なぜ、年を取ると昔なじみのものが恋しくなるのか?

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第135回

「世代原体験」と「ノスタルジー消費」

本連載でこれまでお伝えしたように、世代特有の嗜好性と消費行動との関係を知るには、「世代原体験」が影響を及ぼす消費行動に対する理解が重要だ。

「世代原体験」とは、特定の世代が20歳頃までに共通に体験する文化である。食生活、文学、音楽、映画、漫画、テレビ番組、ファッション、スポーツ、生活環境などがある。

重要なのは、世代特有の嗜好性の多くは、この「世代原体験」で形成されることだ。20歳頃までの体験が世代原体験になる理由は、脳の発達が20歳頃までであることが理由と考えられる。

世代原体験が、齢をとってからの消費行動に影響を与えることがあり、その一つを私は「ノスタルジー消費」と呼んでいる。

05年に大ヒットした映画「ALWAYS 三丁目の夕日」は「団塊の世代以降」、91年に大ヒットしたドラマ「東京ラブストーリー」の25年後に出た続編漫画は「しらけ世代の後半」、ディスコ、なめねこが登場するY mobile のコマーシャルは、「バブル世代」のノスタルジー消費を促している。

また、NHK朝ドラの時代設定は、戦前・戦後、高度成長期を中心としており、朝にテレビを見ている昭和文化を原体験に持つ年齢層のノスタルジー消費を狙っている。

「ノスタルジー消費」の心理行動学的意味とは?

ノスタルジー消費は当該世代が40歳以降になると見られ、そこには心理行動学的背景がある。一般に20代から30代は進学、恋愛、就職、結婚など初めての体験が多く、予想が難しく夢中で取り組み、わくわく感が多い時期である。

ところが、40代を過ぎると目新しいことが減り、生活が平板化して以前のようなわくわく機会は減りがちだ。すると、その反動としてわくわく・ドキドキする刺激(ドーパミン系刺激)を求めるようになるのだ。

ここでドーパミン(dopamine)とは中枢神経系に存在する神経伝達物質の一つである。ドーパミンは、昔は快楽物質と呼ばれたが、現在は「やる気」「元気」や「求める気持ち」を生み出す役割があると考えられている。ドーパミン系刺激とは、このような「やる気」「元気」を生み出す、わくわく・ドキドキする刺激のことをいう。

「ノスタルジー消費」の特徴とその理由は?

40歳以降になって「ノスタルジー消費」として選択する刺激は、「新しいもの」より「昔なじんだ安心なもの」を求める傾向がある。これには二つの理由が考えられる。

一つは、脳機能の低下により新しいことの学習がおっくうになるためだ。一般に加齢とともに私たちの脳機能、例えば、知覚速度、推論、記憶、知識、流暢性などは衰えていく。

特に記憶できる量が減っていくと、新しいことの理解に時間がかかる。このため新しいことの学習がおっくうになる。だから、「新しいもの」より「昔なじんだ安心なもの」を求めたくなるのだ。

もう一つは、昔なじんだことは追体験効果が出やすいためだ。記憶は一般に情動を伴っている。だから、情動的な体験をするとそのことが記憶に残りやすい。また、その記憶を想起する時に情動も一緒に追体験される。

幼い頃なじんだ文化体験に触れることで、当時の記憶が呼び起こされる。記憶が呼び起こされることで、当時経験した情動も一緒に呼び起こされる。それにより、若くて元気で幸せだった当時の自分を追体験する。これが、ドーパミン系の活性化につながるのだ。

「ノスタルジー消費」を高齢者介護に活用するには?

ノスタルジー消費を理解すると高齢者への売り方だけでなく、介護の仕方にも応用が効く

ある老人ホームでは入居者向けの食事に手造りの美味しい料理を提供している。ところが、毎食4種類から選択できるにも関わらず、入居者にはあまり評判が良くなかった。理由は若い女性シェフがつける料理名にカタカナが多く、入居者がイメージをつかみにくかったのだ。このホームでは私の話を聴いてすぐにメニューを改善したとのことだ。

世代特有の嗜好性を介護に応用するには、まず顧客(入居者、利用者)の「世代原体験」を知ることである。いつ生まれて、どの世代なのか。どこで生まれ育ったのか。子供の頃の特異な体験は何か、などを把握する。

そして、その世代原体験に即したコミュニケーションと合わせて商品・サービスを提案すると快く受入れられるはずだ。

成功するシニアビジネスの教科書
シルバー産業新聞社

あわせて読みたい関連記事

タグ


このページの先頭へ

イメージ画像