力だと私は思います。

商品券のバラ撒きは一瞬で消えていきます。しかし、「ご当地映画製作」は、その地域の人どうしと地域以外の人どうしとの心のつながりを深め、その関係は長く続きます

皆さんは、どちらが優れた地方創生策だと思いますか?

なお、ご紹介した映画「花蓮」は、今週の土曜日、5月16日より東京・池袋シネマ・ロサで上映が始まります。ご興味の方は、ぜひ劇場までどうぞ。ただし、初日・日曜日は混むので、おすすめは平日の夜です。

映画「花蓮」予告編ビデオ

映画「花蓮」オフィシャルサイト